INTERVIEW

制作もライブも自然体で。京都のシンガーソングライターいちやなぎインタビュー

2019.07.25

堤 大樹堤 大樹

歌に惚れられるアーティストが今、どれだけいるだろうか?

 

いちやなぎはそんなことを思わせてくれる、数少ない生粋のシンガーだと思う。ステージは演奏の最小単位とも言える、アコースティックギターでの弾き語り。シンプル故に際立つのが、ファルセットの美しさや、ブレスの緊張感、声色の豊かさなどの歌そのもの。歌詞はいずれも日常に根ざしたシーンのはずだし、メロディもどこか馴染みがあるものなのに、彼が歌うと全く聞いたことがない異国の祈りのように聞こえるのは何故だろう?歌ってこんなに良いものだったっけ。

 

今年25歳。白Tシャツにジーパンと、いつもどおりの気取らない風貌でぶらりとインタビュー場所に現れた彼に、自身のキャリアと「長く愛される音楽」とはなにか聞いてみた。

小さい子供からお年寄りまで一貫して「いいな」って感じるのが、本質的に良い歌だと思う

ーー:

いちやなぎ君の記事ってあまり見たことないんだけど、インタビューは今回が初めて?

いちやなぎ:

インタビューはあまりないですね。ちょこちょこと取材を受けることはありましたが、こんなにちゃんとしたのは初めてです。昨年のバレーボウイズのイベント『ブルーハワイ’18』に出たときに『京都インディーズ・ジョーンズ』というテレビの取材は受けました。テキストで残る取材は初めてかもしれないです。

ーー:

この記事を通して、一通りいちやなぎ君のことを伝えられる記事にできればと思ってます。まず初めに、音楽が好きになったきっかけについて教えてもらえるかな?

いちやなぎ:

物心つくかつかないか……の頃かな、親のカーステレオが原体験です。ビートルズがずっと流れていました。僕の人生で最初の趣味がビートルズだったんじゃないかと思います。

ーー:

趣味がビートルズ。

いちやなぎ:

仮面ライダーとか、ウルトラマンよりもビートルズの方が先に好きになったんですよ。とにかくずっと流れていたんで、刷り込みと同じなんですけどね。もうとにかくね、同じアルバムずっとが流れてたんですよ。

ーー:

なんてアルバムですか?

いちやなぎ:

『ザ・ビートルズ 1』ってやつです。映像として思い出すまではいかないんですけど……そこの一歩手前というか。ふつふつと蘇るものがある感覚、現代でどれだけ曲が良くても、同じ感情になれる曲はないと思います。曲がいいのはもちろんなんですけど、僕の中では別枠、別メニュー……聖書みたいな感じです。

 


ザ・ビートルズ 1

ーー:

具体的にどんなところが好きか教えてもらえる?

いちやなぎ:

実は、好きっていうのもずっとなんとなくでした。ポール・マッカートニーが来日するって理由でアルバムを全部買って、20歳くらいの時にはじめて音楽的にビートルズを聴き直したんです

ーー:

ビートルズのここが好きってポイントはどこだろう?

いちやなぎ:

歌ですね。メロディセンス。日本にも良いメロディだと思うものはたくさんあるけど、僕には絶対作れないっていうものはあまりなくて。「このメロディなら僕でも辿り着けそう」、と感じるんです。でもビートルズは絶対に無理、人生を何周しても思い浮かばないだろうなって。

ーー:

自分の楽曲の中で影響は感じる?

いちやなぎ:

それが出てこないんですよ。ビートルズっぽいメロディを作れたことがない。あれだけ聴いたのに、出てこない。「これビートルズのパクリじゃん」って言われても全然嫌じゃないんですけど、言われたこともないですね。民族の違いだと勝手に思ってるんですが。

ーー:

ではどういった音楽にメロディの影響を受けているんだろう?

いちやなぎ:

曲にもよるんですけど……『千と千尋の神隠し』の “いつも何度でも” ってあるじゃないですか。曲作りに煮詰まったらあの曲をいつも聴いてます。

ーー:

“いつも何度でも” ばかり?

いちやなぎ:

ジブリの曲は、歌の本質を捉えているような気がしていてすごく好きで、他の主題歌も聴きますよ。手嶌葵さんの “テルーの歌” とか、“カントリーロード” の日本語訳とか。どの曲も小さい子供からお年寄りまで一貫して「いいな」って感じる楽曲ですよね。

ーー:

たしかに。いちやなぎ君のファルセットはすごくキレイだよね。ジブリの話でふと思い出したのだけど、歌唱法もジブリから影響を受けているの?

