ウサギノネドコ


 

 

皆さんは「標本」に興味はあるでしょうか。小学校の自由研究や博物館で触れたことはあっても、大人になって標本について考えることはそうそうないのではと思います。実は私も標本に特別興味があったわけではなく、むしろ取っつきにくいイメージを持っていました。だからこそ、ウサギノネドコへ行った時、想像のはるか上をゆく美しい標本の数々に衝撃を受けたのです。

 

ウサギノネドコは標本の展示販売を行っているお店です。「ミセ・ヤド・カフェ」という3つの業種があり、その商品や展示方法は従来の標本のイメージから大きくかけ離れています。今回入ることができたのはミセとカフェ部分。まずはミセに足を踏み入れると、宝石のような作品たちが目に飛び込んできます。看板商品はアクリルキューブの中に植物を閉じ込めた「Sola cube」。無機質なキューブの中に植物の一番良い瞬間が閉じ込められたSola cubeを見ると、タンポポの綿毛やモミジバフウの実など見慣れたはずの自然物の美しさに改めてハッとします。

 

狭い空間に商品がひしめき合う様はまるで骨董品店のよう。でもディスプレイの1つ1つは近未来的な空気も感じさせ、非日常の空間へ迷い込んでしまったようなワクワク感があります。一方カフェは陽の差し込む開放的な空間にスタイリッシュな家具が置かれ、その家具と調和するように大小様々の標本がディスプレイされています。馬の頭蓋骨のように普段見ることのできないものもあり、その迫力を間近で楽しむことができます。このように様々な形態から自然の奥深さに触れることのできるウサギノネドコで、いつもと違った休日を過ごしてみてはいかがでしょうか。

 

 

INFORMATION

 

【住所】〒604-8432 京都市中京区南原町37

【定休日】木曜日 (ミセ・カフェ)

【営業時間】ミセ:11:00 ~ 18:30 / カフェ:11:30 ~ 20:00 (ラストオーダー 19:00)

【電話番号】 ミセ・ヤド:075-366-8933 / カフェ:075-366-6668

【HP】http://usaginonedoko.net/

 

 

 

自然が作り出したものが最も美しい。それを伝えることに徹しようと決めた

 

 

ーー今日はウサギノネドコ代表兼クリエイティブディレクターである吉村さんにお話を伺わせていただきます。まず、お店を始められたきっかけを教えてください。

 

 

2006年に「植物の造形美」をテーマにしたSola cubeのコンセプトを作って以来、色々なお店で取り扱いしてもらうことになったのが元々のきっかけです。その後、Sola cubeの直営店を作ろうと思いウサギノネドコを京都で立ち上げました。ミセとヤドを2012年の8月にオープンし、3年後の2015年の9月にカフェをオープンしています。

 

 

ーーどんな経緯でSola cubeを作るに至ったのでしょうか。

 

 

2006年当時は広告会社で働いていました。非常にやりがいのある仕事ではあったのですが、広告制作よりさらに上流でモノ作りをしたいという思いが徐々に強くなってきたところでした。何かプロダクトを手がけたいと思っていた時に、インスピレーションを受けたのがモミジバフウという植物の実です。そこら中に落ちている木の実で、普段は見向きもされないものなのですが、まじまじと観察すると引き込まれるような美しさがあったんですね。それがきっかけで植物の美しさを伝えるプロダクトを作ろうと思うに至りました。

 

 

ーー具体的には、モミジバフウからどのようなインスピレーションを受けたのですか?

 

 

気の遠くなるような長い時間を経て磨かれた放射状の造形に「究極の機能美」を感じました。そこに壮大なロマンと美を感じた一方で、この美を越えるものは新たに作れないだろうなという諦めの気持ちも覚えました。自分自身が生み出せないのであれば、この美しい形を伝えていく役割を担いたいなと。絶対的な美を前にひれ伏すような感覚ですね (笑)

 

 

ーーさきほど「上流に行きたくなってモノ作りを始めた」とおっしゃいましたが、会社の中でマネジメントをするような立場へステップアップすることも上流へ向かうといえると思うんです。自分で作り出すという方向に転換されたのが不思議だなと思いました。

 

 

今から20年前にApple社が「Think different」という広告キャンペーンを展開していたのをご存知ですか?「クレイジーと呼ばれる人たちこそが世界を変える」というメッセージのもとに歴史上の偉人が登場するテレビCMがあったのですが、Apple製品の特徴については何も伝えていないんですね。でもAppleこそが世界を変えるんだという強烈な意思が伝わる内容で、広告会社にいた頃は自分もいつかそんな広告を作りたいなぁと思っていました。

 

