INTERVIEW

私たちがアンテナをやる理由。【副編集長・フォトグラファー岡安編】

2019.08.30

乾 和代乾 和代

WEBマガジン『ANTENNA(アンテナ)』の副編集長の岡安いつ美。もしかすると、カメラを持つ彼女の印象が強い人が多いかもしれないが、当サイト運営や編集、執筆などの役割も担っている『アンテナ』を立ち上げたメンバーの一人だ。『アンテナ』に掲載している記事の中では、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)やボロフェスタなどのライヴ写真の多くを撮影し、京都写真部などのコミュニティの運営も行っている。ほかにも関西のバンドのライヴ写真やアーティスト写真を撮影するなど、フォトグラファーとしても活躍の場を広げている。そんな彼女が、昨年フリーカメラマンへと転身した。ここ京都で大きな転機を迎えた彼女だが、実は関東出身である。どんな思いでこの場所に辿りつき、今、ここで活動しているのか。あらためて話を聞くと、そこには彼女の音楽へのブレない思いがあった。

関東からやってきたから気づいた、関西に媒体がないということ。

ーー:

京都に来たきっかけについて教えてください。

岡安:

京都のライブハウスGROWLYに採用されて、京都へやってきました。大学を卒業して1年くらいたった頃、フリーターをしていたんですが家を出たくなって。就職先を探していて、見つけたのがGROWLYでした。

ーー:

なぜ、ライブハウスで働こうと思ったんでしょうか。

岡安:

音楽に関わる仕事をしたいとずっと思っていたんです。WEB媒体の音楽ライター、音楽フェスの誘導ボランティア、タワレコやHMVの店員などいろいろしてきました。でも、もっとアーティストの側で関われる仕事がしたいと思い、面接を受けたんです。

ーー:

ちなみに、その頃はカメラには興味がなかったんでしょうか。

岡安:

ライヴの写真を撮ることにもずっと興味はありました。大学の頃ライヴ写真を撮影されているカメラマンのアシスタントに応募したら「きみ、茨城県に住んでるの?終電がなくなることがあるから、茨城に住んでたら、この仕事はできないんじゃないかな」って言われてしまったんです。

ーー:

そこで「東京に出て行こう」とは思わなかったんですか。

岡安:

仕事のために東京に移り住もうとは思わなかったんですよね。実際、実家から仕事をするために東京に通っていたし、特に憧れもなかったんです。東京は私にとって広すぎて、どこが好きだとかここに住みたいなんて考えたこともありませんでした。今思うと、東京に行くという選択をしなかった自分自身が不思議でなりません(笑) 

ーー:

でも、京都を選んだ。

岡安:

そうですね。何も考えずに京都を選んだのですが、今では関西の方が好きです。京都は街のサイズが自分にちょうど良かったんですよね。

ーー:

その京都で『アンテナ』を立ち上げましたが、どうしてWEBメディアを作ろうと思ったのでしょうか。

岡安:

大学生の時に音楽系の媒体でライターをしていました。その媒体に関わったことでライターとかに憧れたり、音楽メディアに関する仕事を知ることができたんです。本気で面白いことをやろうとしている大人と関われる数少ない場所だったから、すごく楽しかったんですよね。

 

京都にも同じような音楽媒体があると思っていましたが、調べると媒体が東京に集中していて関西にはないことがわかったんです。京都は学生も多いし若い人も多いけど、媒体がないから、自分のように『好きな音楽について』書きたいと思う人が育たないのでは、と思いました。

 

あとライヴハウスで働いていた時、リアルタイムで京都や大阪で起こっていることがすごく面白いと感じていたんです。でも、それをツイッターでつぶやくだけでは、文脈や時系列をアーカイヴできないし、後からシーンを追いかけることが難しいんですよね。実際私もライヴハウスの中で働いて半年くらいは京都音楽シーンの全体像を掴めなくてやきもきしました。だから、今自分の身の回りで起こっていることをまとめられれるような場所が必要と考えたんです。それがきっかけで、媒体を作りたいと思うようになりました。

“カメラマン”と名乗れるようになるまでの戸惑い

ーー:

『アンテナ』を始めた時点では、岡安さんはライターだったんですよね。では、カメラの仕事はいつからはじめたんですか。

岡安:

