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【SXSW2018】CHAI、DYGL、Superorganismから考える、世界と日本の音楽シーン

2018.04.17

安尾 日向安尾 日向

世界の音楽シーンを掴む手がかりとして注目した3つのバンド

中高生の間、あまり洋楽に触れずにいたために、僕は世界の音楽シーンを追えないまま20歳になってしまった。そのことに悔しさを感じつつ、しかしどうやって追いかければいいのかわからずにいた。

 

そんな僕が世界の音楽シーンの最先端となりうる場所、SXSWに飛び込んでみることにした。

 

そこでまず一つの目標として立てたのが、世界の舞台に立つ日本人アーティストの姿を見ることだった。世界の音楽シーンの中で日本人がどのように振る舞い、どのように受け入れられるのか、ということをできるだけ見て感じたいと思った。そこから世界の音楽シーンを掴む糸口が見つかるのではないかと考えたのだ。

 

そしてそれは間違っていなかった。世界の中の日本人の位置について、実際に目で見たことから考えを巡らせることが出来た。そして世界の音楽シーンの「一歩先」になりうるバンドを見ることで、これからのシーンを掴むきっかけを手に入れることができたのではないかと感じている。

 

この記事では、僕がSXSW2018で見て特に刺激を受け、あれこれ考えさせられた3つのバンドを取り上げ、世界と日本の音楽シーンについて考えたことをお伝えしたいと思う。

 

その3つのバンドとは、CHAI、DYGL、そしてSuperorganismである。

CHAI:「NEOカワイイ」のポップ・アイコンへ

名古屋発、NEOカワイイ・ガールズ・バンド、CHAI。昨年に引き続き2度目のSXSW出演となった。昨年の評判からか、彼女たちの出番になるとステージの目の前まで人が押し寄せ、大きな盛り上がりを見せていた。バンドTシャツを着た女性やステージギリギリで熱心に写真を撮る男性など、年齢も性別も人種も様々な人々が彼女たちの音楽にノッテいたのは、彼女たちの魅力が海外にも伝わっている証拠だ。

アイム・ミー(2018)

なぜ日本語で歌い、カタコトの英語で話すCHAIが海外の人々に届くのか?少年ナイフの例を出すまでもないが、日本人アーティストは男性に比べて女性の方が海外で受けやすい傾向がこれまでもあった。しかしそれだけではないだろう。僕が感じたのは彼女たちのパフォーマンスの「パッケージ性の高さ」だ。

 

NEOカワイイという価値観。MVやステージ衣装で見られるビビットなスタイル。そして演奏力を下支えとしたパフォーマンスのクオリティの高さ。これらはアメリカのアイドルが持っている要素とかなり近い。かつてのブリトニー・スピアーズやマイリー・サイラス、セレーナ・ゴメスのようなディズニー・アイドルを想像してもらいたい。時には「お騒がせセレブ」としてメディアに取り上げられることも多いが、それも注目の証。彼女たちの一挙手一投足に敏感に反応するフォロワーが多いのだ。派手なスタイルとクオリティの高いパフォーマンスをもって、一時代の価値観を作り上げるアイコン、それがアメリカのアイドル像である。そして、セレブ的な派手さはないものの、先述のいくつかの点において、CHAIはそのアイドル像に似ていると言える。だからアメリカで受け入れられやすかったのではないだろうか。

 

最近は大手企業とのタイアップも始まるなど、お茶の間への進出も見られる彼女たち。世界と日本と、同時に知名度を上げて行っているバンドは他になかなかいないだろう。しかし、編集長がこの記事で触れているように、SXSWは通過点である。昨年出演していたThe fin.も昨年が2回目で今年は出ていないことを考えると、来年以降CHAIがSXSWに出演するかはわからない。彼女たちはこの「通過点」をどのように越えていくのか。

DYGL:普遍的インディーへの意思

Let It Out(2017)

