REPORT

マーガレット安井が見たボロフェスタ2019 3日目

2019.11.28

マーガレット 安井マーガレット 安井

出発~ボロフェスタを文章で残す意味~

夢から覚めた。ベットからゆっくり起きて寝ぼけ眼で身支度をする。カーテンを開けると、外は気持ちのいい青空が広がっている。しかし私の心はどんより重い。取材当日は、どういう風に文章を書けばいいのか、取材でミスしないか、納期までに間に合うのか……といつも悩みながら、家を出る。アンテナでライターをやり初めて1年ちょっと経つが、いつも楽しさよりもプレッシャーが勝ってしまう。それに休みの貴重な時間は失うし、文章を書いたところで対価を払われることも少ない。最初の頃は「何をやっているんだろう」と思うことも数知れなかった。でも最近は使命感をもってやっているためか、そんなことを思うことは減った。私の使命。それは価値のあることをアーカイブすることだ。

 

「神話が語り伝えられているのは、それだけの値打ちがあるからだ」と言ったのは神話学者のジョーゼフ・キャンベルだが、これは神話だけでなく、アーティストやフェスでも同じだ。例えばボロフェスタ。毎年100人以上のボランティアスタッフを呼んで、DIYでフェスを作る。そしてそれを15年以上も継続して行っている。このようなフェスは関西圏ではボロフェスタ以外には存在しない。ライターとしてボロフェスタの変遷を記録し、その価値について読者と一緒に語り継がないといけないのではないか。そしてそれが出来るのは関西を拠点にするメディア、自分たちアンテナだけだと考える。だからプレッシャーはあるし、メリットは少ないがこの仕事を続けられている。それにもう一つライブレポートには大きな役割があって……と、考えている間にKBS京都ホールに到着した。私のボロフェスタ3日目が今から始まる。

変わらないを証明するでんぱ組.inc

Photo:岡安いつ美

6年ぶりにボロフェスタにやってきたジャパニーズポップカルチャーアイドルでんぱ組.inc。6年前の2013年といえば、彼女たちがJAPAN EXPOの日本代表として世界進出をした年だ。今では日本のみならず海外でもコンスタントにツアーを行っている彼女たちが、ボロフェスタ最終日のトップバッターとして降臨。歓声を受けて、古川未鈴、相沢梨紗、成瀬瑛美、 藤咲彩音、鹿目凛、根本凪の6人が登場すると、「でんぱ組.inc、はーじまるよー!」のかけ声とともに1曲目に披露したのは彼女たちの必殺チューン “でんぱれーどJAPAN”。会場のボルテージが一気に爆発し、サイリュウムの花が咲き乱れる。続いての “プレシャスサマー”、“バリ3共和国”、“ギラメタスでんぱスターズ” など会場ぶち上げチューンを惜しみなく披露した。演者の熱量高いダンスと歌、そして観客の熱気も合わさり、会場はもはやサウナ状態だ。

 

世界進出を果たし、堂々たるライブパフォーマンスでどこに行っても、観客を沸かすでんぱ組.inc。このように書けば、彼女たちは完全無欠に見えなくもないが、そうではない。それは今年の1月に、結成当初からグループを支えた夢眠ねむが卒業したからだ。中心人物のひとりだった夢眠ねむが抜けたことで、でんぱ組.incとしてはダンスや歌パートの大きな変更を余儀なくされたに違いない。だが今回のライブを観てると、最初から6人組であったかのように、息のあったダンスと歌を観客に見せつけてくれた

 

なぜ彼女たちは変わらないのか。それはアイドルであることにアイデンティティを持って、ステージに立っているからだ。以前、夢眠ねむが以前インタビューで「自覚とプライドを持ってアイドルになっている」と語り、「私はアイドルしかできない」という古川未鈴みたいな人間がアイドルとして生きていくべきだ、と語っていた。ポリシーをもって職業としてアイドルを「やる」。全員がその姿勢でいられるからこそ、最上もが、夢眠ねむがいなくても、古川未鈴が結婚しても、でんぱ組incは何も変わらずのパフォーマンスができ、観客を熱狂させる。

 

アイドルであること強い信念とどこまでもハッピーな気持ちにさせてくれるライブもあと1曲。ラストは代表曲 “でんでんぱっしょん”。華麗なるリボンダンスを見せる中、ステージ背景のカーテンが降り、きらびやかなステンドグラスがあらわとなる。ステンドグラスの光に照らされながら、ステージは終了。彼女たちの快進撃はまだまだ続きそうだ。

