Bar18(eighteen)

 


 

 

華やかな祇園の町の中で、油断すると見落としてしまいそうな小さな路地の中に、Bar18(eighteen)があります。まるで料亭のような木製の引き戸の中に入ると、そこにはセピア色の落ち着いた空間が広がっていて、席は奥に向かって伸びるカウンターだけ。大人っぽい店内と祇園の町の空気も相まって少々緊張してしまいますが、出迎えてくれたマスター・柱本惇さんの温かくて気さくな笑顔でそんな気持ちも次第に溶かされてしまいます。

 

こだわりはイングランドのアイラ島で作られるウイスキー。アイラ島のウイスキーはそのスモーキーで特徴的な味わいに根強いファンも多く、他府県から飲みに来るお客様も多いのだとか。世界に数百本しか存在しないような貴重なウイスキーを惜しげも無く提供してくれるので、ウイスキー好きの方は大注目です。

 

マスターの柱本さんの、昼間の顔は実はお寺のお坊さん。白シャツに黒いベストのバーテンダー姿で一見しただけではお坊さんだとは決してわかりませんし、お店のことも「仏教を前面に出すことはしない、普通のバーですよ」と語ります。ただ、それでも「来て下さる方の気持ちに寄り添いたい」という思いは仏教でもバーでも根本は同じとのこと。様々な思いで来店するお客様に対し、押し付けがましくならず、思いを感じ取ってお話を聞く。柱本さんの言う「普通のバー」とは、そんな心細やかなお店のことなのではないでしょうか。美味しいお酒とともに、ぜひマスターの言葉や人柄にも触れてみてください。

 

 

 

INFORMATION

 

 【住所】〒605-0084 京都市東山区花見小路末吉町西入(豆六小路内)

 【定休日】日曜日

 【営業時間】20:00~26:00

 【電話番号】TEL: 075-551-5611

 【HP】http://eighteen.main.jp/
 

 

 

 

 

 

 

バーを始めたのは、勘違いがきっかけだった

 

 

 

――まずはお店のことを教えて下さい。スタートしたのはいつからですか?

 

 

 

もうすぐオープンから丸2年になりますね。

 

 

 

――こちらのバーは、どのようなお店なのでしょうか?

 

 

 

 

当店は、ウイスキーの中でも特にスコットランドのアイラ島という島のウイスキーを中心に揃えているお店です。アイラ島はウイスキーの聖地と言われているんですけど、ここで作られるウイスキーは香りがスモーキーで独特なものが多いんです。香りを嗅いで頂くと、他のウイスキーとの違いがすごくよくわかると思いますよ。このウイスキーが好きで、他府県から飲みに来るお客様もいらっしゃるほどです。

 

 

 

――アイラ島のウイスキーは、なかなか日本では手に入らないものなのですか?

 

 

 

そうですね、中には入手が難しいものもあって、大抵はインターネットで海外から買うことが多いです。ネットオークションで競り落とすようなこともあるんですよ。生産本数自体が世界に数百本しかないようなものもありますし。

 

 

 

――そんなに数少ないものもあるんですね。

 

 

 

はい。たとえば今ここにあるこのお酒は、ラベルに「189/284」と書いてありますが、これはいわゆるロットナンバーで、世界に全部で284本しかないうちの189本目、という意味なんです。こういったお酒を置いている店はさすがに少ないでしょうから、こうした希少価値のあるウイスキーが飲めることも、このお店の特徴と言えるかもしれませんね。

 

 

 

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――このお店の名前“Bar18 (eighteen) ”には、何か由来があるのでしょうか?

 

 

 

18」っていろんな意味のある数字ですよね。たとえばカラオケのオハコは「十八番」と書きますし、野球好きの人にとっては18はエースナンバーですし、ゴルフなら18番ホールで勝負が決します。このバーも、来て下さる方それぞれが解釈できるような、多様な意味を持つ場所であればいいなと思っています。実は、私たち浄土真宗の人間にとっても「18」は大事な数字だったりもしますしね。

(※仏教には「四十八願」という願いがあるが、その中でも特に重要とされているのが「第十八願」)

 

 

 

――そう、柱本さんは、普段はお寺のお仕事をされているんですよね。

 

 

 

はい。浄土真宗・本願寺派のお寺で副住職をさせて頂いています。

 

 

 

――それが、どうしてバーを始めることになったのでしょうか?

 

 

 

実は、ちょっとした勘違いがきっかけなんです。もともと学生時代にバーでアルバイトをしていたこともあって、ある時住職に「お寺のそばでバーができたらいいよね」っていう話をぽろっとしてみたんですよ。と言うのも、お寺ってたとえば法要とかお葬式とか、何かしらの行事をしているときにしか人が来ないっていうのがなんだか寂しくて。でもお寺の隣に小さなバーがあれば、ちょっと飲んだついでにお寺に寄って行ってくれるかなと思いまして。

 

 

 

――なるほど、人が集まるきっかけを作りたかったのですね。

 

 

 

はい。ただ、その時の私のイメージとしては、いつか歳をとって住職を引退した頃に、細々とバーでもやろうかな、くらいの思いだったんです。が、話を聞いたうちの住職がそれを「あ、この子は今バーがやりたいんだ」と勘違いしまして即座に色々な方に「息子がバーをやりたいらしい」と言い回ってしまって。そしたら皆さんとても親切なんですよね、木屋町・河原町・祇園界隈の物件を沢山紹介して下さったんです。「いや、そういうつもりじゃなかったんやけど」とは思ったんですが、せっかく紹介して頂いた以上見に行かない訳にもいきませんから、いくつか物件を見ていくうちに、たまたま自分のイメージに合った規模の物件が見つかって「じゃあ、やってみようか」という感じでスタートしました。

