無料の音楽
谷澤ウッドストック

2019.09.08

児玉泰地児玉泰地

京都を中心に活動している谷澤ウッドストック。4人組アコースティック・バンド、Novelmanとしても活動しているが、筆者にとってはやはり、酒場の真ん中でその日歌いたい曲を愉快に弾き語る姿が印象的だ。アコースティックギター一本で「音楽を思うままに楽しんでいる人」だと感じる。本作はライブ会場で販売されている、弾き語り15曲を収録したアルバムだ。注意点は『無料の音楽』というタイトルだけど無料ではないこと。それでも500円だけど。

 

特に筆者の思い入れがある曲がM2“入れもの(ただの音楽)”だ。最初にこの曲を聴いたのは、京阪出町柳駅の近くにあるカフェ<かぜのね>で行われていたビアフェスイベントでのライヴだった。谷澤の歌い出しが耳に入った瞬間、それまでカフェの外で立ち話をしていた私は、思わずステージの方を振り向いた。温かな曲なのに、うなじに鳥肌が立っていた。「ロッカー」、「ごはん」、「頭の中」……歌詞ではいろいろなものを、入れものに見立てて「その中にあるものは?」と疑問を投げかけてくるのだ。字面から連想されるものの他にも、実は何か入っているのかも知れない、と空想してしまう。そして歌詞から広がる空想に、どこか寂しそうな 優しい声と、極限まで間引き1音1音を指で丁寧に弾かれるギターの音が、ぴったり応じているのが心地いい。歌詞をともに口ずさんでみると、その心地よさがこみ上がってくるのか、声が力んでしまう。

 

他の曲も、生活の中でふと見つけたものや、疑問に思ったもの、一見すると何でもないことが、ミドル・テンポで少しだけドラマチックに歌われる。斉藤和義“歌うたいのバラッド”や、“おおシャンゼリゼ”など様々な曲をカバーしたり、何冊もの楽譜を開きながら、リクエスト曲やその時歌いたい曲を歌う『好き勝手にうたう会』を主催したりと、自作曲以外も積極的に歌ってきた谷澤だけあって、どの曲もギター1本と声と言葉だけなのに雰囲気がそれぞれ違う。現代の便利さを「愛」に例えて歌うことでテーマをしっかり伝えてくるM1“愛が多すぎて”で導入し、前述のM2“入れもの(ただの音楽)”で聴く側を一気に掴む。息をひそめたように歌われるM9“息”で注意を引き、M10“檸檬”でそれまで溜めていた力を開放するように熱唱する。かと思うとM11“リードボーカルの唄”では「気持ちいいことしよう」と出オチのような歌詞をゆるゆると口ずさんで、聴く側の顔を緩ませてくれる。緩急を意識した良い並びで、何度でも楽しく聴ける一枚だ。

筆者が思うにこのアルバムは「一人遊びも得意な友達」だ。「ほっといてほしい人」には特に、良き友人になってくれるだろう。恋愛ソングに共感したくもないし、ロックで盛り上がりたくもない時、ここにある曲たちは手を伸ばすだけではお互いに触れられないくらいの距離感で、勝手に楽しくやってくれる。でも一緒に楽しみたくなったら、耳を向けるだけで笑いかけてくれる優しさも兼ね備えているのだ。数歩近づいて、ともに歌ったり踊ったりして遊べば、なおさら楽しめるのだ。

 

通信販売もされていない彼が演奏する場所でのみ手に入る本作。歌詞カードも収録曲リストもCDに同封されていないのも大きな特徴だ。どれがどんなタイトルか、想像しながら聴くのもまた一興だろう。

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