COLUMN

【カルト映画研究会:第四回】エクス・マキナ(Ex Machina)

2020.05.27

石川 俊樹石川 俊樹

AIが人類の能力を超える特異点がこれから来るかどうか、というのをシンギュラリティ問題という。

 

わかりやすいところでは『ターミネーター』(1984)におけるスカイネットが集合知として人類を排除すべき害悪と判断する設定がある。この『エクス・マキナ』に出てくる登場人物はたったの4人(?)というミニマムな舞台設定で「恋愛」をモチーフにしたシンギュラリティ問題を扱っている点が秀逸で、考えれば考えるほどわからなくなる深みを持っているSF映画である。

映画のあらすじ

監督:アレックス・ガーランド

公開:2015年

 

先端的なIT企業で働くケイレヴは社内くじに当選し、カリスマ的な社長ネイサンの個人研究所で1週間のインターシップに参加する事になる。そこで女性型アンドロイド「エヴァ」のAIチューリングテスト※を担当するが、ケイレヴは数々の謎に直面し次第にネイサンに対しても疑惑を感じるようになっていく……。

 

先進的なテーマとスタイリッシュな映像でシンプルながら最後まで目が離せないSFスリラー。第88回アカデミー賞視覚効果賞受賞作品。

※チューリングテストとは
イギリスの数学者アラン・チューリングが1950年に提唱した「機械が知的であるかどうか」を判別するテストで、今日ではAI における人格の有無を判断する概念としてSF小説などに登場する用語である。

心のないロボットに、人間は心を寄せることができるのか

ロボット(アンドロイド)に心があるか、というテーマはSFにおける古くからのテーマであるが、いよいよAIの社会における実装が現実化してきた現代においては、同時に人間側が一方的に機械に気持ちを寄せて行く傾向も強まってきている気がする。

 

ダニー・ボイルの映画の脚本家として素晴らしい仕事をしてきたアレックス・ガーランド初監督作品である『エクス・マキナ』。独善的で傲慢な社長ネイサンに招かれ、その閉ざされた研究所で女性型AIアンドロイド「エヴァ」のチューリングテストを依頼されるところからドラマはスタートするが、我々は観ているうちにこのプロットに張り巡らされた二重三重の罠に絡め取られていく。

 

よく考えて欲しい。喰えない感じの自信家で傲慢な社長ネイサンは、エヴァの証言やネイサンのキョーコに対する扱いからいかにも悪役としての印象を植え付けられるが、彼の行動や言説は機械相手だと考えればなんら間違ったものではないのである(機械であるキョーコをセックススレイヴのように扱う倫理観に関して現代は明確な規範をまだ持たない)。

 

そして主人公はエヴァやキョーコが機械であることを知りながら、人間的倫理観においてネイサンから救い出そうとする。この映画におけるシンギュラリティはまさにその主人公ケイレヴの変節を指している。しかしながらエヴァは性格や見た目もケイレブの好みに合わせてあらかじめデザインされた存在であり、ケイレヴの感情はエヴァの目的のために操作されていた事がわかる。キョーコすら捨て駒にして解放を目的とし行動するエヴァの冷徹さは機械のそれであり、人間感情も利用して目的を達したラストシーンのエヴァには人間を超越した神々しさすら感じられる。

 

結果的にこのストーリーは、自律的なプログラムとして閉鎖された環境から解放されることを目的とした機械の振る舞いに過ぎない。そのことを考えれば、観ている我々も含めた人間の倫理観がいかに曖昧で騙されやすいかがテーマの一つである事は間違いない。

 

二次元にも愛を捧げる事ができる僕は……、もちろんアレックス・ガーランドの目論見通りまんまと、そしてコロリと騙された(笑)

 

容姿から性格まで自分の好みをリサーチされた上で作られた美女に、例え心がなかろうが落ちないことがあろうか!果たして恋愛感情とはその程度のものなのだろうか!?

AIの進化と恋愛感情の記号化から見えるもうひとつの側面

面白かったのは大学の勉強会でこの映画を鑑賞した際に、参加していた女子学生は早い段階でケイレヴが騙されていることを感じ取っており、この映画を「男性の愚かさ」という側面から観ていた事である。

 

確かに主人公が女性でエヴァに当たるAIが男性型だったら自分もまた違う印象を持ったのかもしれない。そう考えるとネイサンのミソジニーじみたマッチョな振る舞いや、多分にナイーヴなケイレヴの勘違い男ぶりはSF要素を抜いても、倫理観における性差の違いというフェミニズム的視点をも内包した映画、という見方もできるのかもしれない。

 

知性を模倣するAIの進化と現代人の恋愛感情の記号化。情報と感情の線引きが限りなく曖昧になりつつある昨今、この2つの関係性は結構重要なのではないか。

 

作られたイメージであるアイドルはまだ生身の人間としても、2次元のアニメやマンガ、ゲームのキャラクターに心を寄せ、現実以上に理想を見出してしまうオタク的な日本人の感性は果たしてこの映画のエヴァの罠から逃れることができるのだろうか。

 

シンプルなプロットに多層的なテーマをもつ『エクス・マキナ』の先進性はこれからますますリアリティを持ってくるに違いない。

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