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cafe,bar & music アトリ

2019.02.15

峯 大貴峯 大貴

大阪市東淀川区淡路。中心に位置する阪急淡路駅は京都線と千里線が交差するターミナル駅であり、さらに2019年3月16日にはJRおおさか東線の新大阪~放出駅間が連絡するに伴ってJR淡路駅が開業される。また阪急線の高架化工事も伴って少しずつ開発がなされ、今なお街全体が様変わりしている最中だ。阪急淡路駅東口を出て目の前の『焼き鳥屋 大山』の2階に位置するアトリもそんな再開発が進む中、2018年2月にオープンした小さなカフェ・バーである。大山の店を一度入り、横手の階段のストトンと上がれば、BGMの音楽が漏れ聞こえる先にアットホームな空間が現れる。時には弾き語り主体のライヴや各種イベントも行われており、この街のカルチャー発信秘密基地のような場所となっている。

 

スタッフは全員バンドマン。店を取り仕切っているのは大阪のバンド、ダイバーキリンの山中“ジョンジョン”尚之(Vo / Gt)とモリヤンヌ(Dr)の二人。バンドもやるし、飲食店もやる。どちらも一切手は抜かない。と誰が見たって大変な所業をもがきながら、苦しみながら、そして何より楽しみながら取り組んでいる。今回そんな二人にオープン1周年を迎えるこのタイミングで“なぜこの街で、なぜバンドマンが店をやっているのか”について話を聞いた。

INFORMATION

住所

〒533-0023
大阪府大阪市東淀川区東淡路4丁目17-10 大山2階

営業時間

月水木:18:00-24:00
金:11:30-14:30,18:00-24:00
土日祝:11:30-24:00

定休日

火曜日

お問い合わせ

090-6730-9834

HP

https://atri-awaji.com/

Twitter

https://twitter.com/atri_awaji

こんな条件とめぐり合わせがいい話、やめときますわって言ったら後悔する

ーー:

現在お二人は淡路の近辺に住んでいますが山中さんは滋賀県出身で、モリヤンヌさんは奈良県出身。この辺りに住むようになったきっかけを教えてください。

山中“ジョンジョン”尚之(以下:山中):

そもそもダイバーキリンが関西大学の軽音楽部で結成されたバンドで、在学中はまだ自分も滋賀から通ってたんですよ。でも練習も関大前駅のスタジオを使っていたし、ライヴも大阪か京都がほとんど。それで卒業した後もバンドを続けるにあたって、交通の便がよくって家賃も安い場所として引っ越したのが淡路で。

モリヤンヌ(以下 やんぬ):

私はその後に加入したけど最初はまだ実家の生駒に住んでいて。早く地元から出たいなとは思っていたし、ダイバーキリンは大阪のバンドって言ってるし。だからしばらく経って淡路の隣の柴島(くにじま)に住むようになりました。

ーー:

街を気に入ったというよりもバンドのやりやすさから交通の利便性と家賃の安さで住むようになったと。淡路の街の特徴はどういうところでしょうか?

やんぬ:

すごく都会やったら住みたいとは思わなかったなぁ。東淡路商店街と淡路本町商店街と2つあって、下町って感じがいい。淀川が近くて川沿いの環境も気に入ってます。あとバンドマンも多いよな。

山中:

そうそう。昔バンドやっていたって人も含めて、実は音楽好きが多い街なのかもしれない。古くからここに住んでいる年齢層が高めの人が割合としては大きいけど、自分たち含めて20~30代は他の地域から移り住んできた人も多い印象。

ーー:

ではそんな淡路で二人が店を出すに至るまでの経緯を聞かせてください。

山中:

