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フラッシュバック・エモーション vol.7


 

 

【flashback】フラッシュバック

過去の出来事がはっきりと思い出されること。逆行再現。

【emotion】エモーション

 (心身の動揺を伴うような) 強い感情、感激、感動。

 

感情を大きく動かした出来事を思い出す時、そこには様々なカルチャーの存在がありませんか?「この曲を聴くと、楽しかったあの頃のことを思い出す」「哀しい時はいつもあの映画を繰り返し観たな」……そんな”喜怒哀楽×カルチャー”を毎回ひとつテーマに取り上げて、アンテナ唯一の女性チーム3人が思い入れたっぷりにご紹介します。

 

さて、満を持して”哀”のターン到来です。世の表現者たちは哀しみがあるからこそ作品を生み出すのではないでしょうか。そしてこれを読む皆さんも、数多の哀しい気持ちをカルチャーに救ってもらったことがあるはず。「自分だったら”哀”にどんなエピソードを書くだろう」と思い浮かべながら楽しんで欲しいなと思います。では、いざ、フラッシュバック!!

 

 

この数日、”哀しい”ということについて考えていて、思いました。

“哀しい”はとても暴力的で、外側から容赦無くもたらされる、逃れられない感情なのではないか、と。

 

“哀しい”に似ている気持ちとして、”寂しい”や”切ない”や”苦しい”がありますが、これらは皆自分の内側からやってくる感情です。主観的で、何らかの外的刺激をきっかけに体内から湧き上がるもの。自分の都合が大いに反映するもの。だからきっと自分次第で増幅することも、軽減することも出来るはず。けれど”哀しい”は違います。

“哀しい”は外側から何かに打ちのめされるようにやってきます。それはまるで、ピアノの鍵盤に向かって重力に従い指を振り下ろした時に鳴る音色のように、打算のない感情。自分の都合を差し挟まず、外側から加えられた力そのままに生まれ出る感情。だからとてもピュアで、危ない。

 

私が『メメント』を好きなのは、この映画が”哀しい”からだと思います。

 

 

監督はクリストファー・ノーラン。『バットマン』シリーズや『インセプション』、『インターステラ―』などが有名ですね。

 

 

抗えないということ

 

 

以下は、『メメント』のDVDパッケージに記載されているあらすじです。

 

目の前で妻を殺されたショックで、10分間しか記憶が持たない前向性健忘という記憶障害に冒されたレナード。たった今、過ぎた10分の自分がわからない……その中で、”復讐心”だけが彼にとっての<リアル>。

接触した人物は、ポラロイドで撮影し名前や場所をメモする。覚えておくべき感情と事実は、タトゥーにして体に刻みこむ。記憶をたどり記憶を読み解き、彼は犯人を追い詰めることができるだろうか?

 

これだけ読むと何だか壮大な復讐アクションを想像してしまいそうですが、全くもって間違いです。私は正直映画には全然詳しくないので偉そうなことは言えませんが、この作品は私が知る中でも一番トリッキーで、繊細で緻密な、哀しい映画です。

 

『メメント』が哀しいのは、どんなに頑張っても10分で直前の記憶が全て消えてしまう、その抗えなさのせいです。レナードは必死で抵抗して、何とかして忘れないように、忘れても思い出せるようにと策を凝らし体に刻み付け続けます。その姿がとても哀しい。抗いきれずに飲み込まれる姿が哀しい。事実を知って自分を騙すのが哀しい。それすらも忘れてしまうのが哀しい。忘れてしまうことすら織り込み済みなのが哀しい。どこまでわかっていて、どこからがわからないのか、何もかもわかりたいのか、全てをわかりたくないのか、迷子になっている孤独な人。誰も彼を救えない。彼は一人で、ずっと体を切り刻んで擦り減って、それでも何度も忘れてしまう希望を何度も追いかけて生きていくのです。生きる術がそれしかないから。それが哀しい。

 

 

 

本当に強烈なものは、とても静かだ

 

 

『メメント』は、全編通じてとても静かな映画です。復讐に燃える男の話ですが、BGMは終始スローなアンビエント風。周囲の人の声や環境音もとてもさりげなく効果的に使われています。あとは、ストイックに抑えられた色使い。これについては作品の核心に関わるので詳しく書くのを控えますが、独特の空気感と違和感を演出しています。観ていると呼吸がゆっくりになるのに、鼓動は速くなるような感覚。不安。緊張感。静かであるがゆえに逃げられない、流れ込んでくる感情。やりきれなさ。

 

 

 

 

最後にちょっと希望を持たせるところが残酷。

 

 

この作品の最大の特徴は”時間の見せ方”のトリックで、記憶が途切れてしまうことを強く印象付ける素晴らしい演出です。初めて観た時は「これ作った人天才か」と思いました。けれど、単にそうしたテクニックだけでは終わらず、これ見よがしに「ほら見てごらん、哀しいでしょう」とも言わずしてこんなに哀しい作品を生み出すところが、何よりも天才的です。どうやったらこんなものが作れるのでしょうね。脱帽です。羨ましい。

 

 

以上、幸いにも割と楽しくのほほんと生きててあまり哀しくないキャシーより、大好きな”哀しい”映画をお届けしました。……あ、哀しくはないけどたまに寂しくはあるので皆さん仲良くしてください。ここではネタバレが出来なくてうずうずしているので、『メメント』を観たことのある人は一緒に話が出来るといいですね。あのシーンのあの隠しトリックなんて、見つけた瞬間電撃が走るくらいに衝撃的ですよね、なんて。にやり。

 

 

過去の記事

 

①vol.1 by キャシー

 

②vol.2 by 稲本百合香

 

③vol.3 by 齋藤紫乃

 

①vol.4 by キャシー

 

②vol.5 by 稲本百合香

 

③vol.6 by 齋藤紫乃

 

この記事を書いた人

キャシー
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Twitter:@cathyletter
京都発アートパンクバンド、my letterの元ドラマー。
現在名古屋在住のアンテナ遠距離組。最近のマイブームはカセットテープのジャケ買いと、グランパスくん。

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