INTERVIEW

【with your eyes】番外編:Allan Dransfield(アラン・ドランスフィルド)

2020.02.10

堤 大樹堤 大樹

フライターグ公式サイトにはいくつかの記事が掲載されている。それは会社の取り組みを紹介するものや、スタッフを紹介するものであったり種類はさまざまだが、どれも気負ったところがなく、ブランディングと言うよりは友達に「今日あった楽しいことを話す」ようなとても自然なスタイルで発信をしていることがうかがえる。

 

その中でひときわ異彩を放っているひとつが、今回取材を行った「ハピネス執行副社長」のAllan Dransfield(アラン・ドランスフィルド)の記事だろう。役割は世界中の人を幸せにすること。そのためにカメラを片手に世界中を巡っているらしい。究極的にはすべての仕事がそうであったとしても、こんな仕事は聞いたことがない。イタリアでカーデザイナーとしてキャリアをスタートした彼が、どのように今にいたったのかを『with your eyes』の番外編として伺うとともに、彼の活動に同行してみた。

同じ時間を過ごしていたはずなのに、あの人が撮る写真はなにかが違う。そんな経験は誰しもにあるはずです。写真は「その人の生き方そのものだ」という言葉があるように、「経験・興味・視点」がレンズを通して露わになるのが面白いところ。

 

アンテナでは『with your eyes』と題して、西日本を拠点に活動するフォトグラファーのインタビューを行う連載をスタート。誰もが写真を気軽に発信できる時代だからこそ、「記録に留まらない、写真のあり方とはなにか」を、彼らのキャリアを掘り下げることで模索します。

アラン・ドランスフィルド:プロフィール

ポーランドのウッチ在住。北イングランドの田舎出身で、コベントリー大学にてカーデザインを専攻。大学卒業後はイタリアでボルボ・トラックのデザインチームに10年間務める。とても小さなものからかなり大きなもの(例えばハピネス)が成り立つと確信しており、現在は昨年25周年を向かえたフライターグを記念して一般公募されたハピネス執行副社長として一連の社会的実験を行い、普遍的な幸せのきまりを探求している。

 

https://www.instagram.com/donthurry_behappy/?hl=ja

カーデザイナー時代に見つけた、コラボレーションの本質

ーー:

はじめまして。フライターグの記事によると、あなたの役職は「ハピネス執行役員」で、主な仕事は「ジャンプしている人を撮ること」なんですよね?

アラン・ドランスフィルド(以下:アラン):

ジャンプはひとつのプロジェクトの例で、人々をハッピーにするために一瞬を意識する体験を提供するのが私の役割です。ジャンプしている時に、明日の仕事のことを考える人はいないでしょう?その一瞬に集中しているはず。それにジャンプをしている時は笑顔になる。だからその瞬間を写真に収めているんです。

ーー:

写真を撮る時にどういう人を選んでいるんでしょうか。

アラン:

ランダムに選んでいますよ。私たちの目的はジャンプをしてもらうことではなく「人々が一瞬を生きるための手助けをする」こと。声をかけた人達には「何があなたを幸せにしますか?」と必ず質問して撮った写真を渡しているんです。何年後かにその写真を見たら、あの瞬間、自分がハッピーな時間を過ごしていたことを思い出してもらえるので。

アラン:

これから20カ国で撮りためた写真の展示会を開催する予定ですが、作品を見たら世界中のどこでも幸せに感じることは、友人や家族など共通していることがわかると思いますよ。写真以外にも、皆さんに子どもの気持ちに戻ってもらえるようなゲームを考えています。子ども達は瞬間を生きるプロですから、学ぶべきポイントがあります。

ーー:

アランは元々イタリアでカーデザインをしていたと拝見しました。なぜ最初にその仕事を選んだのですか?