淡路ってこれだけ交通の便もよくって家賃も安くて、音楽好きな人もいっぱい住んでいるのに、自分たちが遊べるようなライヴハウスも、音楽スタジオも、CD屋さんもない。二人とも大好きな京都の『大丈夫』(寺町cafe&BAR大丈夫)のような音楽が鳴っていて、いつもバンドマンが集まってお酒を飲んでるような店があったらいいのにとは思っていて。だからやんぬと冗談半分で「仕事困って、どうしようもなくなったら淡路で店でもやろか~」みたいなことを言ってたのがスタートですね。

ーー:

確かに昔からやっている居酒屋とか喫茶店はたくさんあるけど、音楽とかカルチャーを発信する場所は淡路にはないですよね。

山中:

それが急に現実的になったのはこの店の近くにある『たこやん』っていう音楽が好きな店主がやっているたこ焼き屋さんで出会った方がいて。今はライヴも来てくれるほどの仲なんやけど、その方と飲んだ時に他愛もなしに「淡路でお店やれたら面白いよね~」って話をしたら「あそこのビルの2階が空いているらしいけどオーナー紹介するから見に行く?」って言われて。

やんぬ:

それが2017年の9月くらいの話やね。

山中:

それで実際にオーナーと会って、音楽流したい、ライヴしたい、色んなもの飾ったりポスター貼りたい、みたいなこちらの要望を話したら全部「やって!やって!」って前のめりで。

やんぬ:

「これはやるしかないかも……」ってなった。逃げられへん感じ。

ーー:

じゃあ色んな不動産を周って店探しをしていったわけじゃなかったと。

山中:

それやったら絶対やってない。こんな怪しいくらいに条件とめぐり合わせがいい話、「やめときますわ」って言ったら後悔するなって思いましたね。

ーー:

その時は真っ新なスペースだと思いますが、どんな空間にしたいとかありましたか?

やんぬ:

ライヴで遠征するときに泊まった各地のゲストハウスの内装イメージへの憧れが強かった。あとは四日市の『ドレミファといろは』とか。

山中:

名古屋の吹上にある『鑪ら場』とか。あとカウンターの手作り感は、自分がよく遊びに行っている瀬戸内海の豊島(てしま)にある、古民家を自分で改装している食堂。だから二人の好きな場所をないまぜにした感じです。

ーー:

メニューの開発とか、仕入れるお酒も自分たちで試しながらでしょうか?

山中:

メニューに関しては居酒屋でよく見かけるメニューとか味付けは避けましたね。だからウチで出してる生姜焼きもピリ辛にしてみたり。立地とキャパを考えたら価格で勝負することは出来ないんですよ。それやったらアレンジを加えて納得感のある、いいものを出したいとは考えている。お酒で言うとビールはアサヒを基本のものとして置いているけど、それ以外は出している店が少ない銘柄をいれるようにしてたり。それでいてむちゃくちゃに高くはないやつ。

やんぬ:

あとオープン祝いでいただいたお酒が多くって。その中で好評だったのを仕入れるようになったものもある。この和歌山のジン(KOZUE-槙-)とか。

山中:

新しいメニューを食べてもらったり、知らんお酒を教えてもらったり、お客さんに頼っている部分も大きいね。

オープン1周年。やりたいことをやり続けるしんどさと充実

ーー:

そんな想いと工夫を重ねながら2019年2月でオープン1周年となりました。率直に、店を始めたこの1年を振り返った時どういう感想が出てきますか?

やんぬ:

すごく充実していたけど辛い時もあったなぁ。楽しい場所にしたいけど、経営とか売り上げのことからは逃げられへん。バンドマンがやっていて音楽にコンセプトを置いた店だということはブランディングやから周知していきたい。でもその上で排他的になるのではなく、多くの人にきて欲しいから、どういう風に営業していけばいいのかを常に考えないといけないし。それでいて自分は普段会社員として仕事もしていて、バンドもあるから、もちろん体力的にも大変で。

 

でも愛ゆえのしんどさで、自分が経営するお店を持つことには憧れがあったからこのタイミングだって決意してオープンしたし、それでいて自分一人じゃなくってジョンジョンもいて出来ていることだから、へこたれることは出来ないし。だからなんとしてもしがみついてくって感じでした。

