INTERVIEW

台湾インディーシーンの最前線を走り続けるSKIP SKIP BEN BENこと林以樂、初の本名名義となった新譜『L.O.T』リリース・インタビュー

2019.11.27

堤 大樹堤 大樹

私が林以樂に出会ったのは2014年、3月11日のnanoの周年イベントだった。自身のバンドAmia Calvaと鹿児島の水中ブランコでのスリーマンイベント。まさかこんなにも長い付き合いになるとは思ってもみなかった。

 

当時、彼女はソロプロジェクトであるSKIP SKIP BEN BEN ※1 で活動をしていて、日本を横断するツアーの真っ最中だった。その後も精力的にリリースやツアーをアジア中で重ねていたが、2017年には台湾インディーポップの伝説的なバンドだった雀班(Freckles)※2 での活動も再開。そして二年後の2019年には名義を変えての今作のリリースである。一体あの小さな身体のどこからそのエネルギーが湧いてくるのだろう、と思わせるほどその勢いは増している。

※1:SKIP SKIP BEN BEN
2010年から活動している林以樂のソロプロジェクト。2010-2013年は北京で活動していた。これまでに相対性理論Dr. Itokenや、Ba. 吉田匡を含む、総勢15人以上のサポートメンバーが参加し、様々な形態で音源をリリース、ライブを行っている。

※2:雀班(Freckles)
2000年代に1枚のアルバムといくつかのEPを世に出し解散した、台湾では伝説的存在のインディ・ポップ・バンド。2017年に再結成し、およそ10年ぶり2作目となる新作を世に送り出した。

上記だけ見れば一見華々しく見える彼女のキャリアだが、その実、話を聞いていると人一倍苦労も経験していることがわかる。ミュージックビデオなどは大体が自作だし、アジアツアーなどと言えば聞こえはいいが、その実態は過酷なスケジュール。心身の負担は間違いなく大きい。それでも(それ故にかもしれない)、そんなことは微塵も感じさせない、ステージ上での彼女の真摯な姿が私にはたまらなく魅力的にうつる。

 

そんな彼女のことを日本のインディーファンにももっと伝えたく、満を持しての林以樂名義の新作EP『L.O.T』のリリースに合わせて、インタビューを行った。

その場で音楽がどのようにインフルエンスするか考えてる

ーー:

久しぶり、忙しいアジアツアーの合間にありがとう。先日出演した全感覚祭の東京はどうだった?

林以樂:

すごかった。GEZANのライブを見たのはじめてだったけど、とても衝撃的だった。3日経った今もそのショックを引きずってるよ。

ーー:

濃い体験だったんだね。

林以樂:

そう、豚骨ラーメンみたいな!

ーー:

ドロドロのやつだね(笑)。今回インタビューに時間をもらったのは、新しいEPについて紹介したかったのがひとつと、活動スタイルの変化がどう楽曲に影響しているのかについて聞きたかったから。最初に、今までバンドやソロでの活動を重ねてきた中で、なぜこのタイミングで本名の林以樂の名義でリリースしようと思ったのか聞かせてくれるかな。

林以樂:

SKIP SKIP BEN BENはソロ活動だけど、プロジェクトだったの。はじめはメンバーがいなかったけど、その時は私もすごくオープンマインドな時期だったから、「あとからでも友達が参加できたらいいな」と思って、ソロの名義にはしなかった。

林以樂:

そして、自分の名前を使うことにもとてもプレッシャーも感じていたの。SKIP SKIP BEN BENを始めたのが10年くらい前なんだけど、台湾のインディーシーンで本名を使うミュージシャンは多くなくて。自分の名前を使うのは、スターな感じ(笑)。みんな少し恥ずかしかったんだと思う。でも今はそうじゃない。ミュージックシーンもチェンジしたし、みんな自分の名前に自信を持っている気がする。レコーディングや、MVをDIYするのが簡単な時代になったことも大きく影響しているのかもね。

ーー:

今、たしかにアウトプットは誰でもしやすいし、活動の規模もいろいろな形が許容されてきているよね。BEN BENもソロ活動が増えたのは、そういった発信のしやすさも関係しているのかな。

林以樂:

今、生活の中で自分一人で過ごす時間が80%くらいあるの。それに雀班でスタジオに入ったり、リハーサルする時間も多くない。ライブは楽しいからやりたいんだけど、たくさんやったら新鮮味が消えるから、そこまで力を入れようとも思わなくて。

林以樂:

PCがあれば、メンバーがいなくても簡単に音楽が作れてライブもできる。そんな環境が便利で気に入ってるの。個人の活動はとてもコンビニエンス。今はコンビニエンスに、音楽を楽しみたい気持ちが強い。バンドでツアーするとなると、機材を持ち込むだけでも大変だったしね(笑)。

ーー:

最近よくやってるDJも、音楽をひとりでも楽しむための活動のひとつ?

