COLUMN

俺の人生、三種の神器 -松原芽未 ②BRUTUS編-

2020.08.03

松原 芽未松原 芽未

▼俺の人生、三種の神器とは?
人生の転換期には、必ず何かしらきっかけとなる「人・もの・こと」があるはずです。そのきっかけって、その当時は気づけないけれども、振り返ると「あれが転機だった!」といったことはありませんか?そんな人生の転機についてアンテナ編集部で考えてみることにしました。それがこの「俺の人生、三種の神器」。
折角なのでもっとアンテナ編集部員ひとりひとりのことを知ってもらいたい!そんな気持ちも込めたコラムです。これから編集部員が毎週月曜日に当番制でコラムを更新していきます。どうぞお楽しみに!

「人間復活。」「もっと光を!」「チューショーですよ!」……これ、何につけられたキャッチコピーかわかる方はいらっしゃるだろうか。正解は、西洋美術の区分や運動を表したもの。「人間復活。」はルネサンス、「もっと光を!」は印象派、「チューショーですよ!」は抽象美術にそれぞれつけられている。これが載ったBRUTUSを手に取った時、私はまさに西洋美術史を学ぶ大学生だった。そして、このコピーに度肝を抜かれた私は、美術への造詣を深め、学業に邁進した……のではなく、BRUTUSの沼に足を踏み入れてしまった。そのまま今もずぶずぶと浸かっている。

みんなの『西洋美術総まとめ。』

BRUTUS『西洋美術総まとめ。』No.730、2012年5月1日号(マガジンハウス)

BRUTUSに驚いたのは、単にコピーが面白かったからではない。前述の通り、美術史を勉強できる大学に通っていたので、どちらかというと美術が好きな部類だったと思う。でも、美術館の厳かな空気を感じていたからか、美術は格式高いものというイメージが強かった。だから、カジュアルなコピーがついていることが意外で新鮮だった。「えっ美術ってこんな風に見せちゃっていいんですか?」と。

 

ちなみに、雑誌の作りは古代ギリシャ・ローマから第一次大戦後の美術までを順に追っていくシンプルな構成だ。そこにもし「写実から印象へ。光を捉えた画家たちの挑戦」(今適当につけました)など、かしこまったコピーが入っていたら、もともと美術が好きな人以外が手に取るだろうか。敷居が高いテーマだからこそ、コピーの意外性がフックとなって、「美術ってとっつきやすいかも?」と思える人が増える。美術好きのための『西洋美術総まとめ。』ではなく、“みんなの” 『西洋美術総まとめ。』になるのだ。

 

コピー一つで見え方が変わる面白さにしびれてから、BRUTUSを定期的にチェックするようになると、その魅力にどんどんはまっていった。毎号は買えなかったけど必ず立ち読みしていたし(すみません)、2ヶ月に一回くらいのペースで買っていた。知っていることはもっと深く面白く、知らないことは優しくカジュアルに教えてくれる、博学な先輩のような存在だった。

『本特集2014』があれば、『人生だいたい大丈夫。』

「お気に入りのBRUTUSを1冊だけ選んでください」と言われたら、『西洋美術総まとめ。』と迷う一冊が、『本特集2014 この本があれば、人生だいたい大丈夫。』だ。BRUTUSは年末に本特集を出すのが恒例で、ここ数年は「危険な読書」というテーマで人生を変えてしまうような本を紹介している。「危険な読書」シリーズも面白いけど、私の中のベスト本特集はやっぱり2014年版なのである。

BRUTUS『本特集2014 この本があれば、人生だいたい大丈夫。』No.769、2014年1月1日・15日号(マガジンハウス)

私はこの号を、本特集の服をまとった人間賛歌だと思っている。戌井昭人さんが破天荒な作家たちをおすすめする「就職しなくても大丈夫。」、結婚歴5回の高橋源一郎さんと娘の橋本麻里さんの対談「恋愛や結婚に何度失敗したって大丈夫。」、川田十夢さんが時代を先取りした作品を紹介する「ハミ出してたって大丈夫。」。一見目を疑うような見出しでも、読んでいくうちになんとかなりそうな気になる。「ハミ出“せば”大丈夫。」ではなく、「ハミ出“してたって”大丈夫。」というところが重要なのだ。ハミ出してたっていいし、ハミ出さなくてもいい。本を通してさまざまな生き方を肯定するメッセージが、この特集に込められている。知識を与えてくれるだけではない。悩んだ時に勇気づけてくれるのもまたBRUTUSだった。

カルチャーと自分をつなぐ扉

そのうちPOPEYEも読むようになり、カルチャー誌への興味は広がっていった。食に興味がわいてRiCEを読んでみたり、日々の暮らしを見直したくて&Premiumを手に取ったり、本屋さんでもコンビニでも気がつくとよく雑誌コーナーをうろうろしている。

 

私にとって雑誌は、カルチャーと自分をつなげてくれる扉だ。開くだけで、その分野の入り口に立つことができる。専門書を買うハードルが高いジャンルだって雑誌なら気軽に読めるし、カルチャー誌は1冊1テーマのことが多いから、じっくり読めばどんどん詳しくなれる。それに、読むだけが雑誌ではない。載っていることを体験できるのも雑誌の面白さ。読むと街に飛び出したくなるのは、現実の私とカルチャーが地続きであることを教えてくれるからだ。

 

実際、雑誌で見たお店を探してさまざまなところに行った。下北沢のトロワ・シャンブルで「柄本明さんもここにくるのか~」としみじみしながら飲んだニレブレンドも、当時渋谷にあったカレーハウス チリチリのおいしすぎて放心状態になるミックスカレーも、少し背伸びして予約した京都の朝食喜心で食べた炊き立てのお米の繊細な舌触りも、すべて雑誌が教えてくれたことだ(なぜか食べ物ばかりですが)。

 

大人になって、もう昔のように雑誌に載っていることすべてが正解だとは思わなくなった。あんなに面白いと思って読んでいた記事が、今読み返すと時代にそぐわなかったり、少し偏った内容だったりして、鵜呑みにするのは良くないと反省することもある。それでも、雑誌を開く時の高揚感はまだまだ収まりそうにない。だって雑誌は、純粋な「知る楽しさ」を思い出させてくれるから。これからもいろんな扉を開こう。未知のカルチャーと出会おう。そんな思いで、今日も私は雑誌を読んでいる。

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