トップページ > 読みもの > 編集部コラム > 川端安里人の2015年映画ベスト10+α

川端安里人の2015年映画ベスト10+α

cinemagypsy_tokubetu
 
 
 
 
一年が経つのが本当に早い。自分の友人たちが次々とこう口にしている。たしかに、2015年はあと数日で終わる。早いような気もするが、ふと映画祭や映画館に行った記憶を思い出すと、「あ、これを観たの今年だったか」と思うので、やっぱり気のせいなんだろう。そんなことよりも、自分にとって今年は映画豊作の一年であった。ということで、2015年に観た映画群を振り返り、その中から新作映画をベスト10形式で紹介します。

 
 
あと新作ではないけど、本当はランキングに入れたかった映画もプラスαで書いています。もちろん、完全に主観で選んでいる&今年やった映画を全て見ているわけではないので、「どうして侯孝賢の『黒衣の刺客』が入ってないんだこの野郎」というような意見が様々あるとは思いますが、お手柔らかに (観れなくて悔しい思いした作品多数あります) 。あ、それと世紀の大大大傑作『神々のたそがれ』は自分去年のイメージフォーラムが初見なんで、今年のランキングには入れてないです。それにこの記事は12月18日現在のトップ10なんで、『クリード チャンプを継ぐ男』や『スターウォーズ・フォースの覚醒』と言った年末の話題作は未見状態です。
 
 
では、ランキングに行く前にリバイバル枠として、自分が特集上映やら映画祭やらで観た過去からの猛者たち (素晴らしき映画たち) を紹介します。
 
 
 
 
 
『限界』(1931年)
監督ーマリオ・ペイショット
  
今年ブラジル映画批評家協会が歴代ブラジル映画第1位に選出したこの映画、自分は恵比寿映像祭で見ました。なんなんでしょうこの衝撃。ちょっと自分の中の映画史観を塗り替えるほどの映画だと思います。ムルナウの大傑作『サンライズ』を初めて観たときに感じたものに近い何かを感じる。映画がまだ純粋だった、余分なものが含まれていなかったころの息吹きみたいなものを、半ば化石と化したフィルムから今でも十二分に放っています。パブリックドメインのため (?) 、Youtubeにフルで上がっているので気になる人は是非!
 
 

 
 
 
『やさしい女』(1969)
監督ーロベール・ブレッソン
 
HDリマスター上映での鑑賞。大学時代、映画好きの仲間たちとバイブルのように扱っていたブレッソンの著書『シネマトグラフ覚書』が脳裏に蘇る戦慄の一本。半世紀近く経っているとは思えないほどフレッシュで度肝を抜かれました。特に映画が始まった瞬間から死んでいる、もしく記憶として甦らされている女が終盤突如として記憶から解放され (このシーンだけ誰の回想でもない過去なんです、つまりこのシーンでのみ彼女は人の記憶から独立して生きていると言えます) 鏡に向かって微笑むシーンの美しさ、恐ろしさ、素晴らしいですね。それと、主人公が舞台に文句をつけるシーンは映像で見る「シネマトグラフ覚書」といった趣でブレッソンファンは必見です。
 
 

 
 
 
『チリの闘い』(1975~1978)
監督ーパトリシオ・グスマン

 
山形国際ドキュメンタリー映画祭で観た一本。これに限らず今年の山形で観たラテンアメリカ特集は『マリナ・サビーナ 女の霊』、『死を刻んだ男ー20年後』、『大地、記憶、未来の私たちの声』などなど凄まじい傑作群で、自分は完全にその熱波にやられてしまいました。その中の一本『チリの闘い』は全三部、計263分の記録映画で、軍事クーデターによって空爆される大統領官邸、撃ち殺されたジャーナリストの残した最後の映像、繰り返されるデモ、スト、アジテーションの数々、もはや歴史となったこれらの出来事を“見る”のではなく“体感”することができる映画。上映終了後の会場の熱気も含め、映画は“体験”なんだと改めて認識しました。
 
 
 
『訪問ーあるいは追憶と告白』(1982年)
監督ーマノエル・ド・オリヴェイラ

 
1908年生まれで今年4月に逝去するまで生涯現役だった映画界の巨人、オリヴェイラが死ぬまで公開を許さなかった一本。その正体は極めてプライベートな家の記憶であると同時に、僕たちへのあらかじめ記録された「さようなら」だった。この粋な事実を前に何をどう言えばいいのかさっぱりですが、オリヴェイラからのさようならを聞けただけでも山形まで行った甲斐はありました。もちろん号泣しましたよ。ありがとう、そしてさようならオリヴェイラ。
 
 

 
 
 
『5月の後』(2012)
監督ーオリヴィエ・アサヤス

 
2012年の東京国際映画祭で上映された時から傑作という話を評論家のK先生から聞いていて、監督の著書でもある原作『5月の後の青春』を愛読した身としては、京都みなみ会館でおこなわれたアサヤス特集で観れたことに感謝の念しかわきません。もちろん、噂通りの大傑作。個人的に今まで少し引いた、もしくは冷めた目線で見えていた、見ていた“あの時代”の学生運動をもっとも身近に感じ取れた一本です、それだけキャラクターに血肉が通ってるって事ですね。見終わった後すぐに「あぁすぐにこの映画の世界に戻りたい (見返したいってことね) 」と思える青春映画の素晴らしい一本です。国内版は出そうにないから海外版Blu-ray買おうかな……。
 
