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STUDIO MONAKA

2018.06.05

安尾 日向安尾 日向

あなたは「建築事務所」と聞くとどんな場所を思い浮かべますか?

 

京都を拠点に活動する建築事務所STUDIO MONAKAは、一般的な事務所のイメージとは一風変わった見た目をしています。道路に面した入り口には扉もなく、ビニール製の半透明の大きな布がピンと張られているだけ。中の灯りがぼんやりと漏れてきて、なにかをしている人影の動きが好奇心をそそります。通りがかりの人たちがいつも、興味深そうに視線を投げかけている光景が印象的。

 

カーテンのファスナーを上げて中に入ると、壁一面に描かれた絵画や、ハンモック、観葉植物が並んだ空間が現れます。この不思議な空間はSTUDIO MONAKAの「パブリックスペース」として機能しており、実は誰でも入っていい場所として公開されているのです。夕方には小学生くらいの子が遊びに来たり、イベントが開催されたり……。「事務所ってもっとクローズなものじゃないの?」という疑問がふつふつと湧いてきます。

 

何故このような空間を併設することになったのか? STUDIO MONAKAを共同主宰する岡山泰士さん、森田修平さん、そして仲本兼一郎さんの3名の建築士さんにお話を伺いました。そこから見えてきたのは、「建築」への思いと、心を注ぎこむことができる仕事を掴むために必死でもがいてきた若者たちの姿でした。

左から仲本兼一郎さん、森田修平さん、岡山泰士さん

原動力はコンプレックスだった。社会に出る直前に気づいた自分の立ち位置。

——:

建築事務所は複数人の名義で運営されることもあるかと思いますが、STUDIO MONAKAも3人での共同主催の形を取っていますよね。どういう経緯だったんですか?

森田:

僕たちは建築の専門学校出身なんですが、そこは建築学を学ぶことよりも資格を取ることが優先されているんですよね。「このままなんとなくハウスメーカーとかに就職するのかな」なんて思いながら過ごしていたんですが、建築のコンペなどには興味があったので、それができそうなゼミに入ってそこで岡山と出会いました。その中でやっぱりハウスメーカーは自分には合わないな、と思うようになって。大手ハウスメーカーって、既に完成しているものをお客さんの要望に合わせて選んでいくっていうやり方なんですよ。でも自分がやりたいのは、自分で考えて作ることだということに気づきました。

——:

専門学校と大学ではどんな違いがあるんでしょうか?

森田:

僕たちが4年生とかになってゼミに入ってから学び始めることを、大学生は1年生のころから蓄積している。だからそこには目に見えて実力の差があって、そのコンプレックスは確実にありましたね。そのことに気づいてから、その差を埋めるために必死で勉強しました。

岡山:

専門学校を出てからは二人とも一度別々の設計事務所に就職したんですが、仕事が終わってから深夜のマクドナルドに集まって、MacBookの電池がなくなるまでコンペに出すものを考えたりしましたね。大学卒の人たちと比べると、学歴もないしスキルも足りなかったので、身を立てるためには賞を取るしかないと思っていたんです。そんな生活を2年くらい続けて、「そろそろ仕事を辞めようか」と考えていたときに初めてコンペに通って、それ以降いくつか賞ももらいながら、仕事が少しずつ入るようになって今に至る、という感じです。

——:

コンプレックスが原動力になっていたんですね。では、お二人の活動に仲本さんが合流したのはどういう経緯だったんですか?

仲本:

僕は最初九州の大学に入ったんですけど、ゆるい雰囲気が嫌になって半年で辞めて、1年遅れで二人と同じ専門学校に入り直しました。そのあと設計事務所に就職したんですけど、そこがすごいスパルタで(笑)。そこで学びながら3年半勤めて、そろそろ独立しようかなと考えていたところに岡山から「手伝ってよ」と連絡が入って、結局3人でやることになりました。

——:

半年で大学辞めちゃうのすごいですね。

仲本:

生温い環境が嫌いだったんだよ(笑)。

岡山:

ドMだからだよね(笑)。

仲本:

そうかもね(笑)。だからスパルタの設計事務所も、それなりに合ってはいたんですよ。辛くてお酒もいっぱい飲んだけどね(笑)。でもそういうある意味Mっぽいところ、自分の人生を変えるために厳しい環境に身を置いてきたところは3人で共通しているところかもしれないですね。

森田:

あとは建築が好きっていうのも共通点だと思います。建築が面白いのは、つい2、3年前まではアトリエとか頭の中で考えていたものが、巨大な建築になってそこに人が入って、それが町の一部になって、時には地図にも現れてくる。自分の想像を超えたところですごいものができあがるっていう経験を何度もしてきて。それが100点満点になったことって今までもないし、生涯ないかもしれないけど、そのために必死になって考えることにだったらいくらでも時間を使いたいと思えるんですよね。多分そういうやりがいを感じないと続けられないと思う。

——:

いくらでも時間を使いたいと思えるって素敵なことですね。そういう気持ちはどこから生まれてきましたか?

