トップページ > 読みもの > インタビュー > 「MVは誰のもの?」インストバンドsowの企画、”1song,2videos”からみるMVのあり方とは

「MVは誰のもの?」インストバンドsowの企画、”1song,2videos”からみるMVのあり方とは

161125_sow-37

 

 

sowの1stフルアルバム『Route of migratory』には、Ryu (from Ryu Matsuyama) をゲストボーカルに迎えた、”I see what the city saw feat. Ryu”というコラボレーションソングが収録されている。

 

また今回アルバムのリリースにあたり、このコラボレーションソングを元に2組の映像作家がミュージックビデオを制作する、「1song, 2videos」というユニークな試みも行われた。何故今回ひとつの楽曲に対して二作のMVが生まれたのか、その意図を解き明かすとともに、多くの人間が関わり制作されているMVは、「一体誰のものか?」というあり方に迫るべく、ミュージャンの吉村和晃 (sow)、映画監督の金子智明 (映像家族yucca代表)、ミュージシャンであり映像ディレクションも行ったRyu (from Ryu Matsuyama) の三者それぞれの立場から話を伺った。

 

 

吉村和晃 (sow、voodolian、映像家族yucca)

yoshimura_artist

 

京都の激情幾何学インストバンド「sow」のギタリストであり中心的人物。

不定形音楽ユニット「voodolian」を発足するなど演奏家として多方面で活動。

さらにクリエイティブユニット「映像家族yucca」の発足メンバーであり

コンポーザーとしても活動しTVCM、映画など様々な映像媒体に楽曲を提供している。

 

Ryu (from Ryu Matsuyama)

ryu_artist

 

イタリア生まれイタリア育ち。20年間イタリアで暮らし、2010年より日本に移住、音楽活動を開始。

ピアノスリーピースバンド「Ryu Matsuyama」のピアノ・ボーカル。その他にもラッパーRyohuが率いるラップバンド「Aun beatz」のボーカル・キーボード、渡會将士(FoZZtone / brainchild’s/etc.)が率いる6ピースサザンファンクグループ「MW & the bull bull’s」のキーボード担当。

楽曲制作やボーカリスト、キーボーディストとしても多岐に渡り活動中。

 

金子智明 (映像家族yucca代表・映画監督)

kaneko_artist

 

田口トモロヲ監督「色即ぜねれいしょん」で映画製作に携わった事 がきっかけとなり、映像制作を始める。

初監督作「大好きなあやみちゃん」は ‘ぴあフィルムフェスティバル 審査通過、他映画祭では作品賞、 主演女優賞のダブル受賞。香港、韓国、カザフスタンなど海外の映画祭にも出品。 作品毎に変わるテーマの魅力を最大限に引き出す事をモットーに 映画、CM、MV 等、 様々なジャンルを制作。

 

 

映像家族yucca

 

関西で活躍する若手クリエイターが集まり映画制作を目的として2010年に結成。自主映画制作やインディーズ映画祭の企画運営などの活動を開始。

2014年から映像や音楽などを用いた広告の企画制作を行い、地域業種問わず様々な企業のブランディングを手がける。

映画制作チームだからこそ提案できる「心を動かす」映像表現を武器に様々な企画を展開する。

HP:http://www.yucca-works.jp/

 

 

 

 

デモ聴いた瞬間から「150%のsowで来たな」と思ったから、150%のRyu Matsuyamaで返した

 

 

——MVの話に迫る前に、まず今回sowとRyuさんが楽曲のコラボレーションをするに至った経緯をお伺いしてもよいでしょうか?

 

 

吉村:最初のきっかけはRyu Matsuyamaが関西ツアーで京都・大阪に来ていたときに、偶然2回とも共演させてもらったのがきっかけです。僕たちはインストバンドなんですけど、ゲストボーカルを入れて今までにない表現が出来たらっていう思いもあって、そういう人を探してはいたんです。

 

 

——Ryuさんはこれまで何かそういうコラボレーションをしたことはありますか?