でもよくよく考えてみると、Think differentを生み出したのは、広告クリエイターではなく、スティーブ・ジョブズであり、Appleの思想・哲学なんですね。であれば、思想・哲学がはっきりとしたプロダクトや、ブランドから作るしかないだろうなと。それでモノ作りをしたいと思うようになりました。ただ、私が選んだテーマは自然が最上流なので、どうやってもそこにはたどり着けないですけどね (笑) 

 

 

ーー自然には敵わないということですね。

 

 

そうですね。自然が作り出したものが最も美しいので、その美しさを伝えることだけに徹しようと決めました。前職での経験から、対象物の良いところを切り出して伝えることは出来ると思っていたので、そこで培った考え方や技能は活かせるかなと。「広告とは全然違う世界に行ったね」とはよく言われますが、伝えるテーマが「自然の造形美」になっただけで、考え方は広告と同様です。

 

 

 

泊まる、買う、交流する…様々な体験を通して自然の造形美を楽しんでもらいたい

 

 

ーーウサギノネドコのミセのコンセプトはどのように決められましたか?

 

 

先ほどもお伝えしたように、植物の造形美をテーマにしたSola cubeからスタートしたのですが、そこから徐々に鉱物、動物など、他の自然物にも興味を持つようになりまして、標本を扱う店を作ることにしました。

 

 

ーーミセのほかにヤドとカフェを作られている意図は何でしょうか?標本の見せ方としては特異だと思うのですが。

 

 

標本を見たり、買ったりすることはもちろん、泊まることや、コーヒーやスイーツも楽しめて……と、様々な体験ができる場を用意したいなという意図で作りました。

 

 

ーー吉村さんの「もっと生活の中に標本を溶け込ませたい」という考えを目に見える形で表したものということでしょうか。

 

 

そうですね。生活の中で自然の造形美をどう楽しむか?その提案を私達はしています。Sola cubeもそうですね。植物の木の実や種など、何も加工が施されていないとどう扱っていいかわからないと思うのですが、アクリルに封入することで、ギフトやインテリアとしてお楽しみいただけるのかなと。

 

 

ーー何か作ろうと思った時に、自然の造形美をキューブの中に閉じ込めようという発想はなかなか普通の人には思い至らないと思うんです。

 

 

削ぎ落とした結果のアイデアであるとは思っています。植物の造形美を伝えることが目的なので、それを伝えるための「器」はできるだけシンプルで作為のないものがいいなと。Sola cubeは4センチのアクリルキューブが基本形ですが、フォーマットを揃えることで、個々の植物の特徴や美しさが際立つだろうなという狙いもありました。

 

 

ーーお客さんは、もともと標本に興味をお持ちの方が多いですか?

 

 

博物館が好きな方や、動植物に興味がある人は多いです。それ以外にもデザインやアート好きな方、雑貨が好きという方もいらっしゃいますね。いろいろな方に気軽に楽しんでいただけているのかなとは思います。

 

カフェには座敷席や、トイレにはおむつ台も用意しているので、お子様がいらっしゃる方にも気軽に来ていただければなと思っています。

 

 

 

身近にある美しい自然物を探し出したい

 

 

ーー今後の展望があれば教えてください。

 

 

これからも自然界の美しいものを探し続けていきたいとは思っています。もちろんアマゾンの奥地のような秘境で探してみたいという探究心もあるのですが、もっと身近なところにまだ気付いていない美しい自然物がたくさんある気はしています。例えば最近ではミクロ生物の造形美をテーマに「Sola cube Micro」というシリーズを作ったのですが、肉眼で見えないというだけで美はすぐそこに存在するなと思っています。

 

 

ーー他には何か考えられていることはありますか?

 

 

あとは子供向けのプロダクトや、イベントは是非考えてみたいですね。神秘さや不思議さに目を見はる感性を「センス・オブ・ワンダー」というのですが、自然の造形美を伝えたその先に「センス・オブ・ワンダー」を呼び覚ますということがウサギノネドコのミッションかなと思っています。子供の「センス・オブ・ワンダー」に私自身が触れたいですし、大人になるほどに失ってしまうその感覚を呼び覚ます体験をウサギノネドコが提供できれば、こんなにも嬉しいことはありません。

 

 

ーーありがとうございました!

 

 

photo by 益戸優

 

この記事を書いた人

森下 優月
森下 優月
東京にてキラキラOL (自称) への第一歩を踏み出すかたわら、定期的に京都に高飛びしておもしろいことに首を突っ込んでいます。
将来的にはイギリスに住みたい......と口では言いつつ日本が好きすぎて結局行かないんだろうな、というだいたいいつもそんな感じの人生。