COLUMN

川端安里人のシネマジプシー vol.14『モーターウェイ』

2017.03.17

川端 安里人川端 安里人

 

何故みんな香港映画を見ないのか

 

 


ご無沙汰してます。実は今京都みなみ会館の館長と一緒に月二回ラジオに出演させてもらって、映画の話をしているんですが、「香港映画は無茶苦茶面白いのになぜ公開規模が小さいのか。もっとはっきり言うならなぜ一部の層にしか人気がないのか」と最近よく話題にあがります。

 

自分が小学生くらいの頃までは、ジャッキー・チェンの映画を始めとした、香港映画が大きいスクリーンでもかかっていた記憶がありますし、ウォン・カーウァイのような当時新進気鋭だった監督が雑誌やらに乗っていたりと、そこそこの市民権を得ていたはず。『冬ソナ』で韓流ブームが来て以降くらいでしょうか、今や有名監督の映画ですら良くてミニシアター行き、数年待ってDVDスルーなんてのもざらに増えてきました。悲しいなぁ、香港映画無茶苦茶面白いのに!

 

 

 

 

他にもですね、香港映画が浸透していないなと言う瞬間にも立ち会いまして、先日アンテナの関係で伺ったきのこ料理専門店で働いていたお兄さん (イケメン) が、ショーン・ユーにそっくりだったんです。そこでショーン・ユーに似てると話題にしたところ、「誰?」って感じで話が通じなくて……、自分の中の「みんなこの映画、映画人なら知ってるだろう」レベルがまたまた下がった瞬間でした。ショーン・ユーは香港映画のこれからを担うスター俳優ですよ!悲しいなぁ、香港映画無茶苦茶面白いのに! (2回目)

 

 

 

安心と信頼のスタッフ陣による香港でのカーチェイス

 

 

と言うわけで、今回はショーン・ユー主演の比較的最近の香港映画『モーターウェイ』を紹介します。

 

 

 

さて、この『モーターウェイ』の話はというと、極めてシンプルで”交通警官VS裏社会の凄腕ドライバー”、ただそれだけです!ただそれを描くのに90分間じっくり時間を使います。もちろん、こんなあらすじだけなら、アメリカやヨーロッパ、世界中で制作されている何百本もあるカーアクション映画と変わらないですね。

 

でもここが香港映画会の腕の見せ所。個人的に香港映画というのはギャングもの、ラブストーリー、ホラーといった既存のジャンルを、香港という街にローカライズ化させて、そこにフレッシュなアイディアを落とし込む能力が抜群にうまいと思っているんですが、この『モーターウェイ』は、香港という曲がりくねった坂や、細い路地の多い街でいかにカーチェイスを展開させるかに焦点を合わせています。

 

 

 

 

例えばこれがお金を大量にかけられるハリウッド映画なら、大通りを封鎖して車が何台も横転するような物量作戦でのド派手なカーチェイスが起こるところでしょう。しかし、この『モーターウェイ』では、電気を消して裏路地に隠れる、何十台も車が止まっている立体駐車場の中でエンジンを吹かせて排気ガスで煙幕を作る、そして何よりの見どころが車一台分の細さしかない狭い狭いL字道で時速2kmでのスピンターン、そういった技とスキルによって敵ドライバーであるサンと主人公の警察たちのロジカルな駆け引きを楽しむことができます。ハリウッドの映画にもライアン・ゴズリング主演の『ドライヴ』のように隠れるロジックを使う車映画が無いわけではないんですが、ここまでレベルの高いスキルを長時間拝める映画は他にはありません。

 

 

 

 

この『モーターウェイ』はソイ・チェンという監督の作品でして、彼は世界三大映画祭であるヴェネツィア映画祭でグランプリ候補に上がったことのある実力者です。「事故に見せかけてターゲットを暗殺する完全犯罪のプロが、仲間の事故死をきっかけに疑心暗鬼に陥って行く」という一風変わったサスペンス『アクシデント 意外』という映画で高い評価を得ました。その実力はこの『モーターウェイ』でも十二分に発揮されています。

 

また鬼才ジョニー・トーが制作という形でバックアップしており、この人は『アクシデント 意外』でもソイ・チェン監督と組んだ香港映画会の重鎮であり、フランスでドキュメンタリー映画が制作されるほどヨーロッパで絶大な人気を誇っています。この人の監督作はクセが強くて本当に面白いので、またいずれコラム書きますね。

 

つまり何が言いたいかというと、香港映画好きからしたら安心と信頼の制作陣という訳です。二人ともギャングもの、ノワールものが得意な監督だけあって、この映画でも夜の怪しい街並みが美しく、魅力的に描かれていますよ。

 

 

 

名優が脇を固める車のカンフー映画

 

 

物語の序盤では、主人公である覆面パトカーのドライバー、ショーン君はまんまと敵に逃げられてしまうんですが、いつも頼りげのない引退間近の同僚ローが、実はサンと因縁深い凄腕のドライバーだと知り、彼からスピンターンの技術を教えてもらいます。ここでピンときた人は結構香港映画見てますね?血気盛んな主人が敵に敗北→近くにいた一見しょぼいオヤジが実はベテラン→特訓を組んで技を覚える→宿敵との再戦というこの流れ、実はカンフー映画の王道パターンです。

 

 

 

 

アイヤー、この映画、武術を車に置き換えた香港映画の伝統を守る作品だったんですね。時にサービス精神が暴走してギャグがベタベタだったり、残酷描写が過激すぎたりする香港映画ですが、『モーターウェイ』はカンフー映画的な王道ストーリーで、なおかつ香港ノワール的な夜の香港特有の雰囲気も楽しめる、喜怒哀楽がしっかり詰まってる映画だと思います。

 

車好きは超絶テクニックを楽しむもよし、ショーン・ユーのイケメンぶりに惚れ惚れするもよしな一本です。個人的にはロー役でアンソニー・ウォンという俳優さんが出てるのも魅力の一つで、この人は凶悪殺人鬼から普通のおじさん、クールな殺し屋から本作のような頼りないけど実はすごい警官までなんでもできる香港を代表する役者さん。この人の出演作を追うだけでもここ30年ほどの香港映画の流れをざっと追えるんじゃないかと思うくらい、出ている映画のバリエーションが豊富な名優です。

 

『モーターウェイ』はクセや香港映画特有のウェットな感情表現が少ない作りで、入門にもってこいの一本です。さらに香港映画を見尽くした人には逆に隠された香港映画のエッセンスを楽しめる、誰もが楽しめる映画だと思います。騙されたと思ってぜひ一度見てみてください。

 

 

ちなみに3/18日より京都みなみ会館で上映開始のソイ・チェン監督の新作『ドラゴン×マッハ!』は、香港とタイのアクションスターを共演させたアドレナリン全開間違いなしの大傑作なので、こちらもお見逃しなく。

 

 

 

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