 

 

Ryu:ないですね。特にインストバンドとコラボって、(相手が) 困るんじゃないかなとか思って、あんまり自分から言い出せなかったんですけど。でもsowはすぐに「やってみたい!」って思いましたね。

 

 

吉村:嬉しいですね。僕たちも今まで、メンバー全員が一致して「この人とならコラボレーションしたい!」っていう相手がいなかったんですよね。常にアンテナは張っていたんですけど中々見つからなくて。Ryu Matsuyamaは音楽的文脈をとっぱらって、とにかく「凄いな!」って感想が出てきました。こんなヤバい同世代が居るなら一緒に何か出来たらいいなと。

 

 

161125_sow-3

吉村和晃( sow )

 

 

——では、そうして通じ合ったsowとRyuさんが、今回の楽曲をどういうやりとりを経てつくり上げたかお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?

 

 

Ryu:それは……ある程度出来上がったデモを渡されたんですけど「これにメロディー乗せてね!以上」って感じで (笑)

 

 

——本当にデモだけ?説明もなく?

 

 

Ryu:「あとは自由にやってみてね、ハートみたいな(笑)」。どこまで歌をのせていいかとか何も聞かされなかったので自由過ぎて悩んだんですけど、「結局悩まなくていいか」って感じた瞬間にスムーズに出来たんで、これがコラボレーションの本質なのかなとは思いました。

 

 

——具体的にどういう部分に悩みましたか?

 

 

Ryu:sowはかなりの変拍子バンドなんですよ。それにメロディーのせろっていうのって、雪のないところに雪を降らせろぐらいの難しさがありますよね。あとは出来るだけコラボレーションを大事にしたかったので、どこまで歌ってどこまでインストを大切にするか、抜き差しにとても悩みました。

 

 

——この楽曲はコラボレーションするために書き下ろしたんですか?

 

 

吉村:最初歌が入ることを意識しようか、とかも話し合ったんですけど、結果的にはいつものsowの作り方にしようと。その上でRyu君がいつものsowの楽曲に、どういうアンサーを返してくれるかというワクワク感を持っていた。「想定としてここにメロディが入るだろうな」とかあったんですけど、それを伝えちゃうと面白くないなと。そうしたら想像以上に歌がのっていて、「こんなアプローチがあるんだ」って発見がありました。本当はデモを何回かやりとりするつもりだったんですけど、ほぼ最初にあがってきた形でレコーディングしました。

 

 

——Ryuさんは最初のデモから手応えはありましたか?

 

 

Ryu:そうですね。デモ聴いた瞬間から「これは150%のsowで来たな」と思っていたんですが、150%のRyu Matsuyamaで返せたんじゃないかと思います。

 

 

161125_sow-19

Ryu (from Ryu Matsuyama)

 

 

 

作品がもうひとつあれば、sowの楽曲の幅の広さを表現できる

 

 

 

——ではそのコラボレーション作品 “I see what the city saw. feat. Ryu (from Ryu Matsuyama)” のMVが二本生まれた話を紐解いていきたいと思います。まずは金子さんが1本目のMVを担当された経緯をお聞かせいただけますでしょうか。

 

 

吉村:Ryu君とのコラボレーションという新しい試みの部分に、MVでも何か新しい試みでリンク出来ないか、という考えがあって金子監督にオファーしたんです。僕は彼と大学を卒業してからずっと一緒に映像チームをやっていて(映像家族yucca)、彼の癖とか映像に対する考え方をよく理解しているので、今までsowのMVをお願いしたことがなかったんですよね。

 

 

——それは何故でしょうか?

 

 

吉村:sowは楽曲への具体的な意味づけを避けていて、お客さんの解釈に委ねるところがひとつの魅力だと思っているんですよ。それに対して金子監督は物語や人物の描写を大切にする作家なんです。だからsowの楽曲に物語を載せる、っていうのは少し違うんじゃないかなって思っていました。

 

 

金子:僕もsowの活動を近くでずっと見てきたし、音楽に対するスタンスを理解した上で、僕が我を出してMVを作るのは違うなって感じていましたね。

 

 

吉村:でも一緒に映像チームとしてやっているからこそ、いつか何かをお願いしたいなっていうのは常々あって。

 

 