 

 
はい、というわけでリバイバル枠を紹介したので、これからトップ10に入ります。
 
 
 
 
 

 
 
10.『インヒアレント・ヴァイス』
監督ーポール・トーマス・アンダーソン

 
この映画は70年代LAという恐ろしいほど明るく開放的な迷宮が舞台です。ジャックターナーの『過去を逃れて』やデビッド・リンチの『ロストハイウェイ』といったミステリアスなノワール作品が大好きな自分としては、ノワールやハードボイルドというジャンルは謎や事件そのものの迷宮的世界を楽しむものだと常々思っているのです。内容がよくわからないという声も聞きますが、その捉えどころのない、よく分からなさこそがこの映画最大にして、最高の魅力だと思います。やはりポール・トーマス・アンダーソンの演出は手堅い、そしてホアキン・フェニックスを始めとするアンサンブルキャストが素晴らしいですね。
 
 
 

 
 
9.『ブラックハット』
監督ーマイケル・マン

 
巷ではクリス・ヘムズワースが天才ハッカーに見えないだの、ハッカーが前線に行くなだの、原発事故をなめすぎだなどなど酷評も聞きます。だけど『コラテラル』以降マイケル・マンがデジタルで撮る夜景に陶酔しきっている身としてはそんなの些細な問題なわけで (だって映画ですよこれ) 、香港ノワールなど、アジアで特殊進化したガンアクションへのマイケル・マン流アンサーとして立派に機能している一本だと思います。インドネシアの祭の中で行われる最後の決闘はまさにマイケル・マン的世界を濃縮したような、ため息が出るくらい美学に満ちた名シーンなので、そこだけでも十二分にトップ10ランク入り確定です。
 
 
 

 
 
8.『草原の実験』
監督ーアレクサンドル・コット

 
全編セリフなしで進行する映画ということで話題になっている映画です。この映画は京都では1月5日までみなみ会館でやっているので、ぜひ劇場で見て欲しい一本。男優陣の表情の豊かさ (悪く言うと顔面のうるささ) がジブリ的というか、アニメ的で少し鼻についたりもしましたが、そんなことより主演のエレーナ・アンを発見しただけでこの映画の勝利は約束されていたのかもしれません。彼女は三つ編みをほどくだけで映画になる逸材です。そしてラスト、衝撃のあまり、久しぶりに上映中に「えーっ!?」と呟きそうになったとんでもない映画です。恐るべしロシアの芸術映画。
 
 
 

 
 
7.『ナイトクローラー』
監督ーダン・ギルロイ

サイコパスで最悪のクズ野郎による最低のサクセスストーリーなのに、なぜこうもこの映画は魅力的なんでしょうか。おそらくそれは倫理観を忘れて観れば、近年稀に見る優れたサクセスストーリーであると同時に、「すごい映像を撮りたい (観たい) 」という報道パパラッチである主人公の欲望は、実は観客の願望そのもの。それはつまり我々観客の歪んだ欲望を、見事に映画的に昇華してくれているからだと自分は思います。また終盤にある逃走車を追跡するパトカーをさらに追跡するというツイストの効いたカーチェイスも非常にフレッシュな魅力を加えてますね。ところで、主演のジェイク・ギレンホールが『トイストーリー』のウッディに見えるのは自分だけですか?そうですか。

 
 
 
6.『アラビアンナイト』
監督ーミゲル・ゴメス

 
ポルトガル経済の危機を描くドキュメンタリーとして始まり、ゴメス監督が現場を放棄して走って逃げ出すという衝撃のシーンから、見事に現代のおとぎ話へと変容する魅惑の計6時間21分の映画。恐ろしいまでにアイロニーとユーモアに満ちたこの映画は21世紀の映画表現の可能性を押し広げる一本です。残念ながらまともに公開されることはなさそうだし、ソフト化も厳しいかもしれませんが、気になる人は監督の前作『熱波』を見て、来るべき『アラビアンナイト』再上映の機会に備えておいてください。自分はゴメス監督に惚れ込み過ぎちゃって08年の日本未ソフト化作品『私たちの好きな8月』という作品の海外版DVD買っちゃいました。
 
 
 

 
 
5.『薄氷の殺人』
監督ーディアオ・イーナン
  

男を破滅に導く魔性の女、ファムファタルなんて既に死語で、絶滅危惧ジャンルだと思っていましたが、現れましたね中国から。ジェイ・チョウ監督作の『言えない秘密』から気になっていたグイ・ルンメイが見事に薄幸ミステリアス美人を演じてます。日常を非日常に変化させるアイテムや、舞台設定の数々がとにかく素晴らしく、凡庸な内容も撮り方次第でジャンルの枠を超えるフレッシュでアクの強い“変な映画”にすることが可能だというお手本のような作品です。好き嫌いがキッパリ別れるタイプの作品だとは思いますが、ラストのクッソダサい曲も含めて自分は大好きです、この映画。
 