林以樂:

そうそう、ライブハウスのThe Wallの中にあるThe Barという場所のメイングループのひとつでいつもプレイしているの。去年からヴァイナルやプレイリストをたくさんの人に共有していてね。自分の好きな音楽をその場にいた人と共有できたら嬉しいと思っていて。友達の子供とか、あまり音楽を聞かない人がパーティーに来ているのであれば、『そんな人たちにどんな曲を選んだら楽しんでもらえるか?』ということを考えてDJをしているんだよね。

 

あとはUFOとか、ETが好きだから『宇宙人がこのパーティーにいたら?人間の歴史を音楽で伝えるにはどうする?』なんて想像してプレイする。その場で音楽がどのようにインフルエンスするかを考えてるよ。

ーー:

他にDJの経験がBEN BENの活動に影響を与えたことはある?

林以樂:

昔は楽曲って一本道を車で走り続けるみたいなイメージで作ったり、演奏したりしていたんだけど、今は途中でちょっと止まったりするのも面白いと思うようになった。それはDJをやってわかったこと。50年代のスウィングジャズ中心のプレイリストを作るなら、その間にBPMとか雰囲気を合わせたブレイクのためのレコードを探す。自分の曲を作ってミックスをするときも、DJの感覚を取り入れるようになったね。

レゲエやダブが好きな人って、隙があればリズムに取り入れたいと思っているはず

ーー:

BEN BENは少し会わない間にどんどんと変わっていくね。 “L.O.T” についても話を聞かせてもらえるかな。今までよりビートが強くて、リズムが前に出てくる印象だったんだけど、今回はどんな音楽をリファレンスにしていたの?

林以樂:

DORIANの古いアルバムが好きでよく聴いているの。例えば、2013年にリリースされた『midori』のリズムの要素はすごく参考にした。きっとDORIANもDJをしているから、ハウスとかテクノとかレゲェとかダブのいろんなスタイルをミックスして、マッシュアップできるんだよね。

林以樂:

レゲエやダブが好きな人って、隙があればリズムに取り入れたいと思っているはず(笑)。私もそうで、バンドでもスカやレゲエのスタイルは取り入れていたんだけど、なかなか自分の色を出していくのが難しくて……。L.O.TはベースがレゲエのちょっとメロウなR&Bだけど、そのあたりはうまくいったように感じている。ずっとこんな音楽をやりたいと思っていたの。

ーー:

今回、英語のリリックにしたのは理由があるのかな。

林以樂:

最初は中国語で歌詞を書いたけど、今の英語みたいなソフトで自由な感じにはできなくて。説明するのが難しいんだけど、中国語を使うと詩みたいな感じになる。英語ならメロディを自由にチェンジできるんだよね。他の人は多分できるだろうし、こんな風に苦労するのは自分だけかもしれないけど。

ーー:

今まで中国語で歌うことが多かったから、今までとは違うマーケットを目指すのかなって思ったよ。

林以樂:

そんなつもりは全然なかった(笑)。でも、昔は台湾でも英語で歌詞を書いているバンドは多かったんだよ。今は中国語が多いと思うけど。

ーー:

それはなぜ?

林以樂:

わからないけど……、多分昔は英語の歌詞がかっこいいって感じだったんじゃないかな。今は、そんなバンドは多くないよね。

ーー:

ひとつは台湾のシーンが広がって、アジアや欧米にも受け入れられるようになったからかもしれないね。

林以樂:

そうかもしれない。元々、台湾のミュージックシーンはインディーズでもアジアのマーケットを意識したものが多くて、それぞれの国や文化の違い、精神性をすごく大切にしているの。だから歌詞、何を伝えているかを重視している人は一番多いんじゃないかな。その次にメロディとか、アレンジ。スタイルとかは一番最後だね。中国もそんな感じ。

ーー:

歌詞を大切にしているリスナーが多い中で、英語の歌詞を歌うことに抵抗はなかった?

林以樂:

全然。昔から、新しい音楽を発表する時は「これは変!」とか、いつもそういうコメントばっかりされてきたから(笑)。

ーー:

えー!?そうなの?