いちやなぎ:

そうですね。あと歌唱法で一番影響を受けているのはシガー・ロスのヨンシー。高校生の時に初めて聴いて、「こんな歌い方あるのか」って驚いて影響を受けました。

ーー:

高校生の時から人前で歌っていたの?

いちやなぎ:

いや、なかったです。高校の時はカラオケも行けなかったんですよ、恥ずかしくて。カラオケなんて10人もいたら、なかなかのステージじゃないですか。しかもソロで歌うって……完全に避けてました。

ーー:

歌うのは好きだった?

いちやなぎ:

歌うのは好きで、部屋でひとりで歌ってましたよ。大学で軽音楽部に入ったのがきっかけで、人前でも歌うようになりましたけど、今でも冷静に考えてやばいなって思うんです。

ーー:

やばい?

いちやなぎ:

変態ですよね。あんな大勢の人の前で自分をさらけ出して歌うって。当時の僕が見たら変態だって言うはず。

ーー:

どう、今変態になって。

いちやなぎ:

めっちゃ気持ちいいですね。歌うのめっちゃ気持ちいい。

憧れた人に「お前それいいな」って言われる自分になりたい

ーー:

大学の軽音楽部がひとつの人生の転換点だったようですが、大学ではどんな勉強してたの?

いちやなぎ:

京都産業大学の経営学部に進学しました。高校生の時は音楽より服が好きで、本当は京都精華大学のファッション学科に行きたかったんですけど、親に止められちゃって。

ーー:

今もファッションに興味はある?

いちやなぎ:

それが大学に行ったら服への興味が少しずつなくなっていったんですよ。大学卒業する頃には毎日同じ服着る、みたいな状態に……。自分の中でなにかが変わったことは確かなんですが、なにが変わったかがちょっとわからなくて。普通は、大学でファッションへの熱が上がるって人が多いですよね。

ーー:

興味を持つのが早すぎたのかもしれないね。ビートルズへの目覚めもそうだし、小さい頃は周りの子と話が合わなかったんじゃない?

いちやなぎ:

合わなかったですね……。でもそれはずっとです。小中高通して話が合う人はいなかった。

ーー:

話を聞いていると、流行りに振り回されたりせず小さな頃から自分の中での好きなものが確立されていた感じがする。

いちやなぎ:

それはあります。友達で過去を振り返って「あの頃の自分ありえへんわ」っていう人いるけど、僕はそういうことは一切なくて。多分10歳の自分、15歳の自分、20歳の自分、そして今25歳の自分、全員集合させても「わかる!」ってみんな仲良くできる気がする。

ーー:

多くの人は、思春期の頃に一貫した「自分らしさ」や「アイデンティティ」みたいな幻想を求めると思うんです。今まで話を聞いてきて、そういったものが早い段階で、自然と見つかっているから、小さな頃の自分とも仲良くできるのかもしれないね。

いちやなぎ:

小学校高学年から高校にかけて、「みんな同じようなことをしているな」ってずっと疑問に思っていました。生まれ育ったのが石川県だからかもしれないんですけど、みんな同じテレビ番組を見て、同じ服屋で同じような服を買って、同じような音楽も聴いていたし、そしてそれが5パターンくらいしかない。「どうしてそんなに好きなものの種類が少ないんだろう」って。だから多分、僕はその当時から他の人とは違うアイデンティティを持っていたんだと思います。そういう自覚はありました。

ーー:

どうしてアイデンティティを早期に持てたと思う?

いちやなぎ:

僕が中学生の頃から思っていたことがあって、みんななにかに憧れた時に、その “憧れる対象になろうとしている人が多い” と思ったんですよ。例えば、 “嵐が好きで二宮君がかっこいいから、その格好をしよう” とか。でも僕は、“二宮君に「お前それいいな」って言われる自分になりたい” と思うんです。二宮君を追いかけているだけだと彼は僕のことを、友達や同志だなって思ってくれない。そう考えていくとあくまで “憧れた自分がどう振る舞っていくのか” って話になるので、無意識にアイデンティティを探っていたのかもしれないです。

表現したい気持ちを言葉にできないから歌にする

ーー:

いちやなぎくんの歌詞って、風景が浮かぶんだけど決して当事者ではない、心地よい距離感を感じるのが不思議なんだよね。今のアイデンティティの話は、楽曲を作る際の視点にも通ずる気がするんだけど、曲はどうやって作るの?