金子:かねてからsowが楽曲のコラボレーションを出来る人を探していたのを知っていました。だからRyuさんとの話が持ち上がった時に、「ついに見つけた!」って聞いて一緒に嬉しくなったんですよ。そしてこのコラボレーションが叶ったら、新しい試みとして僕もやっとsowに関われるんじゃないか、って考えていたら初めてちゃんとオファーを貰いました。

 

 

吉村:今回Ryu君に楽曲の余白を残してお渡ししたけど、きちんと意図を読み取って返してくれた。この流れを映像でも出来ないかと思った時に、金子監督ならMVをうまく料理してくれるんじゃないか、っていう期待がありましたね。

 

 

金子: Ryuさんとの楽曲のやりとりに同じく、制作に当たって吉村さんから全然説明も、意見もないんですよね(笑)。でも楽曲もそうやって必要最小限のコミュニケーションだけで作ったというプロセスを聞いていたので、悩みに悩んで製作して、僕なりに面白さを見出していきました。

 

 

——金子さんが考える面白さとはどういったものでしょうか?

 

 

金子:今までのsowで言えばMVはモーショングラフィックスを使って、ライブシーンとエフェクトを足していくのイメージが合っていた。でも今回は”楽曲から感じたことを元に、自分の作品を作って欲しい”というオーダーだったので、Ryuさんがどんな想いでメロディや歌詞を載せているか聞くこともなく、映像作家としてのエゴを出させていただきました。

 

 

161125_sow-12

金子智明( 映像家族yucca代表・映画監督 )

 

 

——金子さんが楽曲を聴いてどんなストーリーを表現したかったのか、お伺い出来ますか。

 

 

金子:sowが奏でている音のストーリーと、Ryuさんの歌詞から光や夜を想像しつつ、断片的な映像を繋ぎ合わせることで、受け取り手に自由に解釈してもらえるような意味を持ちすぎない物語にしました。これRyuさんは怒るんじゃないかなって思いながらも、賛否両論がある作品でいいやと。そうしたら案の定、Ryuさん側からは「イメージと違う!」って言われちゃって、「そりゃそうだろう」と(笑)

 

 

——今回MVが二本出来たいきさつは、金子さんのMVに対抗してRyuさんがあとから制作されたということなのでしょうか?

 

 

 

 

Ryu:これね、金子さんには謝りたいんですよ。

金子さんの映像、何回も観たんです。素晴らしい映像だなと心から思ってるんです。こんなにテーマから外しながらも監督としての手腕を魅せてる、っていう感心ポイントがいっぱいあって。僕はそこに勝ちたいっていう嫉妬心もありますし、自分が楽曲に関わる中で見えていた映像っていうのをアーティスト・歌手として近づけたいっていう意味もあって二本目のMVを作らせてもらいました。決してケンカしたくて二本目のMVをつくりたかった訳じゃないんですよ(笑)

 

 

——Ryuさんが見えていた映像とはどういったものだったんでしょうか?

 

 

Ryu:金子さんのMVはわざとsowのイメージからは外していて、振り切ってるなっていうのを感じたんです。じゃあその逆の方向に振り切った作品がもうひとつあれば、sowの楽曲の幅の広さを表現できると思った時にそれを作りたいって思いました

 

 

金子:僕のMVを見て、自分のイメージと違うからボツにしろと言うわけでもなく、それをRyuさん側で作りたいって言ってもらったことがとても嬉しかったです。

 

 

——僕は両方のMVを拝見して、金子さんの作品は凄くRyuさんの歌に寄り添ったMVで、Ryuさんの作品はsowの楽曲に寄り添ったMVだなって感じて、不思議な関係だなって思いました。

 

 

Ryu:そうですね、金子さんのMVを観たときにすごく歌詞に添っていただいてるなと感じました。こちらのMV製作は僕の映像チームでやっていて、DRAWING AND MANUALの林響太郎監督とディレクションしたんですけど、「リズムと音だけに集中して欲しい」というのをずっと要望として出していて、それがうまく振り幅として表現できたのではないかなと。

 

 

——ビジネスライクに作るわけでもなく、sowの楽曲の魅力を深めて際立たせようとしてくれるクリエイターが2人もMV作ってくれるって、羨ましい話ですね。

 