林以樂:

例えば、高校生の時。周りにいた友達はみんなパンクみたいな、簡単なコードで激しいギターサウンドが好きだったんだけど、私はスウィングやジャズスタイルの曲を作っていたの。歌詞もラブレターみたいな、少女的で恋愛的な歌詞がいっぱい。みんなと違うスタイルだった。

 

そのあと周りの友達の好みやスタイルがどんどんチェンジしていって、「ジャズスタイルの雰囲気もいいね」ってなった時には、私はもう飽きちゃっていて(笑)。その時はノイズやシューゲイズをかっこいいと思っていたから、Boyz&Girl※3 をはじめたんだけど、みんな「BEN BENちゃん、昔の(ジャズ)スタイルの方がいいよ!」って。

 

「みんなと違うことがしたい」という意識は全くないの。ただ、同じスタイルを長い時間続けていると「新しい、やったことがないことにチャレンジしてみたい」と思うだけ。それが楽しいから。

※3:Boyz&Girl
2008年から2010年にかけて活動したシューゲイズバンド。BEN BENが北京へ拠点を移したことにより活動を休止した。メンバーには落日飛車(sunset rollercoaster)のVo.曾國宏、Dr.羅尊龍が在籍。

私の声だけはどんなスタイルにチェンジしても変わらない

ーー:

今回の変化はその中でも大きなチャレンジだったんじゃない?

林以樂:

今回は本名でリリースする最初の作品だし、自分でもビッグチェンジ。昔の自分はエレクトロニックな音楽は絶対できないと思っていたの。でも “0.5mm” が完成した時に、やっとできたって自信が付いた。日本の友達とか、海外の友達からもメッセージが来て、「これはいい!」って褒めてもらってめっちゃ嬉しかったよ。

 

今でも台湾では、やっていることが「わからない」と言われることの方が多いの。日本に来ると、作品は全部売れてしまうけど、台湾では難しいしね。でも昔から「わからない」と言われてきたから大丈夫。

ーー:

BEN BENのセンスが早すぎるんじゃない?(笑)

林以樂:

私はどんどんチェンジしていきたいんだけど、台湾のライフスタイルはみんなゆっくりなんだよね。それは自分もわかってる。民族的な特徴かもね。

ーー:

日本以外の国ではどう?

林以樂:

韓国は反応がいいよ。他の国に行けば、私がどんなミュージシャンかみんな知らないし、先行するイメージがないでしょ?台湾は小さくて、みんなずっと(私の)活動を見てきたから、スタイルチェンジについていけないんじゃないかな。

ーー:

ちなみにBEN BENが「新しいスタイルにチャレンジしたい」と思うタイミングって、どんな時?

林以樂:

考えたことがない……。アレンジやミックスをする時、ずっと自分の楽曲を聴いていると、「どんなアレンジやミックスでも完成できない」といった感覚があるの。多分ミュージシャンはみんなあると思う。例えばそういう時は、メロディを完成させて、楽曲はいろんなスタイルを試して、どのアレンジが気持ちいいかを確かめたりしているよ。

ーー:

そのアレンジの中に、新しいチャレンジも混ざっているんだね。

林以樂:

そうそう。歌詞とメロディは自分の子供みたいだと思っているの。今日はこの服を着せる、でも他の子の服とチェンジしてもいいですよって。

ーー:

ライブでも、今日このリズムが気持ちいい、みたいな感覚って変わる?

林以樂:

あるよ。だから雀班では気分によってアレンジを変えたりする。自分のソロは(制作時に)すでにいろんなアレンジを試しているから、変えることがあるとしたらアコースティックでやる時くらいかな。

ーー:

アコースティックと、PCで作る音楽だとそこが違う?

林以樂:

アコースティックでプレイするのって、すごくネイキッドだから気分は反映されやすいよね。でも私は歌いながらだとギターやピアノで難しいプレイができないから、自分一人の時はループを使うとか、別の手段を取り入れていくことになる。ソロでは特に歌に集中したいから。

ーー:

どうして歌に集中したいんだろう。

林以樂:

それはファンのおかげ。昔からたくさんのバンドでいろんな音楽活動をしてきたけど、私がどんな活動をしていても音源を買ってくれるファンがいて、とても感謝しているの。いつも手紙とか、メッセージは全部読んでる。「私の声が好き」と言ってもらうことが多いんだけど、それは私がどんなスタイルにチェンジしても変わらないものでしょ?とても長い旅路になると思うんだけど、今はちゃんと歌うことを大切にしたい。

ーー:

すごくいいマインドの変化だったんだね。歌声だけは変わらないもんね。

林以樂:

PCも、ギターも壊れちゃうかもしれないし、変わってしまうことはあるかもしれない。でも声だけは自分のものだから。

ーー:

ありがとう!最後に林以樂のライブを観に来る人に、どういった部分を楽しんでもらいたいか教えてもらえるかな。

林以樂:

私のバンドサウンドを知っているお客さんからしたら『変わった』と思われるかもしれない。でも今の自分のスタイルも楽しんでもらえたらいいな。もちろん、新しく知ってくれた人も同じ様に楽しんでもらえたら。

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