アラン:

まず何かを創り出すことへの情熱がとても強くありましたし、外国で働きたかったのです。そんな時にイタリアで仕事を得る機会に恵まれたので「やってみよう」と思ったことがきっかけです。最初は1年だけの予定が結果的には10年働きました。新しい挑戦やプロジェクト、友人達との出会いなどいつも次から次へと目まぐるい日々でしたが、全てかけがえのない経験です。

 

一方で、物を創り出すことについては、自分のスキルがある一定の地点に達してしまったことを感じました。困難を伴う経験が減るにつれ、成長を感じられなくなっていたんです。工業デザインには制約もありますから、自分自身が表現できることには限界があります。でも自分から湧き出てくるアイディアはたくさんあって、映像や写真、音楽もやってみたかったし旅もしたかった。だからイタリアに来て9年が経った時に、仕事を辞めて世界に飛び出すことを決断しました。

ーー:

車などの工業的なプロダクトには小さい頃から興味があったのでしょうか。

アラン:

デザインならばどんなことでも興味がありました。学生の頃は建築を勉強していましたし、その後はプロダクトやグラフィックデザインに関心を持つようになり、常に何かを制作していたんです。私はあまり興味はなかったのですが、車が好きな父親からカーデザイナーの仕事を薦められたので、それも悪くないなと思いその道に進みました。

 

車はあらゆる技術を総合的に兼ね備えた製品です。人々の憧れでもありますが、車体のデザインや使われているテクノロジーなど、企業ブランドに沿った様々なことを考慮してデザインを考えなければなりません。自分自身を完全に表現することができない状況だったので、気がつくともっと自由な制作をしたいと考えるようになりました。

ーー:

アランの言う「自由な制作」に大切なこととはどのようなものでしょうか。

アラン:

私は物の種類にかかわらず、全ての制作過程には関連性があると強く思っています。音楽と彫刻は関連性のない全くの別物だと思いますか?構図やバランスを理解すれば、応用できるものがあるんです。それだけではなく、誰かとコラボレーションすることも自由に物を創り出すためには大切な作業だと思います。私の今までのキャリアを振り返ってみると、常にコラボレーションを求めていました。

ーー:

どうしてそのように考えるようになったのですか?

アラン:

物事を視覚的に考えるクリエイティブな人達が好きなんです。人の作品からインスピレーションを受けて自分の作品にも融合させたい。先程も言いましたが、色や形、音や動きなどに共通している構図を捉えながら物を見ることが好きで。コラボレーションによって、自分では想定していなかった方向に進んだり、導き出せなかった結論に至ることがあります。時にはクレイジーな考えが予想もしない結果をもたらせてくれることもある。

 

ユナイテッドヌードというヨーロッパのシューズメーカーの話をしていいですか?カーデザインの経験が全くない彼らが、驚くほど素晴らしいシンプルなコンセプトカーをデザインしたことがあるんです。カーデザインの常識やルールに従わないデザインは、クレイジーでもあり私達を驚かせました。彼らはそもそもカーデザインの常識やルールを知らないのだから、ルールなんて気にもしていなかった。経験がないからこそ自由な発想が生まれ、最高の結果をもたらした。これこそまさにコラボレーションの本質だと思いました。そういった体験をしたくなったんです。

多くの人は、メディアやテレビの影響で行ったことがない場所でも知り尽くした気になってしまっている

ーー:

カーデザインを辞めた後の話も伺ってもいいですか?

アラン:

イタリアを離れることが決まった時には、友達を集めてマーケットで最後のパーティーを開きました。その時に、思い立ってマーケットで、お酒や音楽を楽しみながら自分の持っていた物を全て売ろうと決めたんです。最後には ”Everything Free” と書いたプレートを掲げて人を呼び込みました。「お金を払う」と言う人もいましたが、とにかく早く全ての物を片付けたかったのでタダで持って帰ってもらいました。僕の帽子とズボンとバッグを着て帰った人もいましたね。あれはおもしろかったです。

ーー:

どうしてそんな思い切ったことができたんでしょうか。

アラン:

自分が必要と思って所有していた物を全て手放すことで自由を感じたかったからでしょうか。自分の持ち物が世界の別の人のもとへ渡り、再利用されることは素晴らしいことだと感じたんです。そうしてイタリアを離れた後に、世界中を旅して、見たことがない程に美しい場所、その土地で暮らす人々の生活の背景にあるストーリーを写真を通して伝えることに魅了されていきました。

ーー:

人々の生活の背景にあるストーリーですか?

