COLUMN

映画『ナイトクルージング』で “観えた” もの

2019.06.12

マグナム本田マグナム本田

©一般社団法人being there インビジブル実行委員会

『ナイトクルージング』とはどういった映画か

“生まれつき全盲の加藤秀幸がつくる映画のメイキングドキュメント” という概要、そして「見えない監督の映画にあなたは何を“観る”か?」というコピーを発見した時、筆者は「うへへ、おもしろそう……観たことないようなトンチキな映像観られるかも……」などとよだれを垂らしながら公開日に駆けつけることを決めた。実際によだれを垂らしていたわけではないが、かなりゲスな考えを抱いていたのは確かだ。しかしその考えは大きく裏切られることとなる。

先天性の全盲である加藤秀幸氏の書いたSFアクション短編『GHOST VISION』の脚本、全6シーンをシーン毎に実写、プリビズ(簡易なCGを用いた動く絵コンテのようなもの)、ブルーバックによる合成、3DCGで映像化するという。

 

ここで違和感を感じる。シーン毎に撮影手法が変わると映画のテイストに統一感がなくなるのではないか。最初から2Dアニメにすれば予算も手間も省けるのにと思った途端、我々観客は思いもよらぬ事実に気付かされる。加藤氏には2D、二次元という概念がないのである。考えてみれば確かに一次元〜三次元という概念は実に視覚に基づいた概念である。とはいっても “映画” というものは三次元を二次元に置き換えた表現だ。ドキュメンタリー部分の大半は加藤氏と撮影スタッフとの “見えない者” と “見える者” との間にある乖離の文字通りの “手探り” による翻訳作業に割かれている。

 

この複数の手法による撮影は実に意地悪だ。それぞれの手法で加藤氏ができることよりも “できないこと” が浮き彫りになる。そもそも色の概念がない、ならモノクロはというと明暗を決める白と黒も “色” なのだ。しかしその他カメラのフレーミングや役者の表情、アクション、CGの質感などをスタッフとすり合わせていく工程を観ているうちに本作『ナイトクルージング』の本質が垣間見えてくる。

"見える"、"見えない" の曖昧な差

本作は決して「視覚障害者が晴眼者も驚くすごい映像を作って万歳!」といった所謂 “感動ポルノ” ではない。はっきりいって完成した『GHOST VISION』はハリウッド製のSFアクションを見慣れた我々にとってはショボい。時折「お!」と感じるところもなくはないが、周囲のスタッフによる尽力が大きいだろう。そもそも加藤氏には “すごい映像” を撮る気がないのだから。

 

ではどんな映画なのか、端的にいえば “コミュニケーション” に関する作品である。加藤氏とスタッフがフレーミングや演出をすり合わせている姿は普段我々が行っている他人とのコミュニケーションをほんの少し拡大したものだ。

 

目の前に人がいるとする。視覚、つまり見た目から得られる情報からその人の何パーセントを理解できるだろうか。バンドTシャツを着ているからといってそのバンドを好きかどうかはわからないし、髪を七三に分けているからといって真面目かどうかなどわからない。ゼロではないにしても得られる情報は僅かだ。そこで我々は作中で加藤氏が空間認識を潜水艦のソナーで喩えたように、こちらから何かを発し、その反応で理解しようとする。そう考えると “見える”、”見えない” の差は非常に曖昧なものであることがわかる。

 

そこに気付くと本作『ナイトクルージング』と『GHOST VISION』が見事な入れ子構造になっていることにも気付く。『GHOST VISION』の内容については語らないので是非劇場で確認してほしい。

全理解が求められる中で、 "理解できない" ことをおもしろがること

『ナイトクルージング』というタイトルも絶妙だ。 “ナイト” であって “ダークネス” ではない。 “クルージング” という言葉にも新大陸を目指す大航海といったような重みはなく遊興感がある。佐々木誠監督と加藤氏のやりとりも気負ったところもなく軽妙だ。終盤、撮影を終えた加藤氏に佐々木監督が尋ねる。

 

「どうですか、自分が作った映画を観て……観てってあえて言いますけど」

 

それに対する加藤氏の返答はまるで小粋なバディムービーのそれだ。

 

対人関係において相手を “理解できない” ことはとかく深刻に受け止めがちだ。だが “理解できる” ことが良好な関係を築く最大の要因なのであろうか。むしろ “理解できない” ことがおもしろく感じることもないだろうか。

 

『ナイトクルージング』はそんな “理解” と “無理解” の間を加藤氏と佐々木監督のふたりが月明かりの下、ゆらゆらと揺れながら、時に船酔いしながら行き来する “おもしろい” 遊びが記録されたバディムービーである。

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