 

 

 

――かなり予定外の展開ですね。

 

 

 

そうなんですよ。そもそも当初、私は大学ではお寺には全く関係のない心理学を学んでいたんですが、その後、改めてお経を学ぶ専門学校に入学したんです。一度お寺に就職してしばらく働いていましたが、自分に仏教や浄土真宗の基礎的な知識が不足していることに気付いて、一から勉強するために龍谷大学の大学院に行きました。バーを始めた時期はその大学院時代と重なっていたので大変でしたね。大学院に通いながら、バーをやりながら、お寺の仕事しながらという状態で、修士論文をお店で書いているようなこともありました () 。

 

 

 

――面白いエピソードですね () 。ところで、祇園という場所もあえて選んだのではなく、紹介された中でたまたま気に入った物件がここだったからなのですか?

 

 

 

そうです。ただ、結果この場所だったからこそ、バーテンダーとしても鍛えられたんじゃないかと思っています。お店に来て下さるお客様はこの祇園町で遊ばれている方がほとんどなのですが、そういう方は本当に厳しい。こちらが作法を間違えると指摘されますし、ただその逆で「こいつを育ててやろう」という気概もお持ちですから、ありがたいですね。ここで学んだことはとても多いです。

 

 

 

――では、住職を引退してからではなく、今初めて良かったなという思いはありますか?

 

 

 

はい、やって良かったと思います。勘違いから始まりましたが、むしろそれくらいのハプニングがなかったらオープン出来なかった気がしますね。毎月家賃と仕入れに費用がいくらかかってって細かく考え始めたら、おそらく踏ん切りがつかなかった。今にして思えば、我ながら随分勇気があったと思います。ただ、もともと人の話を聞くのが好きで、人が集まれる場を作りたいっていう思いは前々からありましたし、こうして皆さんが来て下さるのもここがあったからこそですから、思い切ってやって良かったですね。

 

 

 

人との間を繋ぐのが「仏教」か「お酒」か、違いはそれだけ

  

 

 

――では、「バー」と「お寺」の位置づけや関係性についてはどのように考えていますか?

 

 

 

実はお店をオープンする時、直球に「坊主バー」にしようという話もあったんですよ。わかりやすく。でも最終的にはそれは表に出さず、たまたまやっている人間がお坊さんだった、という形を取りました。それくらいの感じでいいんじゃないかなぁと思っています。両者を故意に繋げるようなことは考えていませんね。ですからうちは本当に「普通のバー」なんです。突飛なことをしようとは考えていなくて、それよりもお酒を出す順番や出すときの作法などの、基本的な礼儀を大切にしています。

 

 

 

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――ではその上で、お寺とバーとで考え方が共通していることはありますか?

 

 

 

 

似ているなと思うところはありますね。例えば、法事などでご家族の方とお話をすることがありますが、その時その方がどう感じておられるのか、どう悲しんでおられるのかなどを感じながらお話をさせてもらうんです。お寺には、住職に話をして貰いたいから来られる方もいれば、何となく一人で仏様の前に正座したいと思って来られる方もいます。バーでも同じように、すごく楽しい気分で飲みに来られる方もいれば、嫌なことがあって話を聞いて欲しくて来られる方も、端っこで一人で何も言わずに飲んで帰られる方もおられます。その方がどういう思いでここに来たか、というのを一番大事にしていますね。

それぞれの方のお気持ちを、一方では僧侶として、一方ではバーテンダーとして感じ取りながら寄り添い、最適な距離感で接していくこと。そういう点では共通していると思います。私と皆さんとの間を繋いでいるのが「仏教」か「お酒」か、という違いだけですね。

 

 

 

――では最後に、これからBar18(eighteen)をどういうお店にしていきたいですか?

 

 

 

「普通」を続けていきたいと思っています。本当に、営業の軸を変えるつもりはなくって。例えばお客様の中には「アルバイトを雇って自分はオーナーになれ」とおっしゃる方もいるんですが、私自身はここに立つことが好きなんです。自分で現場に立ってお客様のお話を聞かせて頂きたくて、そうじゃないとバーをやっている意味もないかなぁと考えています。だから、今のままを継続したい。その「継続」というのが一番難しいと思います。今来て下さっているお客様を飽きさせず、かつ、迂闊な変化をしてもきっと来て下さらなくなるので、やはり常連さんを大事にすること、今あるご縁を大切にすることが一番かな、と思いますね。

 

 

 

 

――柱本さんの仰る「普通のバー」という言葉にはとても説得力がありますね。「普通」という言葉の中に、芯が通った清々しい意志を感じました。ありがとうございました!

 

 

 

Profile

キャシー
キャシー
Twitter:@cathyletter
京都発アートパンクバンド、my letterの元ドラマー。
現在は1リスナーとしてのんびりバンド界隈を眺める傍ら、ゆーきゃんバンドではサポートでサックスを吹くことも。
文章を書くのが好きで、学生時代に得意だった科目はもちろん国語。でも本当はずっと理系に憧れている。
いつも論理的・客観的でありたいなァ。