全て変われど、貫く信念 BiS

Photo:堤大樹

グループの中心人物が抜けても魅力は変わらないことを証明したでんぱ組.inc。しかし、さすがに全てのメンバーが入れ変わればグループのアイデンティティは保たれないのではないか。これについてBiSはひとつの答えを出す。解散と活動再開を繰り返すBiS。今年の6月に始動した第3期は1期、2期の主軸であったプー・ルイが不在。今までアイドルとしての経験がないメンバーだけで結成されている。結成半年、主軸メンバー不在、全員新メンバー。グループとしてのアイデンティティが保てなさそうな状況においても、BiSは今までの精神を受け継ぎ、自分たちは何も変わらないことをボロフェスタで提示する。

 

BiSが登場するということで、街の底STAGEはライブ開始15分前から既に超満員。パーティーナビゲーターから写真撮影はOK、組体操は禁止、などの諸注意があり、轟音のSEが流れる中、登場したのはBiSの4人だ。1曲目は“STUPiD”。激しいダンス、そして組体操もバッチリと決まり、続いてのナンバーはまたもや“STUPiD”。観客から歓声があがり、会場は一気にヒートアップ。またもや組体操もバッチリ決まり、3曲目はまたまた“STUPiD”。会場からは再度、地鳴りのような歓声が沸き起こる。3度の“STUPiD”で完全に会場を掌握したBiS。以降は“どうやらゾンビのお出まし、“teacher teacher teacher”と最新アルバム『Brand-new idol Society』からノンストップでアクト。会場はサウナを通り越して、溶鉱炉のような暑さとなった。ラストはラジオ体操+スクワットを模したダンスの“thousand crickets”で終了。

 

“STUPiD”をなぜ3曲もやったのか。BiSは1期、2期でも「絶対に爪痕を残さないといけない時」に代表曲をリピートで何度もやる。すなわち同じ曲をやるのはBiSとしての伝統芸の一つであるのだ。また彼女たちは『Brand-new idol Society』では作詞にも挑戦し、今回披露された曲だと“teacher teacher teacher”はイトー・ムセンシティ部の楽曲だ。そしてアイドル自身が作詞をするというのも過去にBiSが行ってきたことである。これらから分かる通り、彼女たちは先輩が作った轍の上を歩いているのだ。

 

BiSのアイデンティティは何か。それは「アイドルらしさの崩壊」だ。アイドルが「可愛くて華やかなステージ上の美しい存在」であったスタイルを、時にはアイドル自身が作詞をし、時には100km以上の距離を駅伝をし、時には何度も鉄板で盛り上がるナンバーを何度もかけたりすることで、従来の“アイドルらしさ”を破壊しにかかる。そして崩壊してもなお、アイドルを名乗ることで「アイドルを崩壊させるアイドル」という唯一無二のアイデンティティーを確立している。その過去の先輩たちの轍を確実に歩んでいるBiS3期。先日には熱海から東京の200kmを駅伝するイベントも行い、BiSとしてのアイデンティティを受け継ぐ4人の少女たち。これからどのような物語が紡がれるか楽しみで仕方がない。

バンドとしての揺るがない信念 teto

Photo:Yohei Yamamoto

BiSは先輩たちが築き上げた轍を歩むことでボロフェスタの観客を熱狂させた。3期になっても1期、2期と変わらないスタンスで行える、それはでんぱ組同様でBiSがグループとして信念を持って取り組み、確固としたアイデンティティを確立してるからではないか。だがボロフェスタではアイドルだけでなくバンドも自身のアイデンティティを見せるアクトが数多くあった。例えば麒麟STAGEに登場した teto である。

 

ボロフェスタ初出場となる初期衝動のならず者teto。リハーサルからステージ上を暴れまわり、「事件にしようぜ!」と観客を煽る小池貞利(Vo / Gt)。スタートのナンバーは“高層ビルと人工衛星”。早々に小池が観客へ飛び込み、もみくちゃに。次の“蜩”でも小池はステージ上を縦横無尽に駆け回り、マイクスタンドが倒れめちゃくちゃに。そんな小池の気持ちのいい暴れっぷりに、観客も熱狂する。

 

