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京都音楽博覧会2018 in 梅小路公園 ライヴレポート

2018.10.02

乾 和代乾 和代

9月23日に梅小路公園にて開催された、今年で第12回となる京都音楽博覧会。2007年第1回の突然降り出した雨のイメージが抜けず、いつまでも雨具が離せなかったこともあったが、今年は青空がのぞく少し秋めいた空気の中、音博カラーであるグリーンの衣装に身を包んだFM802のDJ・野村雅夫によるアナウンスで開場。毎年恒例のくるりによる開会宣言では岸田繁が「日没まで良い夢を見たいと思っております」と告げていたが、今年は観客にとっても、出演者にとっても、この音博への登場を待ち望んでいた人たちの出演が叶ったまさしく夢のような一日となったのではないだろうか。そんな思いを馳せながら、今一度、あの時間に戻ってみたいと思う。

くるりへの思いをステージにぶつけたnever young beach

「初期のくるりのようだ」と岸田に紹介され登場したnever young beach。安部勇磨(Vo. / Gt.)はメンバーで1人、音博のTシャツを着用し、こぼれんばかりの笑みで手拍子をしながらステージの中央へ。鈴木健人(Dr.)が叩く四つ打ちのビートにのってはじまったのは“どうでもいいけど”。阿南智史(Gt.)とサポートのneco眠るの森雄大(Gt.)の2人が奏でるリフが気持ちよく芝生の上を駆け抜けてゆく。歌詞に「雨」という言葉がでてくる“あまり行かない喫茶店で”を歌い終わり、空に浮かぶ雲を眺め天気を気にしながらも安部が歌ったのは新曲“いつも雨”。くるりの“ばらの花”を思わせる切ない歌詞と巽啓伍(Ba.)のエイトビートが雨粒のようで、ステージには見えない雨が降っているみたいだった。さてその巽は、2008年の第2回の音博では客席側にいたそうだ。安部もくるりが好きなことを全面に出そうと今回初めて他のバンドのフェスTシャツを着たという。このステージに立てた喜びをMCだけでなく、フルスロットルの演奏で見せ、華々しく音博のオープニングを飾った。

歌声とギターさばき、愛くるしい笑顔で観客を魅了したCrowd Lu

白い歯をのぞかせて現れたのは、台湾からやって来た今回唯一の海外勢Crowd Lu。くるりのファンファンが彼の音源を聴いたことをきっかけに、昨年くるりのラジオ番組にゲストとして登場。そんな縁もあり、今回の出演が決まったという。知らない人も多かっただろうが、開口一番その口から繰り出されるボイスパーカッションやピッコロのような高音に会場の視線は彼に釘付け。歌詞を歌いだす前に観客の興味をぐっと惹きつけた。歌のノンバーバルパフォーマンスと言ってしまいたくなるくらい、歌詞の意味がわからなくとも彼の歌の魅力に引き込まれてしまう。そんな彼が日本語で歌った“いつも信じて”では、右手でアコギの弦をハンマリングのように叩きながら演奏。巧みなギターテクニックも披露してくれた。ラストに演奏された“OH YEAH!!!”では、観客とのコールアンドレスポンスも。音博にはいつも、新しい音楽との出会いや発見、そして、知らなくても自由に楽しめるそんな空気に溢れている。今回はこのCrowd Luがその空気を体現していたのではなかろうか。そんな彼は音博への感謝の言葉とともに、ひと足早い“Happy New Year”なんて口にして音博グッズのタオルをはためかせ去っていった。