いちやなぎ:

曲によるんですが、メロディが先にできることが多いですね。表現したい気持ちを言葉にできないからメロディに置き換えているのですが、それにもう一度歌詞をつけているから、意味がわからないことをしているなと思うことがあります。矛盾というか。それが自分の中での大きな課題ではあるんですけど。

 

よくやるのが、例えば嬉しいっていう気持ちをパッケージングしたくてメロディを書いたとする。その時に嬉しいって言葉を使わずに、メロディと合わせてどうやってその気持ちを表現するのか、ということを考えたりします。

ーー:

どんな時に、曲にするような感情が生まれるのかな。

いちやなぎ:

本当に些細なことで、『naked.』に収録されている “カレーライスは風に運ばれて” は、夕飯のカレーの匂いが民家から流れてきた瞬間の曲です。夕方の雰囲気も相まって、寂しい気持ちになったのでそういう感情を歌にしたんです。言葉にできないんじゃなくて、言葉にするまでもない、っていう方が正しいかも。

ーー:

その感情はどのようなものから影響を受けることが多い?

いちやなぎ:

匂いとか、景色、他には本や映画、音楽の影響も受けるからいろいろです。でも実はあまり他の音楽から影響を受けないようにしたいとは思っていて。「かっこいい!僕も曲書こう!」としてパッと作ると似たようなものができること、あるあるじゃないですか?(笑)

ーー:

すごくわかる。作曲の起点が自分の心が動いた瞬間だとして、その後編曲を進めていく中でも他の音楽は参考にしないのかな?

いちやなぎ:

コードもメロディもしていないですね。ただバンドサウンドとなると別かなとは思います。感性だけだと他の人に伝えきれない部分があるから、他者が介在するとやっぱりそこの技術……コード進行だったり、アンサンブルだったりは参考にしないとできないな、と。

ーー:

難しさも感じる中で、ソロに加えてバンドでもライブを行われる理由はなんなんだろう?

いちやなぎ:

元々バンドをやっていたし、バンドの楽しみを知っているというのは大きいですね。バンドで演奏することの快感というか、それを知ってるとやりたくなるんですよね。お客さんとしてライブを見ていても、バンドでガチッといった瞬間は、やっぱり1人では敵わないと思いますよ。だからこそ自分の力だけじゃなくて、人の力も借りてやりたい。

ーー:

今後はバンドの演奏も増やしたいということかな。

いちやなぎ:

昔はバンドの方が好きだったんですけど、今は1人の方が気持ちよくて。だからメインの活動は1人でいいかな。バンドも正規メンバーって形ではなくて、サポートを迎えて要所要所でバンドをやる。中心はソロですね。

ーー:

ライブで意識していることはありますか?

いちやなぎ:

ライブも、作曲もそうなんですけど、一貫して目論見のないことをやりたいと思っているんです。

ーー:

目論見ってどういうこと?自然体ってことかな?

いちやなぎ:

はい、そのニュアンスに近いですね。けど、それが難しいのは、自然体でいようと考えた瞬間に自然体ではなくなってしまうことで、いつも「どうしよう」、と思ってしまいます。

ーー:

それは目論見のないものが好きだから?

いちやなぎ:

そうじゃなくて、目論見出すと疲れるんですよね。最初はいいけど、そうやって制作を続けるとどこかで疲れるから……、これってただ怠けているだけですかね?(笑)

ーー:

覚悟しているのかはわからないけど、自分が音楽と長く向き合うということを、……作り続けられる状態を自然と選んでいるんじゃないかな。

いちやなぎ:

良く言えばそうなのかもしれない(笑)。でも本当は考えてないだけかもしれなくて、考えると音楽がめんどくさくなっちゃいそうなんですよね。

 

「10代の女の子に響く恋愛ソングを書こう」って曲を書いていくと、最初は作れるかもしれないけど、どんどん楽しくなくなってしんどくなりそうだと思ってしまうんですよ。そういうのは捨てようと思っています。

「こういうやつがいたんだよ」って、脈々と歌ってもらえるような曲が一曲でもできれば

ーー:

最近ライブのステージが大きくなってきてるなと思っているんですが、実感はありますか?