2013年の京都のライブサーキットイベント“いつまでも世界は”のスタッフをしていた時です。イベントの記録写真が要るっていう話になって、当時私は初級機材のカメラを持っていたので「それでよければやりますよ」って写真を撮り始めたのがきっかけでした。

 

その現場にキツネの嫁入りのマドナシさんが来ていて「写真撮れるの?」って声をかけられて。その後すぐにマドナシさんから「ライブで写真を撮って欲しい」って話をいただいたんです。頼まれて撮影をする経験が少なかったので撮影の時はすごく緊張しましたが、マドナシさんがその写真を気に入ってくれて。以来キツネの嫁入りが主催しているイベント『スキマ産業』の撮影をするようになりました。だから本格的にライヴ写真を撮り始めたのは、完全にマドナシさんのおかげです。

スキマ産業vol.39 @ 木屋町UrBANGUILD 2014.09.15

ーー:

当時と今を比べた時、撮影することに対する気持ちの変化はありましたか。

岡安:

はい。最初は「カメラマンだ」なんて名乗れないって思っていました。かつて私が所属していた媒体にいたカメラマンたちが「最近“なんちゃってカメラマン”が増えてきて……」っていう話をずっとしていたんですよね。デジタル一眼レフを持っていれば、誰でもカメラマンと言える時代です。自分が写真を撮っても”なんちゃってカメラマン”にしかなれないと思っていました。

ーー:

どこかのタイミングでその思いが変わった?

岡安:

今も、キツネの嫁入りの写真を撮り続けているんですが、マドナシさんが毎度褒めてくれるんです。それに対して「いや、私なんか」って返事をしていたんですよね。ある時に「私なんか」って言うとがすごく失礼なのでは、と思ったん瞬間があって。自信のなかった自分を肯定してくれているマドナシさんの感覚を否定していることになるんじゃないか?と思ったんです。それならもっと頑張って、褒められて然るべきレベルになろう、と思いました。それが自分の意識が切り替わったタイミングだったと思います。

ーー:

では、フリーカメラマンになろうと思ったきっかけは?

岡安:

WEBディレクターの仕事を正社員で4年くらいやっていましたが、その仕事が自分のアウトプットである感覚がなくて……。デザインもコーティングも、カタチにしてくれているクリエイターさんがいて、自分はチェックしてオッケーを出しているだけ。もちろん設計したりはしているし、ディレクターの仕事が重要なのはわかっているけど、私じゃなくてもできるよなと思ってしまって……。

 

そんな頃、いろんなミュージシャンがアーティスト写真の仕事を私に頼みたいと言ってくれたり、自分が撮って編集したものをアーティストが使ってくれている数が急増していたんです。カメラとWEBディレクターの仕事を比べて、どっちが自分で仕事をした感覚が得られるかを考えたらカメラの方だったので、カメラの仕事に振り切ってみよう、となったわけです。

カメラは、音楽と関わるための手段。

ーー:

今後、カメラマンとしてどんなことをしたいですか。

岡安:

今でもWEB記事用の撮影はしているので、それは引き続きやりたいですね。あとは最近母が、私が撮った死んだ犬と母が一緒に写っている写真を引き伸ばして飾ってくれてるんですけど、それがすごく嬉しくて。今の自分って今しか存在しないと思うので、人が「写真を欲しい」と思う瞬間に関われればいいなと思っています。それはライヴ撮影も一緒。意識しないとライヴ写真ってきちっと残せないと思うんです。今はスマホで誰でも写真を撮れるから、一眼レフできれいな写真を残す必要ってないかもしれませんが、いざ今までの活動を振り返りたい時には必要になると思うんです。誰かの節目になるものごとをきっちりと写真で残したいと思っています。

ーー:

自分がどう表現したい、とかじゃなくて、誰かのために撮りたい?