圧倒的な演奏力とコミカルな演出のギャップで魅せるスターダスト☆レビュー

そんなCrowd Luをも凌駕するほどの圧倒的な高音、還暦を超えているとは思えない素晴らしいファルセットを発声練習といって披露しながらスターダスト☆レビューの根本要(Vo. / Gt.)がステージ上へ。岸田がお風呂のラジオで聴いていたというエピソードを話していたが、私も実際に曲を耳にしたことは何度もあったが生でこの音に触れたのは初めて。根本に、柿沼清史(Ba. / Vo.)、寺田正美(Dr. / Vo.)、林 “VOH” 紀勝(Per. / Vo.)にサポートの岡崎昌幸(Key. / Gt.)、添田啓二(Key.)を加えたメンバーで、最初に披露したのはアカペラでの“Amazing Grace”。美しいハーモニーとちょっと自虐的なところもあるがお茶目な根本のMCのギャップで観客を翻弄させながら、“夢伝説”や“木蘭の涙”を熱唱。“銀座ネオン・パラダイス”では「新曲、“京都”ネオン・パラダイスです」なんていう御機嫌なMCや根本と柿沼、岡崎による息のあったフレンチカンカンばりのステップなどを見せ、ひとしきり盛り上がった。そして最後に披露した“と・つ・ぜ・んFall In Love”で突然、謎のうさぎとくまのぬいぐるみがステージに乱入。根本らメンバーと一列に並び、東京オリンピックにかけて、マラソン、バレーボールなどのジェスチャーを交えた振りを観客と一緒に。笑いが耐えない中にも最後は、根本が華麗に歌い上げ、圧巻のパフォーマンスの幕を下ろした。最近は大御所枠などとも言われているが、今まで音博に出演してきた、布施明、八代亜紀、石川さゆりを観た時のような圧倒的な歌の力とパフォーマンスを肌で体感するステージだった。

ホールにいるような繊細な声の響きで、梅小路公園を満たした手嶌葵

大御所が去ったあとの空気感をものともせず、凛とした美しい佇まいで現れたのは手嶌葵。梅小路公園に京都水族館ができた2012年の第6回の音博から、水族館との共存に配慮されたタイムテーブルになっており、演奏と演奏の合間にイルカショーが開催され、次のステージを待つ間ジャンプするイルカが少し見切れるという光景も定番となっている。今回の手嶌葵もステージにあがると「イルカショーが終わったから大丈夫ね」とささやくようにつぶやいた。サポートはオオニシユウスケ(Gt.)と真藤敬利(Key.)というシンプルなトリオ編成。吸う息も、吐く息も歌声に昇華されていくような透明感のある声で、彼女は“美女と野獣”のテーマソングやマリリン・モンローの名曲などのカバーを交えて4曲を披露。あっという間であったが、ここが京都の街中であること忘れてしまうような心地よさを感じた。

ファンの願いも叶えてくれた、満を持して登場のハナレグミ

白い歯を覗かせて「本日、二度目のクラウド・ルーです。ついに来ちゃった」と言って、アコースティックギターを片手にやって来たのはハナレグミ。これも音博ならではだが、隣接する京都鉄道博物館の汽車の汽笛が鳴る時間帯に登場した。これまでも、遠藤賢司や奥田民生、矢野顕子などがこの汽笛との共演を果たしてきたが、1曲目の“ハンキーパンキー”の途中で鳴ったこの汽笛の音に合わせて歌う姿もここでだから楽しめる瞬間。2曲目に披露した“大安”は、途中に“今夜はブギー・バック”のラップ部分をはさむなど、自分の曲でも自由にアレンジし演奏する様に盛り上がりは最高潮。そんなタイミングで、ハナレグミが「くるりが好きだ」と言って歌ったのは、くるりのカバー“男の子と女の子”。今回の音博では新しい試みとして、ファンが希望する音博出演者アンケートの意見が反映されている。その上位に入っていたというのがこのハナレグミだ。きっと長年の夢が叶ったファンも多かったことだろう。そんな感慨深い気持ちも吹き飛ばすくらいに、最後はご機嫌なナンバー“明日天気になれ”で締めくくった。