初期衝動を観客に見せつける teto。彼らのライブではその暴れっぷりばかり話題になるが、最大の魅力はメロディであることは間違いない。サウンドは交通整備が行き届き、メロディーラインがはっきりと聴こえる。だから、彼らの歌は人々の涙を誘う。特に最新アルバム『超現実至上主義宣言』から披露された “コンポタージュ” は、それまでの暴れ狂うパンクナンバーとは対象的な、丁寧で優しいポップソングであり、ソングライターとしての才能を証明する瞬間であった。

 

そんな彼らが思うバンドとしてのアイデンティティはなにか。ライブ終盤で小池は「バンドっていうのは半径1メートルくらいの小さな身近を安心させる存在だと思う。俺はスターでもアイドルでもない。近所の歌を歌うお兄ちゃんでいたい。だからこの半径1メートルを、この会場を“光るまち”にしようじゃないか!」と高らかに宣言し、 “光るまち” を歌った。バンドは半径1メートルくらいの小さな身近を安心させる存在だと訴え、自分たちはそんな存在としてあり続けると強い信念で歌われ た“光るまち”。 聴く人を肯定する小池の歌は彼らを観た人たちの心に深く突き刺さったに違いない。「いろいろ辛いことはあるかもしれないですが、ステージに立つものとして言えるのは1つ。楽しんでください」と観客に伝え、ステージは終了。ギター・ノイズが鳴り響くなか、いつまでも拍手は鳴り止まなかった。

音楽は弱き者たちを救う、ハンブレッダーズ

Photo:岡安いつ美

teto もバンドとしてのアイデンティティーと強い信念をステージ上で見せつけて観客へ提示したが、ハンブレッダーズも一貫した姿勢で“音楽は常に私たちの味方である”と歌う。大阪出身、今年でボロフェスタ3年連続出場。来年にはTOY’S FACTORYよりメジャー・デビューが決まっているハンブレッダーズ。1曲目は“口笛を吹くように”。清々しいサウンドとムツムロアキラ(Vo / Gt)の甘い歌声が会場に響き渡る。その後、“DAY DREAMBEAT”、“エンドレスヘイト”を立て続けに披露。熱量高く演奏され、観客も拳を上げてライブを楽しむ。

 

ハンブレッダーズの魅力は弱者に寄り添う姿勢を貫いている点だ。“DAY DREAM BEAT” ではスクールカーストの底辺を生きる学生を、“エンドレスヘイト” ではネットに蔓延するヘイトに対して、考えあぐねる人間を描いている。そして共通して、音楽が生きるための一助になることを私たちに伝える。なぜ彼らは音楽は人々を助けると歌うのか。ライブのMCでムツムロは「(ボロフェスタは)文化祭みたいで楽しいですね。僕は文化祭があまり楽しくなかった人間で。クラス全体でTシャツを着ることがあったんだけど、1人だけ着なかった」とエピソードを語った。ムツムロもまた学校でなじめずスクールカーストの底辺にいた。だからこそ彼らの歌は弱きものの気持ちを代弁し、歌にできるのだ。

 

ラストは今年6月に出たシングル “銀河高速” を演奏しライブは終了。今を生きるすべての者たちの代弁者としてハンブレッダーズは存在する。これからも君を主役にするBGMを、ぐしゃぐしゃに泣きじゃくる君がイヤホンをとって少し笑えるような歌を、彼らは作り続けるに違いない。

理想郷としてのライブハウス Limited Express (has gone?)

Photo:岡安いつ美

ハンブレッダーズが音楽に弱きものの救いを求め歌うなら、Limited Express (has gone?) はライブハウスこそ救いの場所だと私たちに教えてくれる存在だ。「代表の飯田です。今日はありがとう」とニコやかにサウンドチェックしているボロフェスタ代表飯田仁一郎ことJJ(Gt)。しかしサウンドチェックするメンバーに対して、「チェックいる?これいるの?」と早くライブをしたくてムズムズしている様子のYUKARI(Vo)が対照的だ。

 

「このライブは凄いことになりそう」という期待を抱く観客たち。そしてライブがスタート。1曲目は最新アルバム『perfect ME』から “百鬼夜行”。荒々しいノイズ・サウンドのなかでYUKARIがステージ上を縦横無尽に暴れまわる。これを見て、観客もモッシュで応戦。続いての “MOTHER FUCKER” ではYUKARIはスピーカーの上に乗り、さらに会場を煽る。昨今のコンプライアンス重視のフェスでは考えられない光景だが、彼らはそんなの世間の風潮はお構いなしにやりたいことをやる。