山中:

ある種自分たちもオープン当初は甘い気持ちが絶対どっかにあったなって1年経つと気づいたよな。正社員のような精神的、収入的余裕はないし、バンドマンとしてもフリーターをしながら週末の時間を使う方が楽やし生活の水準も高いと思う。でもそうじゃなくってさらなる生活のやりがいを追い求めていくための1年やった。

やんぬ:

現実的に店を続けていくことを考えた時に、やりたいことだけやっていてもあかんなとは気づかされた。思ったより売り上げと人件費・家賃とのバランスが合わないなとか。

山中:

だから店を続けるために、なにをやめるのかという決断が必要やった。毎月の収支が同じなわけがないし、オープン半年でランニングコストの面で月~木のランチ営業をやめることにもして。店を開け続けることでお金がかかってしまうってやり始めてからわかった。

やんぬ:

ホンマはお金ないバンドマンにめっちゃ安い値段で、いっぱい食べたり飲んだりしてもらいたいよな。

山中:

これ以上安くするのは無理無理!今でも結構頑張ってる!(笑)

ーー:

そんな大変な想いをしてながら店もやってダイバーキリンもやっている。なぜ二人はここまでのことをしているのでしょうか?

やんぬ:

店に立ってても「ダイバーキリンは売れたいの?」って言われることはあるけど重要なのは「楽しい」を続けることで、バンドもそうだし、アトリもそのための場所。バンドで売れて楽しいんだったらそりゃ一番いいんですけどね。

山中:

その時の楽しいことをするのが第一優先。バンドとして売れることを目指して動くのが楽しいのであればそうしてた。でも自分にとっての「楽しい」は自分たちの中だけじゃなくって来てくれるお客さんとか、バンドとしては共演者や呼んでくれる人も含めて、一緒に何かしらの形で場を共有して、アウトプットすることが今一番楽しいことで。だから店もやるし、バンドもやるし、イベントも打つし、行きたい場所、会いたい人のところまでライヴしに行く。そういう「楽しい」機会を増やしていくことで、もっと楽しくなるんやろうなって思ってるから。

やんぬ:

そこが私もジョンジョンもずっと変わらない。極端な話、この先家庭に入ることが自分にとって一番楽しいことになったらバンドも店もやめるかもしれないし。

ーー:

では店をやる「楽しさ」ってどこにあるのでしょうか?

山中:

やっぱり継続してきてくれるお客さんも増えて、知り合いが増えていくことやね。それはアトリの空間とか、スタッフとか、どこかしら気に入ってくれてまた来てくれるわけで。そこから自分たちのライヴに来てくれるようになったり、ミュージシャンだったらここのイベントにも出てくれたり。ただお酒飲んで、ご飯食べて「美味しかった~」ももちろん嬉しいけど、お客さんと店員の関係からさらに広がった瞬間は嬉しいです。逆にライヴハウスで出会った人たちがお店に来てくれることもあるし、そういう深い繋がりをこちらも求めているところがある。

やんぬ:

私たちとお客さんの間だけじゃなくって、店にいるお客さん同士もどんどん繋がっていくのがすごい。それまで知り合いじゃなかった人同士が喋っていて、知らん間にスタジオ入ろうってなっていたり。

山中:

狭い店で距離が近くてよく喋るっていうのはわかっていたけど、まさかここまで話が弾む空間やっていうのは予想以上。馴染みのお客さんに一昨日言われて嬉しかったのが「距離もそうやけど、君らスタッフがそうさせているんちゃうか」って。でもこちらからしていることでいえば、意識的に話を振っているくらいなもんで。スタッフは全員自分たちとの信頼関係があって、飲食の経験もあって、店を任せられるようなバンドマンに声をかけて集まってもらったんですよ。でもただ黙ってお酒と料理を作るだけじゃなくって、そういう空気を作れる人柄のスタッフばかりでよかったなって思う。

ーー:

一方アトリでは弾き語りを中心にライヴイベントもよく行われていますが、企画はどういう風に考えているのでしょうか?

