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俺の人生、三種の神器 -川端 安里人 ③さらば愛しのVHS-

 

▼俺の人生、三種の神器とは?

人生の転換期には、必ず何かしらきっかけとなる「人・もの・こと」があるはずです。そのきっかけって、その当時は気づけないけれども、振り返ると「あれが転機だった!」といったことはありませんか?そんな人生の転機についてアンテナ編集部で考えてみることにしました。それがこの「俺の人生、三種の神器」。

折角なのでもっとアンテナ編集部員ひとりひとりのことを知ってもらいたい!そんな気持ちも込めたコラムです。これから編集部員が毎週月曜日に当番制でコラムを更新していきます。どうぞお楽しみに!

 

 

三種の神器もついに3回目。第一回目でも書いたように自分語りは趣味じゃないし、幼い頃に形成された“何か”が全く違う方向に転換することはないと思っている。ましてや3回もとなるとそれはもう80超えてから考えろというか、まだ30歳にもなっていないのにコロコロしょっちゅう人生のベクトルが変わってたまるかというのが本音でして。もちろん人生の中で強烈に残っている人との出会いや別れ、思い出の旅先なんかは人並み以上にあるとは自負しているんですが、そういうのは心の中の宝箱にそっとしまっておきたい、自分のこと以上にあんまり話したくないので今回は映画編part2です。

 

 

 

うつりゆく映像メディア

 

 

レンタルDVDなんてマドンナのXXXくらい古びてる!」これは『サウスパーク』の2012年に放送されたハロウィン回での主人公スタンくんの言葉。Netflixで映画を観る子供たちと、時代を考えずにレンタルビデオ屋のオーナーになってしまった父親との話で、閑古鳥が鳴きまくるビデオ屋で親父が変になっていくという『シャイニング』のパロディなんだけど、『サウスパーク』は社会の矛盾や変化を極端に描いて笑い飛ばすカートゥーンなのでこの回では映像環境の変化というのがネタになっているというわけ。日本は映像メディアのインフラに関してアメリカやヨーロッパよりも10年ほど遅れているのできっと後5年くらいしたら日本からもレンタルDVDはほとんどなくなるんだろうなと思っている。実際先日京都に遊びにきていたイギリス人の友人(映画好き)をレンタルビデオ屋に連れて行くと物珍しさや懐かしさから大喜びで、楽しみつつもロンドンにはもうこんな店はないと少し寂しそうに話してくれた。

 



これから何が言いたいかというと自分の世代というのは実はこういう映画視聴環境における革新時期をまさにダイレクトに食らった世代だということ。part1で書いたように街にある昔ながらの映画館にもギリギリ通えたし、それらが廃館に追い込まれてシネコンに吸収されて行くのを目にして体感できた最後の世代だということです。ドキドキしながら初めて一人で行った美松劇場の最終上映はその名の通り『ラストショー』という映画で、映画館が閉まり、年老いたカウボーイが死ぬことでひとつの時代と文化が終わる様を描いたアメリカ映画の名作が上映され、その閉館日は自分が16歳になる誕生日まさにその日だった。ちなみに今は服屋も無くなって忍者レストラン、なんだよそれ。とにかくその時の「もう誰もここで映画を見ることはできない」という悲しみは当時イケイケ高校生である同年代の皆さんと共有できるはずもなく、一人とぼとぼと疎外感や悲しみ、そして最終上映で『ラストショー』を見たという感動に覆われながら美松劇場を後にしたのも未だに覚えている。

 

 

ラスト・ショー

 

 

 

ビデオ屋モナムール

 



さらに当時は映像メディアがVHSからDVDに移行するまさにその時で、街のビデオ屋さんなんかはその時代の波に乗れずに潰れていっていた。幼少期にヨーロッパ映画を借りる母にくっついてやってきては棚の隙間から見える『ヘルレイザー』のビデオパッケージやカウンターに貼ってあった『光る眼』のポスターなんかにビビりまくった思い出のビデオ屋さん、ホビーズもそんな中の一つで、今となってはパッケージをカウンターに持って行くと店員さんが奥の棚からその店の銀色ケースに入ったビデオテープをもってくるというシステムが今となってはすごく懐かしく感じる。
通いはしなかったものの借りに入ったことのあるビデオ屋さんたちは時代の波に飲まれ次第にポツリポツリとコンビニやケータイショップに姿を変えていった。今はTSUTAYAなんかに行けば置いてあるラインナップはどこも大して変わらないけど、当時はレンタルビデオ屋ひとつひとつにその店の特色、この店はヨーロッパ映画とホラーが多いとか古い日本映画が多いといった毛色みたいなのがあったのだ。自分が画一化される社会や新資本主義なんかを忌み嫌い『ゼイリブ』みたいな映画に熱狂するのはこの時のあのレアな映画が置いてあるビデオ屋さんがなくなって、日本中どこにでもある店に変わったという経験が尾を引いているのかな。