アラン:

例えばインドやロシアなどは、行く前と行った後では印象が全く変わりました。私自身が感じた現地のリアルなストーリーを、写真を通してその土地に行ったことのない人々にも伝えたかったのです。イギリス人の多くは、アフリカと聞けば貧しくて何もない場所、インドは汚い、ロシア人はフレンドリーではないと考えるでしょう。多くの人々はメディアやテレビの映像に影響を受けて、行ったことがない場所でも知り尽くした気になってしまっていると思います。でも実際にそういった場所を訪れて、人々や都市のエネルギーを感じてみると印象は全く変わってしまうものです。私はその体験に魅せられ、2年間旅をして写真を撮り続けました。

ーー:

世界中を旅して印象に残っているエピソードはありますか?

アラン:

ヒッチハイクを通じて、たくさんの経験をしました。予測できないことの連続で面白い人達との出会いがあるんです。そもそも知らない誰かのために車を止めて乗せてくれるだけで特別な人達ですから(笑)。

 

特にアルメニアからイギリスまで5週間ヒッチハイクだけで移動した時の体験が印象深いですね。アルメニア人のある男性が車に乗せてくれたのですが、お願いした場所ではなく彼の住む村へ連れて行かれたんです。彼の友達にも会って一緒にバーベキューをしたり、2日間滞在しました。最後は彼の娘さんが電車のチケットまで買って、駅まで見送りに来てくれて。そもそも自分はヒッチハイクをしていただけなのに、世界に飛び込むことで、世界が暖かく迎えてくれることを実感する貴重な体験になりました。

ーー:

いろいろな表現がある中で、どうして旅と写真を選んだのでしょうか。

アラン:

世界中を旅することで、異文化を学んで、自分自身についてももっと知りたかったからです。元々イメージや画像の構成に興味がありましたし、写真を手段としてストーリーを伝えたいと思ったことは自然な流れでした。一方で、写真での表現には限界があることも感じています。それからは、動きを捉えることができる映像や、最近では音にも関心をもっています。

ーー:

音に興味をもったきっかけはありますか?

アラン:

ある日ジャングルに行った時、サイレンのような大きな不思議な音を耳にしたのですが、その正体が小さな昆虫の鳴き声だったのです。どうしたら小さな昆虫からあれだけ大きな鳴き声が出せるのか興味をもったのがきっかけです。それをきっかけにサウンドレコーダーを購入して、常に旅先に携帯して録音を続けてきました。その土地を訪れたことがない人々にも日常の暮らしを想像してもらえるように、旅先では街中やマーケットなど日常の音を録音しています。通常人間は、聴覚よりも視覚で物事を理解しようとするので、目で見たことのほうが耳で聞くことよりも影響を与えます。でもそこに面白さを感じていて、様々な音を探究しているところです。

ーー:

音の探求から得たものはありますか?

アラン:

私が世界中から集めてきた音を元にして、大阪のDJとコラボレーションして2曲作品を作りました。映像撮影とジャケットデザインを友人が担当しレコードを発売する予定です。コラボレーションからひとつの作品を作りだす素晴らしい実例になりました。

ーー:

アランは物を作る以上に物作りを介して人とコラボレーションやコミュニケーションをすることに興味があるように感じます。

アラン:

はい、どこに向かうか予測できない制作の工程段階が好きです。工業デザインの世界では、使える原料や予算などが予め決まっているため、完成品をある程度予測することができます。一方、コラボレーションでは完成品が予測できない。そこに楽しさを感じています。

ポジティブな考え方を共有することが、私のライフワークであり進むべき道

ーー:

どのような体験があなたにそのようなことを気付かせたのですか。

アラン:

