COLUMN

ブンガクの小窓 第十一章 -シンギュラリティ-

2017.07.20

ケガニケガニ

bungaku_eye

 

どういうときに使うか

 

 

人工知能が世に現れて久しいが、とみに最近になって世間を騒がせている。Googleの開発したプログラムは自分でデータを集めて絵を描けるし、「アルファ碁」と呼ばれる囲碁ソフトは中国の一流棋士を負かした。AIだ、自律学習だ、ロボットだ、ととかく世間は大わらわである。


そもそもあと20年もすれば人間の仕事の大半がロボットに置き換わってしまう、などといった予測はしばらく前から立てられていた。しかし近頃の具体的なニュースによってその未来予想が少しずつ形をとっていくにつれ、人々は不安や期待などの感情を抱いているようだ。

 

 

 

 

筆者自身の経験の中では、映画でいうと『ターミネーター』や『ロボコップ』などの幼い頃に触れた諸作品ももちろん印象に残っているが、大人になってから触れた『甲殻機動隊』や『マトリックス』、さらには『エクスマキナ』、『チャッピー』といった「(人間的)理性とは何か」を問う作品は筆者を惹きつけてやまない。

 

さて、そんな近年よく耳にするのが今回扱う語、「シンギュラリティ」だ。シンギュラリティの時代、あるいは、人工知能が人間を超える「シンギュラリティ」が到達する、などという風に使われたりする。いったいどういう文脈をもった語なのだろうか。

 

 

 

技術的特異点

 

 

シンギュラリティsingularityそのものの意味は、「特異性」である。同じラテン語源を持つ語としては、「単一のもの」を意味するシングルsingleがある。要するにこの語は、ものごとの他とは違った唯一のものという性質を指している。「ユニーク」のように気軽に用いられる語よりも、ある存在のかけがえの無さを強調するときに用いられる。

 

そして次に、「特異点」という意味を持つ。他には無いような特徴を示す座標や時代などを指すこともできる。今回の用法はこれにあたる。実は既述の用法は「技術的特異点」を示す「テクノロジカル・シンギュラリティ」の略なのだ。

 

シンギュラリティという言葉を浸透させた論者の一人が、アメリカの未来論者、レイ・カーツワイルだ。彼によれば、人間と人工知能とによる文明が、現在の文明を根底的に変えてしまう歴史的な「特異点」が近い将来に存在しうるというのだ。

 

 

シンギュラリティは近い 人類が生命を超越するとき

 

 

人間が作った人工知能がひとりでに成長し、人間を超越する存在になる、というのはSFファンでなくとも一度は読んだことのあるプロットだろう。科学技術の進歩がある閾を超えることによって、人間が人間を超える理性を作り出してしまい、人間自身のあり方を決定的に変えてしまう……そんな瞬間がこの「シンギュラリティ」なのだ。

 

 

 

理性を超える理性とは何か

 

 

そもそもそうした特異点が成り立つためには、ある種の理性が人間的理性を超えた時点を観測することができなければならないし、そのためには人間的理性はここまで、という境界がなければならない。だがルールの決められた囲碁やチェスのようなゲームでもない限り、理性自身を境界付けることなどできるのかが問題となる。ゲームでなくとも計算能力や身体能力のようなものに関してそれは可能だろうし、すでにそうした超人間的な人工物は存在している。だが、それらを包括する「自己認識し、思考し、判断する」ということそのものについて、果たして人間のそれを超えるものを想像できるだろうか。想像の産物もやはり人間が想像したものという境界を越えることができないのではないか。

 

 

 

 

しかしこれらのさまざまな問いは、じつのところ擬似問題かもしれない。それらは人間から提出される限り、「人間が人間であるとはどういうことか」という古典的な問題に送り返されるからだ。いわば、人間とは異なる存在をどのように考えうるかという問題は常に、人間とはいかなる存在かという問題の反射なのだ。シンギュラリティがあるとすれば、本当の問いはむしろ、人工知能自身によって問われるのではないか。人工知能は人間理性をどう考えるか、と。

 

 

illustration by 高石瑞希

 

 

今までのブンガク語

 

第一回:不条理

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第二回:実存

https://kyoto-antenna.com/column/bungaku_vol2/

第三回:虚構

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第四回:ルサンチマン

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第五回:ユートピア

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第六回:アイデンティティ

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第七回:刹那

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第八回:散文

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第九回:ノマド

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第十回:フロウ

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