岡山:

「建築をやる」って自分の意思で決めた、っていうそれだけかなと。自分で自分の人生を選択して、決定するのが大事だと思っていて、それは昔病気をしたときに「時間はそんなにない」ということを身に沁みて感じたことが大きいですね。消極的に、受け身の姿勢でいたら時間はどんどんなくなっていってしまう。自分で積極的に選択することによって時間は生まれてくるから、選択して、やるって決める。あとはできるまでやり遂げる。そこまでにどれだけの時間がかかるかは人によって差があるけど、できるまでやるか、やらないかの違いだなと。そこから逃げたらダメだと思ってます。

間違ってもいいから、選択する。選んでこそ生まれてくる新しい選択肢があることを知らない人が多いと思う。

——:

自分の道を決めかねている僕のような学生には深く刺さるお話ですね……。どうやって自分の進むべき道を決めていけばいいんでしょうか?いつも選択肢をギリギリまで持っていたくて、悩んでしまいます。

岡山:

周りにも多いんだけど、目の前に敷かれたレールに疑問を持つことなく順調に社会人になる人が多いんだよね。それで社会人になって、道が何となく定まってしまってから「自分は何も選んでなかった」って気づく。だから「選ぶ」ってことがほんとに大事なんですよ。間違ってもいいから、選択する。小さいことからでいいから、自分で選ぶっていう訓練を積んでいくことが大切かなと思います。選ぶことは可能性を狭めることじゃなくて、選んでこそ生まれてくる新しい選択肢があるから、可能性を広げることになると僕は考えていますね。

——:

選ぶって難しいというか、怖いことじゃないですか?

仲本:

僕は全然何の自信もない選択があってもいいと思ってます。僕がいま建築やってるのも、3人で事務所やってるのも、100パーセントの自信があってやってることではないし、どうなるかわからないけど、おもしろそうだなと思ってやってみた。それで今うまくいってるし楽しいし、それはそれでよかったなと。自信なんてなくてもまずはやってみてから判断したらいいんじゃないでしょうか。

——:

なるほど……。自分で選ぶ。そのためにまずは気になるところに飛び込んでみる、ですか。

岡山:

うん、とりあえず飛び込んでみるっていうのは大事だと思いますよ。僕なんかちょっと仲良くなった作家さんとかがいて、「また今度家に遊びにおいでよ」って言われたら、本当に行っちゃう(笑)。それはよくやってますね。

——:

本当に飛び込んじゃうんですね(笑)。

岡山:

アンテナを張って、それに引っかかったものがあれば実際に動いてみる。そうやっているとすごく魅力的な人たちと出会えるんですよ。出会った人のために働きたいと思うし、その人たちと一緒に仕事を作っていこうと思える。仕事をもらうっていう考え方じゃなくて、一緒に作ろうって。自分の持っているものと相手が持っているものを組み合わせたら、もっとおもしろい未来が一緒に作れるんじゃないかと思って相手に投げかけます。同じ立ち位置で、同じパワーバランスで、一緒に価値を作っていく。そうやって見つける道もあると思います。

——:

仕事をもらうんじゃなくて、一緒に作る。すごくいい循環が生まれそうですね。

愛着の湧く、使う人それぞれの営みを受け入れる空間

——:

みなさんがお仕事をする際に大切にされていることは何ですか。たとえば、どんな時に「いい仕事したな」「いいものを作ったな」と感じますか?

岡山:

人に使われて、人との関係の中でいい環境を作れたら成功だと思ってます。完全にデザインとして成立しているものだけが正解かというとそうではなくて、美しくてデザインとしては100点満点だけど人に使われていないものよりは、オーナーの要素も含んだ豊かな場ができあがる方が嬉しい。

仲本:

愛着が湧くものが作りたいという思いはずっとありますね。使う人が愛着を持てるような、その人だけの、その場所だけのものが作れるとすごく幸せ。今作っている家がまさにそうなりそうで嬉しいです。

——:

愛着ってすごくいい言葉ですね。森田さんはどうですか?