ある日本人エンジニアの話にとても影響を受けました。彼は経験豊富で責任のある立場の土木技師でしたが、寿司好きが高じて長年のキャリアを捨てて寿司職人になり、ついには自分の店まで持つようになったそうです。寿司職人としても成功を収めた後に、あるイベントで氷の彫刻を目にし、それからは氷彫刻の魅力に取り憑かれ、今では日本を代表する彫刻家のひとりにまでなった。自分の情熱のまま人生を突き進む彼の話を聞いた時にはとても刺激を受けました。

ーー:

好奇心に従って、キャリアをそれだけ変更するのはすごいですね。

アラン:

私も彼と同じ信念を持っています。何か行動を起こす時には、自分の前にある道をただ進むこと。心配や不安はありません。私のキャリアはカーデザインから始まり、その経験が写真や旅に没頭する時間を与えてくれました。そして今は前から好きだったフライターグでの仕事に繋がっている。この先にもどんな道が開かれているのかとても楽しみです。

ーー:

これはマーカス(フライターグの創業者のひとり)にも同じことを尋ねたのですが、本当に不安になることはないのですか?

アラン:

もちろん浮き沈みはありますし、時には問題も起こる。でもいつもポジティブな側面を見つけるように心がけています。もし職を失ったとしても私なら「Yeah! I have no job! Let’s have some fun!」と考えるでしょうね。

ーー:

なかなかそこまで思い切ることができる人は多くないでしょうね(笑)。

アラン:

このポジティブな考え方を共有することが、私のライフワークであり進むべき道だと思っています。だからジャンピングプロジェクトを始めました。ジャンプをする時の一瞬の、正直で純粋な表情にはエゴがなく、空中では誰しもが平等です。だから、世界中の様々な場所でその瞬間を写真に収め続けています。撮りためた作品で写真集を制作したのですが、写真を見た人達に、地球上には文化の異なる人々が住んでいるけれど、皆の根底は同じであることを少しでも理解してもらえたらと願っています。

ーー:

どうしてそのような思いを持つようにいたったのですか?

アラン:

それがわかれば、お互いに尊敬しあえて世界中で起こる問題が減ると考えているからです。多くの人は誰かに行動を強制されると聞き入れようとしない。だからジャンピングプロジェクトを通して、自分で考えることを促しているのです。自分で考た方がより深く理解し、影響を受ける。私達がしたいことは、人々に考えるためのきっかけを与えることです。

ーー:

グラフィック、写真、プロダクトなど色んな表現の方法を試してきたアランならではの方法だと思いました。

アラン:

はい。私の今までの人生で経験したことの全てが今の道に繋がっていると思いますし、これからも学び続けていきたいです。

ーー:

世界中を周ったアランですが、次に行きたい場所や見たい物はなんですか。

アラン:

世界中のことを理解するためには、死ぬまでには少なくとも世界の半分は見てみたい。いつか孫に世界を旅した時の話を聞かせたいのです。アフリカの中部や東側にはまだ行っていないし、中米にも行きたい。でもそういった場所へはいずれ行くだろうから、もっと遠く離れた、何千年も生活習慣を変えずに暮らしている人々が住む場所がいいかもしれないですね。例えば、カナダ北部で古い伝統を守って生活しているイヌイットとか。

ーー:

ありがとうございました。最後に、あなたの人生の旅は今後どこに向かうのでしょうか。

アラン:

さあ、わかりませんね。イギリスに20年、イタリアにも10年住みました。今は旅を続けていますが、予想がつなかい未来が楽しみです。小さな島に行き着くかもしれないし、大都市に住むかもしれない。何が起こるかわからないけど、終着点がどこになろうともわくわくしています。

お気に入りの一枚

「たくさんあって選べない」と送られてきたいくつかの写真、せっかくのなのですべてを掲載します。世界を回る中で本当にたくさんの景色を見てきたのだな、と感じさせる彼の記憶の断片たち。

一緒にフォトウォークをしながら撮った写真

今回のフォトウォークは、彼の活動「Don’t hurry, Be happy」の一環として実施。街行く人に声をかけ、ジャンプする人の写真を撮ってあるいた。一見すると強面のお兄さんも、ジャンプするときはどこか楽しそうで、彼が言う「今を楽しむ」ということが垣間見えた瞬間だった。

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