岡安:

そうですね。私の写真を「良い」って言ってくれる人や必要としてくれる人には全力で応えたい。あと私にとって一番根っこにあるのはとにかく「音楽と関わるにはどうしたらいいか」。カメラはそのための手段なんです。多分死ぬまでこれに尽きると思います。

 

ライヴのように写真をそこで起こっていることや流れとか、一瞬を切り取ることは得意だけど、私の写真がかっこよくなるのは「アーティストがかっこいいから」でしかないと思うんです。ただ、最近アー写とジャケットを任せてくれたアーティストもいて、そのアーティストのアウトプットとして一番ふさわしいものを、自分の表現で落とし込む……ことをよく考えます。「岡安らしい」アウトプットを望んでくれる人が増えたおかげで、自分の表現についても考える時間は爆発的に増えました。

アーティスト写真とジャケットを任せてもらったCharlotte is Mineのジャケット
アーティスト写真とジャケットを任せてもらったCharlotte is Mineのアーティスト写真
ーー:

写真を撮るときに気にしていること、大事にしていることってありますか。

岡安:

お客さん目線で撮ること。頼まれたらやりますが、ステージにあがったり、袖に入ったりとかは全然しないです。そういう写真が必要だったり、いい写真になったりするのはわかるけど、私は、前から見たバンドとか、お客さんごしのバンドとかに興味があるし、その場にいた空気感を撮りたい。私も根っからのライブ好きのお客さんなので、お客さんと目線が一緒、それが自分のスタンスです。

 

あと、ライヴ写真を撮る前に、アーティストさんの宣材写真とか、それまでのライヴ写真は絶対見るようにしています。最低限の予備知識はインプットするだけで撮影への意識も変わると思っているので……。その上で、ネットにアップされていない角度や表情を切り取ることを意識しています。ありがたいことに「自分のこんな表情初めて見た」って言ってもらうことが多いです。

KONCOS:https://kyoto-antenna.com/post-24818/
ーー:

では、今までで撮った中で、よかったと思う写真はありますか?

岡安:

まずは2014年のナノボロで撮ったフジロッ久(仮)ですかね。ボーカルの藤原さんが歌っているのを正面から撮ったんですが、ご本人にめっちゃ褒めてもらって。自分がいいと思って出したものが、撮られた側に褒めてもらえて……そんな体験がそれまでになかったのでものすごく嬉かった。なのでこの写真は今でも大切な写真です。

フジロッ久(仮):https://kyoto-antenna.com/nanoboro2014_140831/

最近だと、昨年のGEZANの写真。彼らのライヴがあまりに圧倒的な強さを持っていたので、それをちゃんと伝えられる写真が撮れたと思っています。

GEZAN:https://kyoto-antenna.com/post-24840/

あとは、2年前のSXSWで撮影したThe Lemon Twigs。『アンテナ』のインスタグラムをはじめて、アップしたら”いいね”が結構ついて、私のライヴ写真ってもしかしていいのかと思えた(笑)。評価されたことと、やっぱり、その日の彼らのライヴを観てすごく感動してしたことを、ちゃんと写真で表現できたこともよかったですね。自分がいいと思うアーティストを自分のフィルターで選んで撮り続ける。こだわって選んでるし、それを信頼してくれている人もいるから、そのためにもがんばりたいと思っています。

The Lemon Twigs:https://kyoto-antenna.com/post-12329/
ーー:

いろいろ経験して、カメラの仕事に出会えたんですね。

岡安:

そうなんですよ。こんなに人から必要とされたのも初めてで、まさか自分がカメラマンになるなんて全然思っていませんでした。でもこれも、音楽に関わりたいという軸がブレてなかったからこそ今があるのかなって思います。

ーー:

では最後に、『アンテナ』の岡安さんとしてこれからどんなことをしていきたいですか。

岡安:

できれば、もっと写真にフォーカスして関わりたいですね。今は部活みたいな感じで京都写真部の活動をしていますが、初心者向けの写真教室をやりたいと思っています。京都写真部の活動を通して気づいたことは、カメラの機材を持っていて、いつでも撮れますっていう人もいれば、カメラを買ったばかりの人もいて。『アンテナ』なら、初心者の方にもカメラのことを教えるだけでなく、その後に、写真にクレジットが入るような仕事となる場所を作ることができるかもしれないと考えています。

 

Live House nanoのマーコさんのインタビューで「人が喜んでくれるって考えたらちょっと無理出来るやん」ってことを言ってて、それが本当だなと思っているんです。私も自分のためにがんばれなくても、『アンテナ』のためなら、がんばれる。今は『アンテナ』のために動いてくれている人がたくさんいるから、その人たちのためにも『アンテナ』という場所を守っていきたいと思っています。

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