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俺の人生、三種の神器 -川端安里人 ①映画との出会い編-

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▼俺の人生、三種の神器とは?

 

人生の転換期には、必ず何かしらきっかけとなる「人・もの・こと」があるはずです。そのきっかけって、その当時は気づけないけれども、振り返ると「あれが転機だった!」といったことはありませんか?そんな人生の転機についてアンテナ編集部で考えてみることにしました。それがこの「俺の人生、三種の神器」。

 

折角なのでもっとアンテナ編集部員ひとりひとりのことを知ってもらいたい!そんな気持ちも込めたコラムです。これから編集部員が毎週月曜日に当番制でコラムを更新していきます。どうぞお楽しみに!

 

 

 

人生の転換期?はっきり言って自分語りは趣味じゃないし、書きたいとも思わない。それに人生紆余曲折はあっても幼い頃に形成された“何か”が全く違う方向に転換することはないと思っている。それでもこのテーマで3回文章を書かないといけないのだから、映画コラムを毎月書いている身分としては必然的に第一回目のテーマは「映画との出会い」になるだろう。

 

 

映画との出会いはすごくあやふやなもだ。幼少期、トイレか何かで寝床から抜け出したときに父がテレビで見ていた「燃えよドラゴン」を横から一緒に眺めたのがおそらくは初めて見た映画だ。母が見ていたアンドレイ・タルコフスキーの「ストーカー」を横から見ていたのも覚えている。それらが映画との出会いかと聞かれるとすごく怪しい。どちらも強烈に印象に残ってはいるがその時はまだ意味がわからないどころか字幕も読めなかったはずだ。それでも親の影響か小学校の頃にはテレビでやっている映画を自発的に見るようになっていたし、家から歩いて1分ほどのところにレンタルビデオ屋ができたのも大きく影響しているだろう。小学6年生のありとくんに「映画は好きかな?」と聞けば「うん、好き!」と即答するだろう、しかし、まだ「映画を愛してる!」とは思っていないはずだ。

 

 

時は2001年、秋頃、911テロが起こる直前くらいの金曜日の夕方。13歳の川端安里人少年が新聞を広げ悩んでいる。視線の先は映画のタイムスケジュールだ。中学校から帰ってきたこの少年の頭にはテレビで見た「キス・オブ・ザ・ドラゴン」という映画の宣伝が何度もリフレインされている。宣伝で見たビリヤードのボールを空中で蹴り、それで敵を倒すジェット・リーの勇姿は完全に安里人少年を魅了していた。脅迫概念のようにこの映画を見なければならないという欲望が押し寄せてくる。ところが新聞の映画欄は残酷にもその日が上映終了日で、あと90分もすればその最終上映が始まると少年に告げている。見なければという考えは映画への期待が膨らみすぎた結果、いつの間にか見に行かなければという意思に変わっていた。

 

 

少年は考えた、忙しそうにしている親に今すぐ映画館に行きたいと告げてもビデオが出るのを待てと言われるのが関の山。こうなったら一人で行くしかない、そう決心した少年は親にちょっと出かけてくるとだけ言い残し家を飛び出した。

 

 

ところが愚かにも家を飛び出したこの少年はその映画館の場所がとんとわからなかった。親に頼ることはできないし、闇雲に自転車を漕いでたどり着けるとも思えない。スマートフォンなんか存在すらしていない。さらに付け加えると夕闇が迫る中焦るこの少年は、どちらかというとおぼっちゃん気質で育てられたがために夜の街に一人で繰り出したことはおろか、一人で地下鉄に乗ったことすらなかった。少年は悩んだ末に最後の手段とばかりに大通りに出るやいなや手を挙げた。一台のタクシーが止まった。「美松劇場までお願いします」精一杯緊張と焦りを抑えながら少年は運転手に目的地を告げた。

 

 

街に向かうタクシー、運転手が少年に話しかける「タバコ吸ってもいいですよ」大人びて見えたのか、老け顔だったのか、はたまた理由はわからないが緊張の面持ちで一人タクシーで夜の街に繰り出す少年への粋な皮肉なのかはわからないが、緊張と映画への期待で錯綜する少年を緩和させるのにぴったりな一言だった。「いや、ぼくタバコ吸わないんで…」

 

 

気がつけば辺りは夕方から夜に変わっていた。映画館はどうも奥まった場所にあるらしく、運転手は丁寧に行き方を少年に伝え、少年は礼を言うと一人映画館に向かった。「信号を渡って、商店街を突っ切り、ラーメン屋があるところを右に曲がる、すぐにピンク映画館があるのでそこを曲がったところ」運転手の指示に従い早足で歩く少年の頭の中にはある疑問が浮かんだ、ピンク映画ってなんだろう?答えはすぐにわかった。ポルノ映画だ、と言っても中学生にとっては見ちゃダメなえっちなやつ。なんとなく大人になったような気分とある種の背徳感のようなものを感じながらそのピンク映画館の角を曲がるとそこに美松劇場はあった。古き良き街の映画館といった趣のその映画館には「キス・オブ・ザ・ドラゴン」と書かれた大きな手書きの看板が掲げてある。そうして少年は一人映画館に入っていった。

 

 

今こうして文章を書いているパソコンから少し視線を左に反らすとそこには「キス・オブ・ザ・ドラゴン」のDVDが目にはいる。不思議なことにどうやって行ったかは今でもありありと思い出せるのだが、どうやって帰ったのかは全く思い出せない。

 

 

あれから15年がたった。美松劇場は10年以上前に閉館し、服屋になったその外観に少しの面影を残しているだけだ。今や街の映画館といったものはシネコンに統合され、手書きのポスターを目にすることもなくなってしまった。一人で夜の映画館に繰り出すことを怯えていた少年は今や映画を見ないと気が済まない性分になり、今では映画のコラムを書いたり、映画館の館長とラジオで映画の話をするほどの映画知識を溜め込むようになった。それでも15年前とはだいぶ様変わりした町並みをタバコをふかしながら車を走らせ、映画館に足繁く通うその心境は何も変わらない。映画への期待で破裂寸前だ。フィルムがデジタルに変わろうと、映画館がシネコンに変わろうとそこは変わらない、変わる必要もない。今「映画は好き?」と誰かに聞かれようものならこう答えるね「いや、愛してる」

 

 

 

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この記事を書いた人

川端 安里人
川端 安里人
1988年京都生まれ

小学校の頃、家から歩いて1分の所にレンタルビデオ屋がオープンしたのがきっかけでどっぷり映画にはまり、以降青春時代の全てを映画鑑賞に捧げる。2010年京都造形芸術大学映像コース卒業。

在学中、今まで見た映画の数が一万本を超えたのを期に数えるのをやめる。以降良い映画と映画の知識を発散できる場所を求め映画ジプシーとなる。

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