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俺とマンガとお前と俺と 第11回「井の中から大海に出でよ!」

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アンテナ読者の皆さんこんにちは、名古屋造形大学マンガコースの石川です。

 

ついに……始まっちまいましたね、新学期……。フレッシュと言えばフレッシュですが、先月卒業生を送り出したばかりなのにもうまっさらな新入生が入ってきて「また一からかぁ」という気持ちです(笑)。教員の仕事なんて賽の河原で石積むようなもんだなあ……と(笑)。

 

と、いうワケでまたもや抽象的なお話で恐縮ですが、前回が編集者についてのお話だったので今回は投稿(持ち込み)する側である新人のメンタリティについて論じてみたいと思います。題して「井の中から大海に出でよ!」

 

 

 

 

ことマンガコースの学生に関して言えば歳にして二十歳前後、マンガもしくはキャラクターイラストに関心のある、ちょっと絵の上手い元高校生がほとんどです。そんな彼らに往々にして共通しているのは次の2点です。

 

 

A:「絵が描ける」というナゾの自信もしくは「描けない」という負い目がある。

B:絵もしくはマンガで「ダメ出し」された事がない。

 

 

Aに関して言えば自信があろうがなかろうが、それはキャラクター絵の事なんですね。自信があると言っても大学では全国からキャラ絵の上手い子が集まってくるので、それも早々に打ち砕かれる可能性が高い(他の子の描いた絵を見て密かにショックを受ける)。そうしてまた一生懸命に「皆に受けそうな」キャラ絵を練習したりするワケですが、まあ、その考え方は根本的に間違っているとは言わないにしても、マンガという観点からするといきなりズレてるのですね。

 

なぜならそうやってしゃにむにキャラ絵ばっかり描いている学生はストーリーへの意識が薄く、もっと言うと背景が描けない。結局キャラ絵も流行りのテンプレ画風の域を出ないので「上手い」けど評価の対象にはなりにくい。編集者はその辺の事も十分見透かしているし、もちろん職業柄プロをはじめとした全国レベルの上手いマンガ家志望者を何年も見てきているので、いくら流行りの絵が上手くてもそれだけで、欲しいのはむしろ流行を産むような絵の上手さなんですね。余談ですが、自分とあんまり歳の変わらないような編集の方でも深夜アニメからピクシブまで本当によくチェックされてますよ!だから絵のトレンドにも詳しいし、そこそこ上手いくらいじゃ大したアドバンテージにもならないワケです。

 

 

 

 

じゃあなんで勝負するかと言えば、やはり「ストーリー」なんですね。絵のハイエンドまで知り尽くした編集者が新人に求めているのは「絵+ストーリー」なので、内容にマッチした画力であれば良いのです。マンガにおける「画力」とはキャラ絵の上手さだけではなく、自分のアイデアを描くための「表現力」なのです。キャラ絵の魅力も確かに大事ですが、そこにしか意識がいかないのは完全な片手落ちです。もし編集者に評価されるような「絵の上手さ」を身に付けたいと思うのならば、むしろ背景を練習した方が近道かもしれません。

 

Bは、まあ無理もないのですが(笑)高校生とか学生同士の付き合いって「気遣い」が中心にあって、はっきり意見を言うなんてとても勇気のいる事だと思います(ちなみに自分も未だにそうw)。その事自体は良いのですが、そんな感じで生きてきた学生にとっていきなり編集や講師のダメ出しは、もしかしたら自分に対する才能の全否定に感じるかもしれません。ですが、重要なのはそれがビジネスの場における「公的」な意見であるという事。自分に対する否定というのは「私的」な捉え方ですから、そこの部分を混同すると一気に大好きだったマンガに対するモチベーションを失ってしまいます。

 

絵を描く事が自分の大好きな趣味でありプライドも含めてアイデンティティの一部となってる学生が、初めてビジネスの現場で意見をもらうという事はその「意見」を仕事始めるにあたってのアドバイスとして聞けるかどうか、その意識の変革がプロへの第一歩となります。つまり「ダメ出し」とはビジネスとしての「公的」なアドバイスであり、あくまで貴方の作品を商品として洗練させるためにはどうすれば良いか、という大変前向きな話し合いの結果なんですよ。怒るとか落ち込むとかより「これで自分の作品がステップアップする!ありがたい!」と思った方がポジティブだと思います(そうは言っても自分も散々落ち込んだので簡単には受け入れられないんですがねw)。

 

最初は「好きだから」とか「得意だったから」で初めていくうちに、いつの間にかそれが仕事になっている。それはとても幸せな事だと思います。ただそれを仕事に出来たプロセスの中には「どえらいダメ出し」や「めんどくさいビジネスマナー」といった紆余曲折がてんこ盛りであったはず。でもそれをも飲み込んだ上でまだ「好き」だと思えるでっかい感情があったからこそマンガ家は読者に夢を売り続ける事ができるのだと思います。

 

 

学生時代というのはプロ意識への移行のための4年間と言い切ってもいいと思います。十分な結果を出せなかったとしても意識改革さえできれば、それはプロへの第一歩としての大きな財産だと思います。とかく子供っぽい、よく言えばピュアなマンガ家志望者が「売れる/売れない」みたいな事考え出して薄汚れていく(笑)のを見るのは時に忍びない気持ちになりますが、人はいつまでも子供じゃいられないんだし、それが大人になるって事なんだよ!(笑)

 

 

というワケで今回のレクチャーのまとめ。

 

 

新人はスケールのでっかい「好き」を持て!

 

 

それでは次回またお会いしましょう!バインバイーン!

 

この記事を書いた人

石川 俊樹
石川 俊樹
石川俊樹プロフィール:1962年東京生まれ 大学卒業後浦沢直樹先生のアシスタントを2年勤めた後、マンガ家兼アシスタントとして業界で働く。現在名古屋造形大学造形学科マンガコース准教授。バンド「フラットライナーズ」Ba/Vo

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