東京を拠点に活動する4人組インディー・ロック・バンド、DYGL(デイグロー)。彼らの魅力は、元The Strokesのアルバート・ハモンド・ジュニア(彼も今年のSXSWに出演した)がプロデューサーについたことが証明している。オールドスクールでキャッチーなガレージのバンドサウンドは、20歳の自分ですら妙な懐かしさを感じてしまう。本場仕込みの自然な英語と、海外インディーの影響を色濃く表したサウンド、そして日本人らしいサビを持ち合わせたバンドである。

 

オフィシャルでの出演は今回が初めてとなった彼らだが、そのステージは手応えのあるものになったのではないだろうか。

 

SXSWオフィシャルの日本人アーティストのショーケースである『Sounds From Japan』の会場には、アジア人だけではなくあらゆる人種が集まり、会場後方からも野太い歓声が飛んでいた。窓の外にも人だかりが絶えることはなく、ステージの目の前には踊り狂う集団も発生。このステージに加えてもう一度彼らのライブを見たが、特筆すべきは、ライブが始まってからも観客がどんどん増えていくという光景が共通して見られたことだ。外に漏れる音を聞きつけて会場に入る人がたくさんいたと考えていいだろう。最終日のステージでは、明らかにプロ仕様のビデオカメラで撮影している人もいた。海外メディアのカメラマンだろう。ここからさらに別のどこかへ発信されていくのだ。

Bad Kicks(2018)

最新曲『Bad Kicks』がイギリス・ラムスゲートでレコーディングが行われたことや、海外のプロデューサーとの共作からもわかるように、彼らは世界を見据えて活動しており、これまでにもアジアツアーやUSツアーを精力的に実施(さらに今年6月にはフランスツアーも決定している)。過去のインタビューでは、出自にとらわれない普遍的なクリエイションを志向していることが語られている(参照:Interview with DYGL – LIFT by STUDY)。

 

東京から世界に眼差しを向けるDYGL。日本を拠点に海外から「帰ってきた」彼らが、日本の保守的な音楽シーンに内側から風穴を開け、新たなムーブメントを起こしてくれることを期待している。

Superorganism:時代の寵児、バンド音楽の救世主となるのか

Something For Your M.I.N.D. (2017)

「日本人アーティスト」として取り上げるのはおかしいが、今年のSXSWでの日本人の活躍を語る上でSuperorganismを欠かすわけにはいかない。

 

いくら世界の音楽シーンに敏感でない僕でも、Superorganismという名前を見る回数は昨年から今年にかけてどんどん増えていた。8人組の多国籍スーパーバンド、日本人の女の子・オロノがメインボーカル、しかもまだ10代。音楽自体もそうだが、そういう話題も大きく取り沙汰されていた。事前にSpotifyで聞いた時にはピンときたわけではなかった。だけどどうだ。彼女たちのステージを見てからというもの、すっかりSuperorganismで気持ちよくなる体になってしまった。それくらい強烈で、唯一無二を感じさせるパフォーマンスだった。

とにかく何もかもがカラフルでビビット。メンバーはそれぞれ色とりどりのレインコートを着て、バックには遊び心たっぷりのコラージュで構成された映像が映し出されていた。クールに歌うメインボーカルのオロノの横で、3人のメンバーが全身でさまざまな動きをしながらコーラスをする姿は「なんだこれ!」感もありつつ、バンドの自由なマインドを体現しているようにも見えた。オロノは曲間のMCでは早口でまくし立てたり、前方にいるカメラマンに向けて話しかけたりと、低体温ながらも縦横無尽。演奏も想像以上に生感があり、うねったリズムが気持ち良い。お酒を飲みながら踊り狂えたら最高だったのに、という悔しさもあったが、ライブが終わってからもすぐにSpotifyでリピートしてしまっていた。

Everybody Wants To Be Famous(2018)

数々のメディアで取り上げられているように、いま彼女たちは音楽シーンの台風の目となろうとしている。バンド音楽の衰退が叫ばれるなか、その救世主となることを期待する声もある。その中心に、日本人が立っている。世界から隔絶している側面もあるこの島国・日本から、音楽シーンの最先端へ。これはすごいことなのではないか、と月並みにも感じてしまう。

 