 

吉村:本当に贅沢なことだと思っていますよ。どっちのMVに関してもsow側からこういうものにして下さい、というオーダーは一切してないんですね。この楽曲から何を思って映像に置き換えてくれるのか、っていうのが楽しみで。それを実際に2方向から見られるのはバンドとしては幸せなことだな、って今改めて思いました。

 

 

161125_sow-7

 

 

——このインタビューをするにあたってテーマがひとつあって、「MVって誰のものなんだろう?」っていうことなんです。今回のようにそれぞれの立場で作品としてのエゴや方向性が時にぶつかり、時に譲りあい、誰のものなのかよくわからなくなってくるなと。それぞれの立場からご意見を伺いたいのですが、いかがでしょうか?

 

 

Ryu:最初に発信する時はアーティストのものですよね。発信されたものが、そのMVを観た人に食べられて内臓に入ってその人のものになる、っていうイメージです。観た人、っていうのは誰なのか分からないですし、どう思うか、そもそも思わないのかも分からないけど。

 

 

金子: MVが映像作家のものだとは思ってないですね。僕は音楽はライブが全てだと思っていて、MVはそれに繋げるための伝達ツールだと思っています。MVもCDも記事も、ライブに繋ぐための伝達ツールのひとつで、僕はその映像の部分を担っているという認識です。

 

 

吉村:もちろん観る人のものっていうのは同感で、そこに対してどうアプローチしていくか、それはMVっていうより楽曲をつくるときに考えないといけないことですよね。

 

でもこちらがどこまで意図して楽曲を作っても、一人一人受け取り方が全然違うっていうのが面白いなと思っていて、最近はこちらが何を言わんとしているかできるだけ明記しないようにしています。

 

 

——今回の試みでそれは表現できましたか?

 

 

吉村:今回初めて楽曲に言葉がのったけれど、これだけ方向性の違うMVが2つ出来たっていうのは受け取り方の多様性が出来ていたということですよね。だから自分がやりたい形は成功したと思っています。

 

Ryu君のことすごいなって思ったのは、歌を入れたけどもきちんと受け手が考える余白を残してくれたっていうところ。だから観る人も、どんな捉え方をしてもいいから、映像をきちんと観て、楽曲をきちんと聴いて自分なりの何かを感じて欲しいなとは思います。

 

 

——MVの魅力はどのようなところだと思いますか?

 

 

吉村:映像と音楽が一緒になった時の面白さが間違いなくあって、音楽を作る側からみると、自分の想像を超えた発見がある時に面白いなって思います。映画にしてもCMにしても、音楽と映像って切っても切れない関係だし、使い方次第では相乗効果でどちらも何倍も魅力的に見せられる。

 

 

——それは今回、成功しましたか?

 

 

吉村:しましたね。sowは今まで自分たちの音楽を格好良くみせるためのMV、っていう一点特化型の作り方をしていたんです。でも音楽を映像に解釈してもらうことで、自分たち自身も楽曲の世界観が広がった。

 

 

——皆さんありがとうございました!

 

 

 

sow

sow_1song2videos

 

2008年結成。

メンバーチェンジを経て2011年現編成での活動を開始。

国内外のポストロックバンドと数多く共演。

アートイベントへの出演などジャンルレスに活動。

叙情的なフレーズと緻密な構成の楽曲は、

鋭角的、攻撃的なハードコアサウンドから

繊細且つ雄大なサウンドスケープまで多彩な表情を見せる。

HP:http://www.sow-web.com/

 

 

『Route of migratory』

sow_artist

ポストロック、マスロック、エモのサウンドを軸にジャズやエレクトロニカの要素を取り入れ、

独自のインスト音楽に昇華する、京都発、激情型幾何学インストロックバンド、sow。

激情と静寂の世界を余すことなく詰め込んだ初のフルアルバム。

 

2016年10月19日(水)発売

価格:2,000円(税込)

FBAC-006

 

1. migration

2. circle ratio

3. fata morgana

4. clockwork

5. 10th sentiment

6. carved pixels

7. beach

8. Run for

9. I see what the city saw feat. Ryu (from Ryu Matsuyama)

10. mirror

最新記事