バンドサウンドの気持ちよさを体感させてくれたASIAN KUNG-FU GENERATION

次に登場したのは、ASIAN KUNG-FU GENERATION。後藤正文(Vo. / Gt.)は、過去2度にわたり音博にソロで出演しているが、バンドとしては初。昨年は出演していなかったにもかかわらず、音博に遊びに来ていたメンバーもいたそうで、待望の初登場といえる。後藤もMCで述べていたが、今回はサポートのシモリョー(Gt.)がいないため、メンバー4人だけで演奏するのは実に3年ぶり。喜多建介(Gt.)が弾くミュートの効いたリフに山田貴洋(Ba.)と伊地知潔(Dr.)がビートを重ね始まったのは“センスレス”、圧巻のバンドサウンドが梅小路公園にガツンと広がっていく。「ハナレグミとくるりに挟まれてやりにくい」と後藤が話した後に演奏されたのは、昨年の音博では管弦楽アレンジで披露された“Little Lennon/小さなレノン”。2012年はアコギ、2017年はマイクを手にしていた後藤がエレキギターを掻き鳴らし、これがオリジナルだと言わんばかりに気持ちよさげに歌う。スローテンポの新曲“ボーイズ&ガールズ”はメロディアスで夕暮れ時のこの瞬間にぴったりのように感じた。ラストナンバーは“今を生きて”。それぞれ楽器を置いて、ステージを去ってからもアンプから流れる残響が名残惜しく、空を見上げると日が暮れようとしていた。

ライヴツアー「線」のバンドメンバーに管弦を交え、新たなソングラインを奏でたくるり

夕闇に染まる前の時間帯にようやく、くるりが登場。野村雅夫によるアナウンスでは、くるりのトリは3年ぶりとのことだったが、3年前はファンファンが育休中だったので、くるりのメンバー3人全員がそろったトリは実に4年ぶり。今回のメンバーは、岸田繁(Vo. / Gt.)、佐藤征史(Ba. / Cb.)、ファンファン(Tp. / F.Hr.)にサポートの朝倉真司(Dr./Per.)、野崎泰弘(Key.)、松本大樹(Gt.)、山本幹宗(Gt.)、徳澤青弦(Vc.)、須原杏(Vn.)、副田整歩(S.Sax. / A.Sax. / T.sax. / Fl. / Cl.)、湯浅佳代子(Tb.)、毛利泰士(Mp.)を加えた総勢12名。

9月19日にくるりの12枚目のアルバム『ソングライン』が発売されたが、今回はアルバム完成前にライブで披露されていた曲も多く、アルバムを聴くとアレンジが大きく変わっていたものもあった。その最たるものが、100以上のトラックを使ったと言われている表題曲“ソングライン”だ。今回のステージではレコーディング中に新たに加わったというビールの栓を抜く効果音からはじまり、こちらも曲中に新たに追加されたボレロのメロディーをファンファンがトランペットで奏でる。壮大なアウトロでは、松本が気持ちよさそうにギター・ソロを弾き、アルバムの音源を尊重しつつも見事なバンド・アレンジで今年の音博仕様に再構築されていた。今回の編成に合わせて、編曲されているものも多かったが、一番違いを感じたのは“Tokyo OP”だ。トランペットのメロディーにトロンボーンとテナーサックスがユニゾンで合わさることで迫力が増し、ベースのスラップ・パートには新たにチェロやヴァイオリンのフレーズが加わることで、よりサイケデリックになっていた。今思い返すと、管弦が入った編成だからか、このライヴで演奏された曲たちは2007年以降の楽曲が多かった。その中でも印象的だったのが、岸田が座ってギターを弾きながら歌い始めた“Brose & Butter”。佐藤がコントラバスを爪弾き、ファンファンがフリューゲルホルンに持ち替え、朝倉はカホンでリズムを刻み、野崎がピアノを奏でるというシンプルなものであったが、じわりと心に染みるものがあった。今回、サポートメンバーの中でも大忙しだったのは副田だ。サックスやフルートなどの木管楽器をクールに持ち替え、“さよならリグレット”ではクラリネットで可愛いメロディーを披露していた。その後、“News”、“どれくらいの”とまた新曲が続いた後に演奏されたのは“ブレーメン”。弦と管の響きが重なり合い多幸感が増したアウトロでは客席からの手拍子も合わさり、音が消えると同時に大きな拍手へと変わった。