なぜ彼らは会場でやりたい放題やるのか。それは彼らがライブハウスを何者にも束縛されず、誰もが対等に遊べる場所だと考えているからだ。ライブMCでYUKARIは「一人一人アイデンティティをもって生きている。男は男らしく、女は可愛らしくとか、そんなのやめよ。私は私らしく。みんな自信を持って生きていけ!」と語った。社会に入れば役職があり、しがらみが生まれストレスに感じることも多くなる。だがライブではそんなものは関係ない。あるのは己が楽しむこと、それのみだ。だからこそLimited Express (has gone?) 観客と同じようには自由奔放に暴れて、一緒に遊ぶことでアーティストと観客の関係を壊す。すなわちライブは何者にも束縛されず、自分を開放する理想郷というメッセージを Limited Express (has gone?) は己の体で体現しているのだ。

 

終盤に差し掛かると3メートル以上はあるかと思われる脚立が会場の真ん中に登場。その頂上にYUKARIが鎮座し “ギャーギャー騒げ” が演奏されると、脚立を中心に観客が左回りにモッシュを展開。その後、YUKARIがステージに戻り、JJと谷ぐち順がメイン・ヴォーカルのムーディーナンバーUselessを披露。その後、YUKARIから呼ばれて登場したのはカネコアヤノだった。ラストナンバーである “フォーメーション” を一緒に披露する。曲中で2人がステージを降りて、脚立に登る。頂上で、YUKARIとカネコアヤノが「ダイブする?しない?」のやり取りがあり、最終的にはYUKARIが脚立からダイブし、ライブは終了。あそこでカネコアヤノが飛べば、当然会場は盛り上がっていたに違いないが、飛ぶ自由もあれば、飛ばない自由もある。状況や空気に流されず、私は私を貫く。 Limited Express (has gone?) のライブに対して、カネコアヤノの回答があの瞬間にはあった。

帰宅~僕たちが使える魔法について~

全てが終わり、家へ帰ってきた。時間は夜中の0時を過ぎている。もう何時間か後には、会社へ行かないといけない。また辛い現実が待ち受けているが、私はやる気に満ちている。それは今日観たアクトに「信念を曲げずに立ち向かい、辛い時は音楽がそばにいてくれる」ことを学んだからだ。夢のような空間であるボロフェスタを、私は『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』の世界だと言った。しかし『うる星やつら2』でも、ラストは現実の世界へ戻る。いつまでも夢は続かないし、必ず現実はやってくる。それは生きていく以上、仕方がないことだ。この世界は理不尽だし、弱者が弱者のままで尊重される世の中ではない。私たちは常に社会という強者に立ち向かわないといけないのだ。

 

そんな強者に立ち向かうために、音楽は、ライブハウスは何が出来るのか?残念ながら、音楽やライブハウスはあなたがストレスに感じていることを根本から解決できる能力は持ち合わせていない。だけど音楽はいつもあなたに寄り添ってくれる。そして一時的ではあるが、ストレスフルな現実から解放する魔法を私たちにかけてくれる。そういう意味では音楽はあなたにとって味方だ。

 

しかし忙しい日々を過ごすと、気軽に音楽が聴けない、ライブに行けないこともある。そんな時はスマートフォンを取り出して、ライブレポートをみればいい。冒頭でライブレポートをする理由の一つは価値のあるアーティストやフェスをアーカイブするものと言ったが、もう一つはライブに行った観客の記憶をとどめておく役割だ。あなたが忘れたくない、心に留めておきたいライブを何年先でもすぐに思い出せるようにする。写真とセットリストだけでは伝えることのできない熱狂をあなたに文章で伝えてこそ、ライブレポートは初めて役割を果たす。だから辛くなった時にはライブレポートを読んで欲しい。そしたらわかるはずだ。音楽と同じように楽しかった記憶が蘇り、一次的ではあるが現実から離れ回想の世界へと私たちを解放してくれる。そういう意味では、ライブレポートも音楽と同様に魔法である。

 

「We Believe In The Power Of Us」これはボロフェスタの今年のテーマだ。ボロフェスタ同様に私たちアンテナも、一人でも多くの人が自分たちを信じれるよう魔法をかけ続けていく。

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