しかしそれは、日本が世界で戦っていけることの証明などでは全くない。彼女の場合は、日本で育つ中で国内シーンへの違和と疑念を感じ、インターネットを媒介としてそのエネルギーを海外に持って行ったのだ。そのおかげでSuperorganismというバンドが風を起こしているのだが、これは日本の音楽シーンにとっては「才能の流出」とも言えるのではないか。Superorganismの隆盛は、むしろ国内からSuperorganismが生まれる環境を日本の音楽シーンが持てていないことの証明となってしまっているようにすら思える。

 

とはいえ、Superorganismがシーンに一石を投じていることに変わりはない。間違いなく僕にとっては、現在の世界の音楽シーンを知りたいと思う原動力を与えてくれたバンドであり、彼女たちのおかげでこれからの音楽シーンの変化にわくわくを感じるようになったのだ。

音楽と「場所」は切り離せない

「世界中の人々が集まるSXSWという祭典で、日本人アーティストがどのように振る舞い、どのように受け入れられるのか」という問いを立て、オースティンへと向かった。そしてそこで見た3つのアーティストについて書いた。

 

音楽的に海外の影響こそ強いが、あくまで日本語で、自分たちにしか出来ないことをやった結果、国内外に受け入れられ始めているCHAI。

 

日本人として、英語で世界水準の普遍的なインディー・ロックを鳴らし続けようとするDYGL。

 

その慧眼ゆえに早々に日本を飛び出し、世界(=Superorganismの多国籍のメンバー)とともに世界のなかへ新たな風を吹き込むオロノ。

 

知名度も人気もそれぞれで、シーンへのアプローチにもグラデーションがある。特に僕が気になっているのは、活動の拠点と歌う言語だ。

 

保守的な日本の音楽シーンへの疑念から若くして海外へ飛び立ち、インターネットを経由してSuperorganismにたどり着き、時代の注目の的となったオロノという存在そのものが、日本が抱える問題を改めて浮き彫りにする象徴となったことは先程も述べた。それに加え、Superorganismというバンドが、インターネットという無国籍なツールを通じて出会った出自の異なるメンバーで構成されていると同時に、現在イギリス・ロンドンを拠点として活動している点も、いままでとこれからを考える上で外せない。

 

登場時はその出自の不明さが注目の一因となったことは確かだが、だからと言って、同じメンバーで同じことを日本を拠点としてやっていたら、どうなっていたのだろうか。きっと同じではありえないし、だからこそ日本は選択されなかったと考えるべきだ。同じことをしていても、どこでやるか、どのシーンに所属するかによって、結果は変わってくる。多国籍であるがゆえに無国籍な彼女たちだが、だからこそ活動場所の選択が音楽に果たす意義というものを、改めて考えさせられる。

 

その点において、海外から「帰ってきた」DYGLやyahyelのような英語で歌うバンドが、世界に直結していない日本の音楽シーンの中から外へ向かって発信を続けていることは注目に値するだろう。海外志向のバンドの中には、The fin.のように拠点を海外に移していくバンドもいる。だからこそ今年出演したDYGL、yahyel、TENDOUJIといったバンドが、日本を拠点としたまま世界のシーンに居場所を見つけられるのかどうか、とても興味深い。もしそれが果たされればそれが新たなロールモデルとなり、これからの日本の音楽シーンに大きな足跡を残すことになるだろう。彼らが今後どのような活動をしていくのか注目したい。

 

と、ここまで書いてきたが、最後にもうひとつ印象的だったことを紹介したい。それは、SXSWで開かれる日本のショーケースに行くと、毎回同じ人がいたことだ。それも1人や2人の話ではないし日本人でもない。日本のショーケースを目掛けてやってくる異国の人が確実に存在するのだ。日本の音楽が、というよりも、単に日本が好きなだけかもしれないし、この事実が意味するところは長短両方あると思うが、それでも日本のバンドが見たいという気持ちは確かだ。CHAIのように、「彼女たちが来るなら絶対見たい!」と思わせるバンドが日本から発信されていること、しかもそれが日本語で歌われているということは、ある種の希望のように映った。自分たちの国の音楽が受け入れられていく光景は、とても気持ちの良いものであった。

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