空を見上げるとすっかり夜のとばりがおり、終幕が近づいていることを知る。くるりの3人だけになったステージでは、佐藤がベースを岸田がアコギをファンファンがトランペットを持ち、音博と一緒に大きく変化している梅小路公園に、そして関わってくれた人たちへ感謝を述べる。最後に演奏されたのは“宿はなし”。岸田の柔らかな歌声に合わせて、佐藤は親指で伸びやかにベースを弾き、ファンファンが切ない音色でメロディーを奏でる。大雨でくるりの演奏が中止になった2016年の音博でも、急遽実施されたライヴ配信で最後に演奏されたのはこの曲だ。以前はアンコールに“リバー”が演奏されることもあったが、今ではすっかりこれが音博の終わりを告げる曲となった。すべてが終わり空を見上げると、右側には丸い月、左側には今年からの新しい試みとして京都タワーとコラボレーションした、音博カラーに染まった緑色の京都タワー。すぐ消える花火ではなく、優しい光で今日の夢のような一日を美しく彩ってくれているようだった。

今や、全国各地で年がら年中フェスが開催されているが、この音博が他のフェスとちがうところは、梅小路公園や京都の街と一緒に成長を続けているところではないだろうか。来年には、新しい駅ができるという梅小路公園。音博がはじまった2007年以降、公園の周辺は大きく形を変えてきた。京都水族館ができたときはどうなることかと思ったが、イルカショーともプログラムをずらすことで共存を果たし、最近では転換時のひそかな楽しみになっている。今年は新しい取り組みとして、毎年会場となっている梅小路公園の環境対策、都市緑化を目的としたクラウドファンディング、そして京都タワーの下に2017年に新たにオープンした京都タワーサンドや京都タワーとのコラボレーションが実現した。音博と京都の街との関わりは、梅小路公園を飛び出してさらに拡がった。京都には、新しい文化と古い文化が独自の秩序を保ちながら共存していくという風土がある。これからもお互いが共存し成長しながら、ここでしか成し得ない、特別な日を音楽でつないでくれるに違いない。

2018年9月23日(日) 京都音楽博覧会2018 in 梅小路公園 SET LIST

 

never young beach
1. どうでもいいけど
2. Motel
3. 気持ちいい風が吹いたんです
4. あまり行かない喫茶店で
5. いつも雨
6. 明るい未来
7. なんかさ

 

Crowd Lu
1. 別在我睡著的時候打電話給我Jazz版
2. 我愛你
3. 幾分之幾
4. いつも信じて(一定要相信自己日本語Ver.)
5. OH YEAH!!!

 

スターダスト☆レビュー
1. Amazing Grace
2. 夢伝説
3. 木蘭の涙
4. 今夜だけきっと
5. 銀座ネオン・パラダイス
6. と・つ・ぜ・んFall In Love

 

手嶌葵
1. 虹
2. Beauty And The Beast
3. 明日への手紙
4. I Wanna Be Loved By You

 

ハナレグミ(弾き語り)
1. ハンキーパンキー
2. PEOPLE GET READY
3. 大安〜今夜はブギー・バック
4. 男の子と女の子
5. サヨナラCOLOR
6. 明日天気になれ

 

ASIAN KUNG-FU GENERATION
1. センスレス
2. Standard/スタンダード
3. 荒野を歩け
4. Re:Re:
5. Little Lennon/小さなレノン
6. ボーイズ&ガールズ
7. 今を生きて

 

くるり
1. その線は水平線
2. ソングライン
3. Tokyo OP
4. 太陽のブルース
5. さよならリグレット
6. Brose&Butter
7. 特別な日
8. News
9. どれくらいの
10. ブレーメン
Encore
11. 宿はなし

 

Pictures by 井上嘉和

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