山中:

うちらはバンドやから、音の種類的に弾き語りのミュージシャンとはそこまで共演経験がなかった。だからバンドの活動における新規開拓というのが目的としてあります。だから知り合いに紹介してもらったり、この店で仲良くなって出てもらったり。そこの繋がりが今度はバンドでやる企画イベントにも反映されたり。去年出た『りんご音楽祭』にも一緒に行った奈良の藤山拓とかもそうで。

ーー:

これまでのバンド活動では出会えない人にも繋がりを広げていくためライヴイベントだと。

山中:

だから自然とここで演奏してくれる音楽にも影響受けるよね。「めっちゃええやん~!俺もそういうのやりたい~!」って(笑)。でも自分でブッキングして、バーカウンターの端っこで見ていると気分はライヴハウスのブッカー。土龍さん(Live house nano)がどういう気持ちで演者を見ているのか、ちょっとだけ理解したような気持ちになった。それでいてここにはマイクも照明もないし、電気も通さないしお客さんとの距離も近い。演者にとって一番シビアな場所なんですよ。良くなったのも調子悪いのもすぐわかる。だからこそ自分が出る時も怖い。

やんぬ:

ジョンジョンがここで弾き語りする時、めっちゃ緊張してるよな。

山中:

めっちゃ緊張する!イベントを企画して演者を呼んでいるのも、店を回しているのも自分。でも自分が出番の30分はオーダーを止めて演奏するってライヴハウスに出る時と全然違う緊張が襲ってくる。『大丈夫』のマモルさん(ザ・シックスブリッツ)に「歌う時はミュージシャンやねんからエプロンはずせ!」って言われて、今はそこが店主とミュージシャンのスイッチになってる。

“レインコート” 2018年4月13日(金)

街や人との繋がりを広げていくアトリのこれから

ーー:

ここからアトリは2年目に入ります。そしていよいよ2019年3月にはJR淡路駅も開業されて、より街も活気づくと思います。これからどういう店にしていきたいでしょうか?

山中:

駅前だけど2階の小さな店だからやっぱり新規の人が来づらくって。毎日下に置いている看板は見てて、「いつか行こうって思っていたら1年経ってしまいました」って人もいる。そんな人に入ってきてもらえるためにはどうしたらいいのかもっと考えていかねばと。JR淡路駅も出来るし東大阪方面とかJR・京阪ユーザーとも繋がっていきたいしね。

 

イベントで言うと1年やっていくと、そもそも弾き語りの人との繋がりが少なかったから、呼べる人にも限界が出てくる。だから来てくれる人がまた他のいいミュージシャンを呼んでくれたりして、どんどん繋がりが広がっていったらいいなと。あとトークテーマを設けた“銭湯ナイト”がすっごく盛り上がって、あんなライヴだけじゃない別の角度のイベントももっとやっていきたいですね。

やんぬ:

あとは東淀川区内のお店で面白い店もいっぱいあるから、そんなお店の横のつながりでなにか一緒に出来たら面白いよね。

山中:

隣のうどん屋『かわ』の今の店長が同世代で、そこも2階が空いていて使えるらしい。商店街にあるお店で1階も2階も店舗っていうのは少ないから、まだまだ淡路でお店が出来るスペースはあるのよ。だから誰かやってほしいな~って思う。アトリはここの地域のそんな新しいタイプの店の先駆者ではあるから盛り上げていきたい。

やんぬ:

例えばサイクルショップの『すずめ』ってところはヒップホップが好きでCDも売っていたりする。うちにはバンドマンがやっている店として来てくれる人も多いから、まずアトリがある街として認識してもらって、そこから「他にも面白い店ある!」って言っていきたいよね。淡路を乗り換えだけじゃなくってわざわざ来る街にしたい。

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