 

 

ヘル・レイザー

 

 

光る眼 [DVD]

 



一方寺町通や河原町通みたいな賑わっている所にはおそらく潰れたレンタルビデオ屋から流れてきたであろう中古のVHSを大量に売ってる店がいくつかあった、もちろん今はもうないけどね。BOOK OFFみたいな大手の店でもVHSは結構売られていた。とにかくそこでは100円~1000円くらいで種々多様な映画たちが投げ売りされ、新たな引き取り手を求めていたのだ。いつの頃からだろうか、もしかすると美松劇場が閉まったその帰り道からかもしれない、自分はそういう店に足しげく通い、まるで少年がポケモンをゲットするかのようにレアな映画をコレクトするようになっていった。そこにはコアな映画の話が同年代とあまりできないという悲しさやビデオ屋が潰れて行くという寂しさを映画のVHSを買って埋めるというダメな思考回路が働いていたとも言えるけど、それ以上に今ここでこのテープを買わないと二度と見れないかもしれないという危惧を少年映画オタクながら持ち合わせていたのだろう。ゴールデンウィークやお盆みたいな連休が来るとオタク友達とともに大阪の日本橋にまで映画のテープを求めて買いに行くこともあった。VHSの重みで紙袋が破れ、世界中の映画たちが路上に散らばる様を見たことがあるだろうか?自分はある。

 

 



ふと気づくとそれから10年以上が経過した。所持金のほぼ全てを映画に捧げた青春のおかげで自分にはコレクションができた。DVDやBlu-rayなんかは現在進行形で集めているが、それでも未だにVHSでしか見る方法のない映画は結構あるものだ。時代はまた変わりつつあって、自分の友人なんかでもかなり多くの人がNetflixなりAmazonプライムなんかで映画を見るようになり、正直なところ生き残っている街のビデオ屋もいずれその波に飲まれてサウスパークのビデオ屋のように消えてゆく運命なのだろうと思っている。もちろんネットで映画を見れるのは便利だし、そこにしかない映画があるのもまた事実だが、配給権やらなんやらの複雑な関係でビデオでしか、DVDでしか見れないという映画があるのもまた事実だ。でも何より寂しく感じるのはビデオテープの放つあのまごうことなき物質感だ。少年の手のひらには大きすぎるあの存在感がなければ自分は映画を身近に感じることはなかったかもしれない。
「観れるならどんな手段でも映画は観た方がいい」ととある映画評論家の先生が言っていた。もちろんその通りだ。そこに自分は一つだけ補足したい。オンデマンドに揃っているだけが映画と思うなよと。ミニシアターや美術館で組まれる特集上映なんかももちろんそうだが、デジタル化の波に流されていったVHS、そういった話題になることもなく忘却の彼方に消えゆく中にも本当に素晴らしい映画はあるんだ。DIGり続けろ!

 

 

 

最後に

 



最後に、高校時代、大学時代と足繁く通った“ふや町映画タウン”さんにこの場を借りて心の底からの感謝を述べたい。この店がなければ自分は今のように「映画好きです、色々な映画を観てます」と胸を張って言えなかっただろう。ここでどんな映画を借りて、店長さんとどんな話をしたか、それは自分の頭の中にある宝箱の秘密だ。

 

 

 

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この記事を書いた人

川端 安里人
川端 安里人
1988年京都生まれ

小学校の頃、家から歩いて1分の所にレンタルビデオ屋がオープンしたのがきっかけでどっぷり映画にはまり、以降青春時代の全てを映画鑑賞に捧げる。2010年京都造形芸術大学映像コース卒業。

在学中、今まで見た映画の数が一万本を超えたのを期に数えるのをやめる。以降良い映画と映画の知識を発散できる場所を求め映画ジプシーとなる。

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