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『ブレードランナー』解析講座:過去からの影響と、未来への影響を8本の映画から探る – 後編 –

2018.10.11

石川 俊樹石川 俊樹

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8作品目:人間の条件『ブレードランナー2049』

いろいろな映画を経てついに『ブレードランナー2049』である。

 

最初に言っておくとこの映画はヒットというほどにはヒットしなかった。批評家やコアな『ブレードランナー』ファン(自分もその一人)には概ね評判良かったようだが、ビッグバジェットの鳴り物入り大作としては地味だし、言われているように確かに上映時間が長すぎる(163分)ゆえの冗漫さはあるかもしれない。だが自分が思うに1番の要因はあまりに”陰鬱”過ぎたからではないか、と思うのだ。

この続編は82年初作における世界観すなわち2019年のロサンゼルスから30年後の世界が舞台であり、ゆえに現在から発展した未来像ではない。なんといっても今年は2018年であり、初作の世界は現実の世界では来年なのだから、まあ妥当な考え方だと思う。ガジェットも初作の延長上で考えられているからどこかレトロタッチであり、一種のパラレルワールド的歴史観を見る事が出来る。だが、そこにはすでに初作に見るようなわくわくする猥雑感やハードボイルドな事件が起こりそうな危険な活気はない。この冒頭30分で描かれる2049年の世界からしてすでにヴィルヌーブの解釈が始まっている点を強く意識させるものである。そこにあるのは圧倒的な”停滞感”。あたかも『ボーダーライン』の冒頭、大量の死体に絶望を見せつけられたケイト・メイサーのような気分になる。ではここで描かれる2049年の世界とはどのようなものだったのか、冒頭のシークエンスを検証してみよう。

レーの曇天の中巨大なソーラーシステム、ハイテク農場の上空を行くスピナー。

初作のパワフルなコンビナートの炎や煌びやかな夜景、巨大なクリスマスツリーのようなタイレル社の光景は無軌道ながらもパワフルな未来を予感させる。対してソーラーシステムとタンパク質農場の描写は静的でありエネルギー問題や食糧問題を抱えた高度産業化社会が次のフェーズに入ってる事を予感させる。

初作は新聞を読み、屋台のヌードルをすするデッカード、権威に対する反骨精神を感じさせる対応。対して初めからレプリカントである事を明かされる主人公の淡々とした仕事ぶり。従順さ、そして微かな諦観。

ライアン・ゴズリング扮する捜査官Kはレプリカントである。農場で殺すべき同様のレプリカント、サッパーと対峙するシーンではそこに人間がいないが故の読み取りづらい感情のやり取りが感じられる。奴隷と奴隷、搾取される者が同じく搾取される者を殺さなければいけないやり切れなさ。ここにはすでに正義の爽快感もハードボイルドなダンディズムも無い。

サッパーの農場からロサンゼルス上空へ。びっしりと建て込んだ低層住宅。夜間にもかかわらず街の灯りはメインストリート沿いにしか見えない。上昇した海面が街のすぐ近くまで迫っている。

前日譚によるとかつてレプリカントのテロによる大停電があり、おそらく低所得層の居住区はそのままインフラが復旧されていないのかもしれない。それにしてもあの初作の煌びやかでパワフルな未来像に対して、なんという停滞感なのだろう。雑多な建造物が真っ暗な街並みにひしめく光景には、明らかな貧富の差のある格差社会があり、かつてのインフラを維持するだけの力を失った経済状態を連想させる。まさしく見ている我々の世界でも起こっている状態が行き着いた果ての世界観の具現化だろう。この停滞した未来イメージはニール・ブロムカンプ監督の『第9地区』(2009年)『エリジウム』(2013年)『チャッピー』(2015年)で執拗に描かれたイメージでもあり、ヴィルヌーブ監督も同様に共有している未来像なのかもしれない。

LAPDに戻ったK。詰問調の人格テスト。レプリカントが明らかに差別されている描写。

初作ではレプリカントの能力の高さや美しさがどこか神々しく描かれ、それゆえに短くしか生きられない哀愁を醸し出していた。詩を吟じ、人間に格言めいた問いかけをする姿にはレプリカントが奴隷扱いされる事の不当さが演出されており、レプリカントがことさら差別されるような描写はなかったように思う。唯一上司の警官であるブライアンの”Skin Job”という差別表現があるが、むしろ大多数の人間の中でのレイシストという扱いだった。対して82年の初作におけるレプリカントからさらに改良されたネクサス9型であるKは徹底して従順であり、人間の奴隷としてデザインされた人造人間を強く印象づける。レプリカントの美しさや気高さを印象付けた上で差別される事の不条理感を早々に刷り込む初作の演出に対し、このKの捉えどころのなさや慎ましさに同情を覚える事こそあれ、いきなりどう感情移入していいのか途方に暮れてしまう。

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