WHALE LIVING
Homecomings

2018.11.26

マーガレット 安井マーガレット 安井

生きるとは呼吸することではない。行動することだ。と言ったのはジャン=ジャック・ルソーだが、本作を聴いた印象はまさにこの通りである。より具体的かつ端的に言えば、『WHALE LIVING』は「自分らしさ」を捨てながらも、芯は崩さずに新たなる可能性を提示した集大成的な作品だ。

 

では、Homecomingsの「自分らしさ」とは何か。それはサウンドと歌い方が生み出すノスタルジアだ。彼らが誕生した2012年、関西では海外のインディ・ポップと共振するバンドが多かった。その中で彼らのサウンドは、ギターの煌めく音作りと力強いビートが印象的であり、ロール・モデルであるザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートと比べても引けを取らないものであった。しかしそのサウンドに乗せる畳野彩加(Vo / Gt)の歌声は、英語でありながら全くネイティブではない日本人的発音である。これにより彼らの音楽はインディ・ポップへの敬愛だけでなく、完成度の高いサウンドの中に生身の女の子の「ほつれ」を見出だすアイドル・ソング的な魅力も放っているのだ。

 

そしてそれは一種の「ノスタルジア」だとも言い換える事が出来る。このように書けば印象論のように思われれかもしれないが、「ノスタルジア」という言葉は彼らのキーワードであることは間違いない。クリスマスソングをバンドのキーワードとし、さらに2014年の1stアルバム『Somehow, Somewhere』は12月24日に発売されたこと。2016年の2ndアルバム『SALE OF BROKEN DREAMS』が過去を見つめる視点で構成されたスチュワート・ダイベックの〈シカゴ育ち〉からインスパイアを受けたこと。それらは全てノスタルジアという言葉に結実するからこそ彼らの音楽を聴くと懐かしさ、愛らしさを感じてしまうのだ。

 

しかしリリースや活動期間が長くなるにつれて、彼らは自身たちの音楽性に変化を求め始める。具体的にいえば『SALE OF BROKEN DREAMS』では群像劇的な物語を描くコンセプチュアル・アルバムに取り組み、『SYMPHONY』ではストリングスを、映画『リズと青い鳥』の主題歌“Songbirds”では環境音を導入し、Homecomingsの4人だけでは完結できないダイナミックなサウンド作りなどはそれに当てはまる。その姿勢は現状に満足せず、バンドとして成長していく手段を模索していた、ように感じる。そこでアルバムとして3作目にあたる『WHALE LIVING』で一つの結論に達した。今までの彼らの自分らしさである日本的英語発音を日本語にしたのだ。

『WHALE LIVING』の話をする。本作は最後に収録された“Songbirds”以外は全て日本語詩である。そのため拙い英語が生み出すマジックはここには存在しない。しかしこのアルバムにはHomecomingsがテーマとしてきたノスタルジアが確かに存在し、自身のバンドが成長するために模索した過程が結論として活きた作品になっている。例えばサウンド。それまでのアルバムでは4人の奏でるサウンドを軸にしてきたのだが、本作では“Whale Living”におけるストリングスや、“Lighthouse Melodies”での波の音などの効果音を導入しているところなど、 『SYMPHONY』以降からの、4人では完結できないサウンド作りの成果が形として現れている。

 

また『SALE OF BROKEN DREAMS』がダイベックの短編集〈シカゴ育ち〉などにインスパイアされたアンソロジー的な作品だったことに対し、『WHALE LIVING』もまた、手紙を軸とした恋人たちの距離についての物語を描いたコンセプチュアルな作品である。本作は主に2つのパートに分かれる。一つは“Hull Down”、“Blue Hour”のように、男女の出会ったころの過去の話。もう一つは“Smoke”や“Parks”といった楽曲が織り成す、二人が離れて暮らす今の話。この2つのパートをHomecomingsは過去の話には冒頭にノイズを導入することで、過去と現在を対比した構造で描く。また生々しい表現を控えて、イノセントでピュアな二人の恋愛を描き、手紙で伝えたくても伝えられない気持ちがあり、その気持ちは〈WHALE LIVING〉という海の底にある場所を介して届くはず。と、おとぎ話と恋愛を絡ませたノスタルジックな世界を紡ぎ出す。

 

そして彼らはこの『WHALE LIVING』という物語を日本語で描く。今までの彼らの楽曲は歌詞を1番と2番で内容をほぼ変えていなかったのだが、今回は日本語にしたところ同じ歌詞がなくなり、情報量が格段と多くなっている。そのため作品の中で紡がれる物語を今までより深く描け、リスナーに物語世界に没入させてくれる。そしてアルバムの最後は“Songbirds”。この楽曲だけ今までとは違い、英語で歌うのだがこの曲はボーナストラック的というよりかは本作のエンドロールとして差別化したように感じる。“Songbirds”という曲の主題は「出会いと別れの記憶」について。それは『WHALE LIVING』に流れているメッセージでもあり、この曲が流れる事でアルバムが紡ぎ出してきた物語を俯瞰できる作りになっているのだ。

 

新しい要素を取り入れながら、自らが持つノスタルジアな世界を作り上げるHomecomings。『WHALE LIVING』は彼らのメルクマールであり、現時点での集大成である。

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