ある日気がつく、同じ顔の奴ら
キツネの嫁入り

2017.10.11

山田 和季山田 和季

4年ぶり、4枚目のフルアルバムとなる今作『ある日気がつく、同じ顔の奴ら』は(2017年10月現在)絶賛リリースツアー真っ最中のフレッシュな一枚だ。しかし内容は重厚でいて達観・円熟しきっているような、それでいて他者への押しつけがましさのない、ただただそこに「キツネの嫁入り」という概念が打ち立てられているという、俗に言うフレッシュさとは程遠い一枚である。

 

CDを再生し#1”狂想”のピリつくようなベースとピアノのフレーズが重なった瞬間、なんとなくこれから私は「何か」と対峙しなくてはいけないのではないか?という重圧にも似た緊張感を感じた。若干の怯えからかアルバム全体の収録時間をそっと確認するも、覚悟に反して拍子抜けすらしてしまう10曲収録の44分。わが目を疑いつつも意識をスピーカーへと戻したところで、重厚すぎて思わず笑ってしまうぐらいの言葉の羅列をVo.マドナシが息つく間もなく投げかけ続けていた。何度も何度も繰り返す切迫感のある楽器隊のフレーズと、何度も何度も同じことを問うてくる歌詞。この言葉はキツネの嫁入りの自問自答なのか?それとも私たち聞き手に問いかけられているのか?びくびくしていつまでも目の前の扉の開けることができない私たちを、何も言わずにただジーっと見つめてくるような、キツネの嫁入り流お出迎えソング。聞き進めるのに試されている気になるアルバムなんて、相当だぞ。

 

#2″同じ顔の行進”では1曲目よりもグッと性急さを増すドラムと、背後から追いかけて追いつめてくるようなホーンの音に気持ちを駆り立てられる。あっという間に逃げ場を失ってじっとり汗ばむような「これぞキツネの嫁入り」感の充満した空気に変えられる一曲。印象的なのはここでも何度も呼び掛けられるメッセージだ。<あぁ友人達よ、不安に押しつぶされそうになっても / あぁ友人達よ、押しつぶされる事はないから。>日常生活の中で思い当たる節のある辛辣さに「なるほど確かに」と思わされながらも、これまでもすぐ日常の傍にいたはずのなんてこともない苦悩を改めて目の前に整頓・陳列された気分になる。今まで見て見ぬふりをしてきた不安の種たちを、キツネの嫁入りは言葉の羅列・応酬で芽生えさせてしまう。

―世界を覆う不安や不信が生み出した未来。これが音楽、これが「キツネの嫁入り」だ。―

4th Alibum「ある日気がつく、同じ顔の奴ら」特設サイトより)

 

そんな風に自らを称するのにも頷ける。苦悩や不安のような鬱屈としたもの、それは意外と日常生活にたくさん潜んでいて、でもいつからか私たちはそれに慣れてしまっている。馴染んでしまった黒いものを、改めて彼らによって提示されているのだ。

 

そして3曲目にしてはやくもエンドロールがやってきたかのような、その名の通り夕暮れ時のあたたかさを感じさせる”落陽”。金管の温かい音色に遠くから静かに鳴るリムショット、過度に装飾のされていないエレキギターに一貫して凛としたピアノ。キツネの嫁入りが奏でる音色たちは激昂と穏やかさといった、相反するどちらも備えている。また今回のアルバムにはゲストにチェロ奏者・徳澤青弦(anonymass)を迎えており、加わった深みや柔らかさや重厚さといったものが総じてキツネの嫁入りのもつ「説得力」を増す大きな力となっている。

 

#7”最終兵器”では序盤は淡々とした語りからはじまるが、後半で”落陽”のメロディをそのまま用いつつもドラマティックなアレンジで組み込んでしまっている展開には、思わずアルバムの終わりを待たずして再び”落陽”の再生ボタンを押してしまった。目の前の曇りがサーっと晴れていくようで、まるで伏線回収が巧みな映画を見ている気にさせられる。

 

アルバムの終盤、”ある日気がつくよ””巻耳”では今作屈指の優しさとノスタルジーを発揮する流れになっている。「安心」とは「不安」があるからこそ私たちはその存在感じることができるわけで、あんなにビクつきながら開けた不安の扉の先に見えたとびきり安らかな2曲が据えられている。

 

変拍子を基軸としつつも、ジャズやフォークにも近い味わい深さや素朴さが感じられる一枚。ときにはメロディすら持たないようなマドナシのボーカルが逆に、変拍子に耳馴染みのないリスナーに対してもすっと流れるように耳に入ってくる、良い意味のとっかかりのなさを実現している。冒頭でも述べたように、これまでキツネの嫁入りが重ねてきた年月なんかを想像せざるを得ないほどに円熟した作品。能天気に薦められるほど、決して軽い内容ではない。それでも重い扉の先には何かしらの答えに似たものが見えてくる。もしかすると、聞いた誰かの視界をガラリと変えてしまうかもしれない。そんな力を確実に秘めているアルバムだ。

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