森田:

僕は人がいて成立する空間であることに加えて、実際出来上がった建築が、設計段階で想定していなかったようなさらなる良さを持っていたり、新しい発見があったり、考えてもみなかった使われ方をされていて、それがすごくいい使い方だったりその人らしさが出ているのを見ると、よかったなと感じますね。

岡山:

設計のときに、「使われ方の余地」を作っておくことが大切だよね。最初の頃は「ここにはテレビを置いて、ここにはこれを置く」っていうのを完全に固定して、その完成度を求めている自分がいたけれど、ある時にそれは豊かさじゃないということに気づいて。人の営みを受け入れられる許容力のある空間とは何か、ということを考えるようになりました。それができてこそいい建築だなと。オーナーが自分の生活をその場所にインストールできてこそ豊かな空間になるというか。それを追求するのがすごくおもしろいなと思います。

——:

使われ方の余地、ですか。MONAKAの最大の特徴のひとつである「パブリックスペース」にも繋がるお話だと思います。この空間の存在が、私たちが一般的な建築事務所に抱いているイメージからするととてもユニークに感じるのですが、どうしてこのような開放スペースを作ったんですか?

岡山:

メンバーの中でいうと、僕が「まちづくり」に興味があったっていうのが一番大きいかな。建物を建てるだけが建築の完成ではないと思っていたから、学生時代からコミュニティデザインをやっている事務所に勉強しに行っていました。でもやっぱり主軸としては建築設計があるので、それをやりながら社会とつながっていけるような場所を持つことにしました。いまはここでいろんなイベントとかをして実験しながら遊んでいます。

——:

そもそも「まちづくり」に興味を持ったきっかけはありますか?

岡山:

建築があって、そこに人がいない、使われていないという状況を見たときに、やっぱり建築っていうのは人に使われて、人の営みがあって初めて建築だなという気持ちに気づいたんですよね。

——:

だから誰でも使えるスペースを作ったんですね。

「チームとして」自分たちらしさを探していく。

——:

それでは、仕事をする上で「メンバー」に求めることって何ですか?

岡山:

責任を持って仕事をやり遂げてくれるっていう信頼かな。メンバーは全員好みも違うし、主観的なところで絶対にズレも起こるけど、根底には「こいつらとなら一緒に走りきれるだろう」っていう信頼感がありますね。

仲本:

そもそも一緒なところを探す方が難しいよね(笑)。

森田:

それを探す必要もないよね。むしろ自分にないものを持ってる人とやった方がうまくいく。それはやってみてわかることだけど、自分には岡山みたいにいろんな人とコミュニケーションをとって、新しい人脈を作って仕事を見つけてくることはできないし、仲本くんみたいに現場の場作りをしてみんなをまとめることも得意ではないから。その分僕は後ろでしっかり守ろうと思ってる。そういう役割分担はありますね。

岡山:

建築家にもいろんなタイプがいて、安藤忠雄みたいに一人のカリスマが全てを作り上げるタイプもいるけど、僕たちは3人のチームワークの中でアウトプットしていくっていうのがベースにありますね。それは他のスタッフにも言えることで、僕たちのやりたいアウトプットのための一部じゃなくて、一緒にアウトプットを作り上げていくっていう感覚ですね。

——:

その中で全員で同じ方向を向いている感覚はあるんですか?

仲本:

それこそ、良いものを作りたいっていう方向かな。

岡山:

それは大きいと思う。でも逆に僕たちのこれからの課題として、建築事務所としての個性をどうやって出していくかっていうのはありますね。20代はがむしゃらにどんな仕事にも打ち込んできたけど、次の30代では、それを踏まえて自分たちらしさをどんどん磨いていかないとな、と考えています。どういう方向に進んでいくのかは、まだこの3人の中でも共通の言葉としてはなんとなくしか共有できていないところもありますが、みんなで進んでいきたいですね。

——<それは人生 私の人生 誰のものでもない>。CMでもおなじみのあの曲のフレーズが思い出されます。誰のものでもない自分だけの人生を、自分で選択し、決定し、やり遂げる。それが大切だとわかってはいるけれど、足踏みしたままでいる。そんな人もいるのではないでしょうか。かくいう僕もそうなのです。誰しも選ぶことに怖さを感じるでしょう。でも、僕はこのインタビューを終えて「とりあえずもっと人と会って話をしてみよう」と思いました。この怖さは決して悪いものではない。だけどとにかく飛び込んでみないとわからないこともたくさんあるんだと、改めて実感したインタビューとなりました。

 

これからのSTUDIO MONAKAは一体どんな空間を作っていくのか。アンテナもその活動を追っていきたいと思います。

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