 
 

 
 
4.『フォックスキャッチャー』
監督ーベネット・ミラー

 
金メダリスト兄弟と孤独な大富豪の奇妙な三角関係を描くこの映画は、通常ルサンチマンの対象になるであろう彼等こそがもっとも承認欲求が満たされず爆発寸前であると描いた作品です。すさまじく陰気な映画ですが、アメリカ (正確には共和党などの右翼政党) が元来持つ愛国主義とマッチョイズムが突き進みすぎて、もはやそれが病理と化している様を強烈なアイロニーとブラックなユーモアをこれでもかと詰め込んだ驚愕の一本。それと同時に、マッチョであろうとすることでしか生きられないこの人たちは可哀想だなという同情を起こしかねない、冷徹な演出に見えて登場人物への愛情も感じる不思議な距離感を保つ戦慄の映画です。※ここちょっと意味がわかりにくいです!実話が元ですが、映画的に見事にカリカチュアされた実在の人々を見事に演じきったスティーブ・カレルを始めとしたキャスト陣の完璧に死んだ魚の目演技含めて必見です。
 
 
 

 
 
3.『はじまりのうた』
監督ージョン・カーニー

 
1960年代にフランスで起こったヌーヴェルバーグは当時の観客に、カメラをスタジオから解放し、路上に持ち出すことの素晴らしさを提示しました。今でこそ野外ロケなんて当たり前の時代ですが、この映画は我々にカメラをストリートに出すことの意義を、その瑞々しさを再認識させてくれる素晴らしい一本です。そして何が良いかって路上でアルバム録音をするという内容とその効果が見事にリンクしているという所です。マルーン5のアダム・レヴィーンが俳優デビューするハッピーな音楽映画でしょと舐めてかかっていた自分を叱りつけたくなりましたね。号泣しました。アクが強い映画リストの中でこれは誰にでも勧められる一本です。キーラ・ナイトレイの歌声も堪能できるサントラもおすすめです。
 
 
 
2.『トトと二人の姉』
監督ーアレクサンダー・ナナウ

 
今年の山形ドキュメンタリーで観た本当に、本当に素晴らしい一本です。正直なんでこれが受賞しなかったんだと一ヶ月くらい憤ってました。ルーマニアにある麻薬中毒者の溜まり場となっている団地に住む少年トト君と二人の姉のドキュメンタリーなんですが、劣悪な環境の中でこれからどう生きていくかを描く前半と、ある厳しい決断を下して以降の後半における表情の変化、子供らしさを取り戻していく過程に感動しないはずがないでしょう。SWATチームの突入を警察の証拠用映像からひっぱってくるなど非常に意欲的な作品で、多くの人に見てほしい一本なんですが、今現在見る方法は山形にある映画祭のライブラリーに行くしかないんですよね、公開希望!
 
 
 

 
 
1.『マッドマックス 怒りのデスロード』
監督ージョージ・ミラー
  

今まで散々小難しそうな映画並べといて一位『マッドマックス』かよと言うツッコミが聞こえてきそうですが、映画が誕生したきっかけは写真が動いているのを見たいという極めてシンプルなものだったはずです。そしてそれが劇映画やドキュメンタリーの誕生とともに、いかに動くか、いかに動いているものがある空間を切り取るかと進化、変容してきたんです。そして誕生から約120年たった今、シンプルに“動いている”そのこと自体への感動を一切の無駄なく味わえるこの映画は一位以外にありえないでしょう?この映画が1秒でも良いと思えないなら、もう映画観なくていいと思います。自分はトラックが砂を巻き上げて炎をかき消すシーンで涙が出ましたよ。
 
 


通勤通学用にサントラもどうぞ

 
 
 
さて、2015ベストランキングどうでした?観た映画は入ってましたか?映画の楽しみ方は人それぞれ違うと思うし、趣味も違うので、あくまで川端安里人の心に残った映画ランキングとして何かの参考程度にしてください。今年は人気シリーズの新作やらが大量にあって、年始にはどうなるか期待に胸膨らましてましたが、いざ一年見続けると心に残ったのは意外とマイナーなやつが多かったですね。ランキングを見てもらうとわかると思いますが、自分ちょっと変な映画、アクの強い映画が好きなもんで、2016年もそういった映画を紹介していこうと思います。それではよいお年を!

 

 

Profile

川端 安里人
川端 安里人
1988年京都生まれ

小学校の頃、家から歩いて1分の所にレンタルビデオ屋がオープンしたのがきっかけでどっぷり映画にはまり、以降青春時代の全てを映画鑑賞に捧げる。2010年京都造形芸術大学映像コース卒業。

在学中、今まで見た映画の数が一万本を超えたのを期に数えるのをやめる。以降良い映画と映画の知識を発散できる場所を求め映画ジプシーとなる。

最新記事