いちやなぎ:

ありがたいことに面白いイベントに呼んでもらえる機会は増えてきていますが、もっと呼ばれるようになりたいです。

ーー:

いちやなぎ君はミュージシャンとしてのゴールのイメージはあるの?

いちやなぎ:

(音楽で)食べていきたいし、収入を得たいとは思っています。ゴールかあ……この前ライブハウスの人と喋っていたんですが、なかなか難しいんですよね。京都MUSEの行貞さんに同じことを聞かれて「有名になりたい」って言ったら、「今後どうなりたいか、ちゃんと考えなさい」って半分怒られまして……(笑)

ーー:

怒られたんですか?(笑)

いちやなぎ:

「有名って、抽象的すぎるけどビジョンがあって言ってるの?」、「応援したい人も、どうやって応援したらいいかわかんないじゃん」って言われて。何も言えなくなりました(笑)。ただ、もっといい景色を見たいとは思うんです。

ーー:

いちやなぎ君の思い描く、いい景色ってどんな景色なのかな。ミュージシャンいちやなぎが一番満足できる瞬間と言い換えてもよいかもしれないけど。

いちやなぎ:

難しいなあ。フジロックに出たい、とは思ってたんですけど、それが一番ではないことはなんとなく理解しているんですよね。何かに出演するというゴールではないはずなんです。

 

ポールとかに会ったらいやだしなあ、歌うの。

ーー:

(笑)

いちやなぎ:

歌えないですよ。会いたいけど、歌えない。

ーー:

では少し角度を変えて、 “長く愛される音楽” とはどのようなものだと思いますか?

いちやなぎ:

僕より長生きする曲が作れたら、僕は死んでもいいと思ってます。長く聴いてもらえるってことが一番、本質的なものだと感じているんですよ。僕が音楽的にやっていることって、昔から行われていることを繰り返してやっているだけで、革新的なことは一切できていなくて。

ーー:

革新的なことってなんだろう。

いちやなぎ:

これまでになかった組み合わせを生み出すことでしょうか。今の音楽って、変わり続けているじゃないですか。音楽の作り方もそうですし、生音じゃない打ち込みも増えてきているし、作る人も増えている。でも僕がやっていることって、IHがあるのに、木で火を起こしているようなもので、ギターを弾き始めた人が一年後くらいにはできるようなことを、やり続けている。ひとりでライブするときも、コードを弾いて歌っているだけですし。

ーー:

確かに。

いちやなぎ:

原始的なことしかやってないけど、いいものや長く愛されるものは本来それでも伝わるものだと思っているんです。あ、少しゴールのイメージができました。

 

最終目標は、「いいな」って思ってくれた人がずっと聴き続けてくれて、そのうち子供もできて、僕の歌を聴かせてくれるようなことかもしれないです。僕の両親が、僕にビートルズを聴かせていたように、「こういうやつがいたんだよ」って、脈々と歌ってもらえるような曲が一曲でもできれば幸せです。ビートルズみたいに何曲じゃなくてもいいんで、一曲だけでも。僕の妄想かもしれないけど、そんなことになったらめちゃくちゃ素敵だなって思います。

ーー:

その光景はいちやなぎ君は見れないんじゃない?(笑)

いちやなぎ:

そうなんですよ。でもだいたいわかる気がします、におい的に(笑)

ーー:

さっき言っていたフジロックに出るって、ある種そういうものを疑似体験することなのかもしれないね。大きいステージに呼ばれるくらいに多くの人がいちやなぎ君を知っていて、シンガロングが起こったりする。それって歌い継がれる瞬間を体験できる状態なんじゃないかな。だから出るしかないと思う、フジロック。

いちやなぎ:

そうですね。僕の歌がみんなのものにならないとダメですもんね。みんなにいいと思ってもらえるもの、それが長く聴かれるようにやっていきます。

いちやなぎ

 

 

1994年 石川県金沢市出身
2016年 いちやなぎ(バンド結成)
2017年 メンバー脱退によりソロ活動開始
2018年『京音』『nanoボロフェスタ』『love sofa』
バレーボウイズ主催フェス『ブルーハワイ』
清水温泉企画『最前烈祭』など出演
2019年 インディーズバトル北陸準優勝
 
京都在住 関西を中心に全国的に活動中
いちやなぎが唄うと風景に靄がかかる
深いところで染み渡る声と寄り添う楽曲たち
夢見心地に誘う音楽で生活に必要な安らぎを

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